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サモナー大戦記  作者: 晴ノ雲雨/八咫ハルト
第ニ章 第二次ザラント会戦
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第七話 エルネスト方陣

 帝国召喚魔導軍、本陣――


「――遂に皇国の召喚魔導軍が出てきたか」


 灰色の髪に赤い瞳をした初老の男が一人ごちるように呟いた。

 帝国の召喚魔導軍を率いる司令官、ダニエル・ドゥ・ミストラル大将だ。


「正規軍を後退させるように伝えよ」


 傍らに控えいた伝令に命令を出す。

 そして周囲を見回しながら立ち上がった。


「ここからは、召喚士官と召喚士官の戦いだ」


 他の幕僚たちが緊張した面持ちでうなずく。


「……」


 それを遠目に眺めている女が一人。

 燃えるような赤髪と未だ若々しい外見が印象的であった。

 すると、ダニエルは本陣の端で控えていた彼女に目配せする。


「――……」


 赤髪の女は頷き返すと、誰よりも先だって本陣を退出した。


 彼女と入れ違いに三十代と思わしき、参謀の一人が本陣へと戻ってくる。

 彼は歴戦の古強者が並ぶ帝国召喚魔導軍の本陣から、妙齢の女性が出てきたことに目を丸くする。


 そして、その後ろ姿を見送ったあと――


「……彼女は一体何者なのですか?」


 上官に疑問をぶつけた。


「相当若い女性に見えましたが」


 赤髪紅瞳の女は、どう見積もっても二十代――下手をすれば十代後半すらありえた。


「この場に居たのだ、高位の召喚士官に決まっているだろう」

「……あの歳で佐官とは、相当優秀なのですね」


「――エクフイユ少佐」


 ダニエルが唐突に部下の名前を呼びかける。


「貴様は帝都に居たとき、皇族に帝国史上最高位の召喚士官が誕生したという話を耳にした覚えはないか?」

「……確かに、十数年ほど前から噂されていましたが……」


 彼――エクフイユ少佐は突然の話題に戸惑いながらも後を紡いだ。


「しかし、あれは只の噂ですよね?もし真実であれば国内外に大々的に喧伝されているはずですから」


 皇室の権威を示すのにこれ以上うってつけのものも無いだろう。


「それに十数年前といえば、召喚士官と召喚士官を危険視する勢力の対立で、帝国が揺れていた時期と重なります」


 その頃の帝国は、大陸中央の敵対勢力をあらかた葬り去っていた。

 そのことで人々は戦勝ムードから冷静さを取り戻し、召喚士官の持つ軍事力が、我が身に振りかかったらどうなるのか、と次第に不安を覚え始めた。


 そして、中でも最も怯えたのは皇室とその周囲の宮廷貴族――


「自身の地位が召喚士官に奪われるのを恐れ、創りだされたのが、その噂話の正体ではないのですか?」


 宮廷の求心力を強め、国内の潜在的な反乱分子であった召喚士官に対するせめてもの牽制と抑止力。

 それが帝国史上最高の総魔力量を持って誕生した皇族召喚士官の正体だと、エクフイユ少佐はそう言っているのだった。


 未だ歳若い参謀をチラリ、と見やる。


「――それが只の噂話かどうかはこれから分かるであろう」


 ダニエルはこれから始まる出来事に思いを馳せて口元を歪めた。






 緑の平原には一糸乱れぬ、六つの巨大な正方形が描かれていた。

 それらは軍靴の底で大地を踏み鳴らし、ゆっくりとした速度で前進している。


 レオンも召喚兵士サモンソルジャーに囲まれながら足を動かす。

 前方には帝国の召喚魔導軍が待ち構えている。予想通り騎兵が中心の編成だった。

 そして、敵との相対距離が三十 クース(三〇〇〇m)を切った辺り――


 ドォン!と砲声があがった。


「……砲撃が始まりました」


 空気を震わせる咆哮。

 思わずといった様子で隣のカリーナが一人ごちる。

 レオンも白煙のあがる敵陣営へと視線を向け。


