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サモナー大戦記  作者: 晴ノ雲雨/八咫ハルト
第ニ章 第二次ザラント会戦
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第九話 迎撃作戦

 帝国召喚魔導軍、本陣――



「――勝ったか」


 伝令の戦勝報告を聞き終えると、ダニエルの唇が自然と吊り上がった。


「……我が軍にあれほどの竜騎兵部隊が存在していたとは……」


 若き参謀将校は唖然と呟き、隣の上官へ問いかける。


「しかし、一体誰が」

「――赤髪紅瞳の彼女だよ」

「なッ!」


 エクフイユ少佐が目を見開く。

 ダニエルは唖然としている彼を無視して語り始めた。


「彼女の召喚士階級サモナーランクは少将――つまり正真正銘の将官級召喚士官ジェネラルサモナーだ」

「ば、馬鹿な……あの歳で将官級だなんて」

「生まれながらにして次元が違うのだよ――」


 若き参謀将校は、え?という顔をした後で、何かに気が付いたのだろう。次第に驚愕の表情へと移り変わる。


「彼女の本名はナディア・ドゥ・ラグハイム――」

「まさか……」

「――史上最高位の総魔力量を所持しながら、なかったことにされた皇族だ」


 エクフイユ少佐は息を呑む。


「……なかったことにされた、とは、それはまた……どうして」

「彼女の父親は今上のすぐ上――先帝として生まれた人間だった」

「先帝というと、皇位を継承しながらその直後に亡くなられた?暗殺されたとも謀殺されたとも噂されていますが」


 先帝は十九年前に若くして急死、その様な噂が帝都に流れた事がある。


「ああ、その噂は恐らく真実――今上派の何者かに謀殺された疑いが強い」

「……」

「本来なら、産まれた直後であった彼女も消される運命だったはずだが、ナディアには政敵達にすら惜しいと思わせる絶対的な素質があった」


 運命を変えてしまうほどの才能。


「それが召喚士階級少佐という――別次元の初期総魔力だ」

「初期召喚士階級で佐官とは……」


 大尉まではこの五十年で数人確認されていたが少佐は記録にない。間違いなく歴代最高位として誕生した召喚士官だろう。


「当時の宮廷は、忠実であり強力な軍事力を有する手駒を欲していた。赤子であるナディアに都合のいい教育を施せば利用できると考えたのだろう」

「では、あの歳で将官級なのは……」

「幼いころから戦場に従事していた事が理由だ。私にも彼女の戦功を別人に偽造するように何度か密命された」


 手駒に余計な名声があっては使いにくいと考えているのか。


「まあ、佐官級の少女召喚士官が戦場を駆け、戦功を積み重ねているなど、この目で見なければ信じられない話だがな」


 それ故に、ナディアの名が広まらず、今日まで新たな将官級召喚士官ジェネラルサモナーが誕生していたのを一部の人間にしか知られずに済んだ。


「しかし、その政治的事情のお蔭で皇国に奇襲が成功した。私も苦労したかいがあったというものだ」

「よく宮廷貴族たちが了承しましたね。彼女の事が大陸中に広まるのは避けられないでしょうに」

「流石にいつまでも隠してくのは限界だった。だったら皇国に対する奇襲として最後に活用した方が合理的というやつだ。それだけ皇国のエルネスト方陣が厄介だったのもある」


 何より――とダニエルは後を引き継ぐ。


「名声があっても彼女が裏切らない確証があるのだろう」

「……」

「ロクでもない手段なのは想像つくがな」


 ダニエルはそう言い捨て、その場から立ち上がる。


「――さて、我々にもまだ仕事が残っている」


 そして、獰猛な笑みを浮かべた。



「これで皇国の息の根を止めてやるとしよう」







 大陸歴一二五六年 五月十七日――



 早朝。

 エルヴェル皇国軍本隊は、ザラント平原から東に二十 ルーク(約二十三km)の距離に布陣していた。

 帝国の苛烈な追撃から一時的にだが撤退に成功したのだ。

 これも撤退支援部隊として殿を務めた、第四召喚旅団と正規軍の奮闘あってのこと。


 そして昨夜、第一〇五召喚中隊の面々も本隊と合流――

 レオンは、帰還報告を済ませた後、中隊天幕の方へと歩いた。

 召喚士官サモナーたちの表情には疲労が色濃く浮かんでいる。


(無理もない)


 絶対の自信があったエルネスト方陣を破られ、士気が低下しているなか此処まで殆ど休みなく行軍してきたのだから――



 設置された中隊天幕に入る。

 中央には簡易式のテーブルがあり、その周囲に椅子が並べられていた。

 空席が目立っている。

 埋まっている椅子は半分ほどか。


 ――軍議の時間にはぴったりなはずだ。

 レオンが末席に腰掛けるとテレーゼが懐中時計を取り出した。


「……時間ね、軍議を始めましょう」


 幕僚たちの顔を改めて見回す。


「先ずは、此処まで生き残ってくれたこと嬉しく思う」


 第三旅団は正体不明の竜騎兵部隊に前線を崩されたあと、敵騎兵の突撃に耐え切れずに敗走した。

 それに伴い中隊の面々もバラバラに遁走、本隊に合流できたのは半数を僅かに超える程しかいない。


「しかし、皇国は滅亡の危機に瀕している以上、今の私達には戦友たちの冥福を祈る時間すら満足に与えられていない」


 幕僚たちが神妙な表情で頷く。


「では、上から伝えられた迎撃案を説明する」


 テーブルの上に地図が広げられる。

 布陣しているこの場所を中心に、南北には険しい山々がそびえる。その左右に切り立った斜面では馬を率いて越境することは困難を極めると思われた。

 端的に言えば、この地方一帯は丘隆の底――山間の盆地といっていい地形である。

 そして、この場所から東に十 ルーク(約十一km)の距離に南北に広がる森林地帯があり、手前には小高い丘が描かれていた。

 テレーゼが地図を指す。


「森林地帯に可能な限り歩兵を展開しての迎撃戦――それが上で纏まった結論よ」

「――妥当ですね」


 副官のヘルムス中尉が頷く。


「森での戦いであれば騎兵の優位はありません。単純な頭数が物を言います」

「頭数を揃えるだけなら、種族適性が歩兵系統である、我々皇国軍が依然として優位であります」


 幕僚たちが口々に同意の意を示した。


「そうなれば帝国も兵を引くことになるでしょう」


 ある幕僚がそんな事を口にする。



 レオンは指先を額に当てた。


(……確かに、帝国は兵を退却させるだろう)


 帝国にはもはや無理をする理由は無いのだから――


 皇国を大きく後退させたことで、帝国は後顧の憂いなく、アスグリン王国攻略に集中できる。

 アスグリン王国単独では、帝国の進攻を防げないだろう。

 皇国が帝国と再び開戦した理由がそれだったぐらいだ。

 アスグリン王国が滅びれば、皇国の滅亡も時間の問題。


(守りに入れば皇国はどちらにせよ滅びる)


 少なくとも帝国側にも無視できない損害を与えなくては、皇国に未来がない以上〝迎撃〟なんて選択肢は最初からありえない筈だ――


(しかし、この状況を打開できる策になると)



 軍議が迎撃作戦の詳細な打ち合わせに移行する中、レオンはただ一人地図を睨み付けていた。

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