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寒い夜。仕事の疲れのせいか頭がぼんやりとしている。仕事を終え、雅子は家まで歩いていた。
空には三日月が浮かんでいる。冷たい風が吹く。
そんなとき、先日購入した、カシミアのストールが雅子を暖かく包み込んでくれてているような気分になる。
このストールは肌触りが良く本当に暖かい。買ってよかった。あの店を思い出す。
優しい雰囲気だったオーナ。素敵な空間。なぜだか居心地がよかった。またあの店に行こう。
そう言えば店員を募集していた。もしあそこで働けたら……。
今のモーダ8は居心地が悪い。
店員同士の関係で精神的に疲れる。あの上司二人は嫌いだ。嫌いだからやめる。では無い。
大変だから辞めるでは無い。無理してその場所にいる必要はないかもしれない。
世界は広い。身体と心を大切に。雅子に未来のイメージが浮かんで来た。
モーダ8は辞めようか。もう辞めよう。
そしてあの素敵なお店に働けるか聞いてみよう。
雅子の抱えていたものが突然軽くなった。雅子が持っていた箱の中の物
[何か=今いるべきでない場所にさよならを言う行動]が箱の蓋から出て空に飛んでいった。
三日月が美しい夜。悶々としていたものがすっ飛んだ。
ストールは柔らかく相変わらず雅子を優しく包み込んでくれている。
綺麗なオレンジ色だ。
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