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朝の通勤電車。
車両には通勤のサラリーマンや通学の学生達がぎゅうぎゅうと詰め込まれている。
それを見ると雅子は真空パックに入れられた、じゃこを思い出す。
もちろん彼等は死んだ魚のような目をしている。
皆取り憑かれたように、またはそれが宗教の儀式のように顔を俯かせ、スマホを無表情で見ている。
雅子もスマホを取り出し、ネットニュースが載っているアプリを開く。
サラサラと読む。日本のニュース。そしてスポーツニュース。エンターテイメントニュース。
雅子はあるニュースの見出しではっと手を止めた。その見出をクリックするとその記事が表示された。
[ジョンミン! 芸能活動復帰! 変わらぬ美しさ! ]
ジョンミン。
以前出会ったキジュと名乗る韓国人の男の子。
彼はジョンミンにそっくりで本人かもしれないと考えていたが、結局彼が本人かどうかもわからず、
キジュは韓国に一時帰国するとのことで連絡が途絶えていた。
そういえばあれから連絡もない。雅子は記事を読み始める。
[ジョンミンは新しい事務所と契約を結んだ。韓国の有名な俳優や歌手がたくさん所属する事務所である。
以前と変わらぬ美しい美貌。少し男らしく成長したジョンミン。
ドラマの出演が決まり、すでにその撮影に入っているという。今後彼から目が離せない。]
そしてジョンミンの写真が掲載されている。
そこにはハンサムでほっそりした男性が少し澄ました顔でこちらを見ている。
新しい事務所の宣材写真なのだろう。
やっぱりこれはキジュだ。目元なんかそっくりだ。
一緒に話していた時の彼を思い出す。身体を絞ったのだろう。細く見える。
うーん。驚いた。キジュが韓国に帰ったのは事務所が決まったから。
ジョンミン=キジュだった。
雅子は少しスッキリした。本人かどうか気なっていたのは事実だ。だからと言って何も変わらない。
ただ可愛い思い出だ。笑うとタレ目になる、優しい眼差しの目と顔に合わない低い声。
手を優しく繋いでくる柔らかい感触。少しの間それらを思い出し、優しく心のメモリーにしまう。
素敵だったキジュ。キジュも新しい人生を歩み始めたみたいだ。
駅に着いたので、車内の人を掻き分け、雅子は電車を降りた。
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