「大丈夫だ、帝国の砲兵部隊は少ない」


 白煙の本数から推測するに、敵召喚砲兵の数は決して多くない。

 敵召喚兵士サモンソルジャーの数から逆算しても、多く見積もって二十門程度だろう。


「それに――」


 レオンの言葉を先取りするかの如く、後方から味方砲兵部隊の指揮官が号令をかける。


「撃ち方、始めッ!」


 敵の砲撃が届くということは、味方も射程距離に入ったという意味に他ならない。

 皇国側も二十門の砲兵部隊が十分に距離を詰め応戦を開始した。


「敵騎兵部隊、突撃してきます!」


 カリーナが前方を指さす。

 砂埃を巻き上げて迫りくる騎兵集団。

 すると、隊列のいたる場所からラッパが吹き鳴らされる。


「第一〇五召喚中隊、襲撃に備えなさい!」


 テレーゼが凛とした声音で命じた。


 エルネスト方陣の最前列に位置する召喚兵士が、主である召喚士官の命令に応じて各々戦闘態勢をとる。

 一列目は地面に膝を突き、二列目は直立して銃を構えた。

 そして、三列目の槍兵パイクが味方の間に差し込むようにして長槍を前へと突き出す。

 騎兵部隊との距離は既に十 クース(九七二m)を切っていた。


 銃兵が装備している小銃の有効射程は精々一.五 クース(一四五m)――射撃を始めるにはまだ遠い。


 山なりに撃てば弾は届くかも知れないが、帝国の正規軍と同じ鎧で身を固めている召喚騎兵を仕留めることは不可能だろう。

 それに召喚銃兵の射撃回数が増えれば増えるほど、主である召喚士官の精神摩耗は酷くなる。

 そして精神摩耗が限界を超えると召喚士官は意識を失う。当然だが戦場での気絶は自殺行為に等しい。致命傷にもならない無駄弾を消費して疲弊することなど出来なかった。


 思案している間にも敵が近寄ってくる。

 相対距離五 クース(四八六m)――

 あっ、とカリーナが声をあげる。


「敵召喚騎兵――左右に展開を始めました!」

「……そのようだな」

「どうするつもりでしょうか?」

「側面、背面に迂回しようと試みているように見えるが」


 第一ザラント会戦では、帝国はある程度の犠牲は覚悟うえで召喚騎兵突撃させ、皇国の陣形に乱れが生じないか試みたようだが――


「しかし、乱れを生じるどころか、近づくことすら困難なのが現実であったらしい」


 前列に配置されている銃兵に散々に撃たれ、生き残った戦力では槍兵の槍衾を突破することは不可能だったのだ。


「これは前回の失敗で学習した結果なのだろう」


 縦横無尽に駆け巡る召喚騎兵を見据える。


「だが、エルネスト方陣はそれ程甘いものではない」

「何故ですか?」

「それは見ていれば分かる」


 カリーナは口を閉ざした上官と共に戦場を眺める。


「……凄まじいですね」


 すると納得した様子で頷く。


「四隅にいる銃兵のお蔭で、完全に死角が無くなっています。騎兵部隊に隙を突かせていません」

「ああ、それに――」

「それに?」

「旅団と旅団の間隙を突破しようとしても両面に配置されている銃兵からの射撃で挟撃される。敵は一時離脱を繰り返すほかない」


 先ほどから、帝国の騎兵部隊が如何にか迂回しようと試みたが、旅団を横一列に並べた陣形と四隅に配置されている銃兵のおかげで迂回が困難な様子であった。


 どのような状況にも対応できるように配置されている銃兵。それらを接近戦から守るための槍兵パイク――


「エルネスト方陣はまさに鉄壁と呼ぶに相応しい」


 そう、鉄壁なはずだ――



 その時、生暖かい風がレオンの首筋をなでた。


召喚指揮官ユニーク

召喚兵士を率いる召喚兵士。

主である召喚士官の指示を受け下の召喚兵士に命令する役割を持つ。

数百、数千の軍勢を単体で率いる場合に必要。


魔力消費量10

適性によって消費魔力が変化する事は無い。固定値。


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