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サモナー大戦記  作者: 晴ノ雲雨/八咫ハルト
第ニ章 第二次ザラント会戦
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第四話 大陸の歴史

 

 本部天幕の中に、第一〇五召喚中隊の幕僚たちが居並んでいた。レオンも末席として軍議に出席している。


「先ずは、おさらいとしてこの戦役の大まかな経緯を説明しましょう」


 テレーゼの視線が隣へと向けられた。


「ヘルムス中尉」


 テレーゼの目配せを受けて、一人の女性軍人が席から立ち上がる。


「説明を代わらせて頂きます」


 歳は二十代前半といったところか。彼女は召喚士官サモナーで、中隊内ではテレーゼの副官を務めていた。


「先ずは大陸の歴史をおさらいします」


 ヘルムス中尉が説明した大まかな概要はこうだ。


 召喚士官が突然この世界にあらわれ始めて五十年――

 各国が召喚士官に軍事的利用価値を見いだすのに時間はそう掛からなかった。十年もすると召喚士官は軍事の要となっていた。

 そして、各国の中でも次第に周辺諸国に猛威を振るい始めたのが現在のラグハイム帝国。魔族の種族適性による大量の騎兵運用戦術で小国を次々と滅ぼし、大陸中央の支配を確固たるものとした。


 ヘルムス中尉の凛とした声が後を紡ぐ。


「次に帝国が矛先を向けたのは、我がエルヴェル皇国」


 皇国も、帝国と同じく周辺諸国に先立って召喚士官に目を付け、軍事に取り入れた事で人族が統治していた小国の数々を併合していた。

 そして、覇権主義と覇権主義の両国ともに領地を拡大したのだ。行きつくところは火を見るより明らかだった。


「今から約十五年前、両国は全面戦争に突入――両国の国力、軍事力では当初互角かに思われ均衡が続くかに思われました。それは装備、兵数、召喚士官の数では両国とも殆ど変わらなかったからです」


 彼女はそこで首を左右に振る。


「しかし、種族適性の違いで召喚騎兵数に大きな差が付き、次第に皇国は戦線を後退することになりました」


 五年前には、皇国最大版図の半分まで領地が縮小し、現在の国境――今回の戦役でも両軍が睨み合っている――ザラント平原まで追い詰められた。


「このまま、滅びを座して待つのかに思われた皇国に一人の英雄があらわれます」


 すると、彼女が隣の上官を一瞥する。


「それが、皆さまも周知の通り、当時少将であられたエルネスト中将閣下です」


 元々、数々の戦で活躍していたエルネスト中将だが、このままではじり貧とみた皇国が存亡をかけて挑んだ一大決戦――第一次ザラント会戦でエルネスト中将の名は天下に轟くことになる。

 兵数も召喚士官の数も帝国と二倍以上の差が付いていた皇国だが、それ以上に問題だったのが、敵の召喚騎兵。

 これをどうにかする対策が無ければ、戦いにすらならない。


「そして、エルネスト閣下が編み出した召喚騎兵を止める戦術こそ、かの有名なエルネスト方陣」


 エルネスト方陣とは、まず槍兵パイクに縦深二十五列程度の四角形に並べた陣形を組ませ、その槍方陣の四方を二列の銃兵で取り囲む。そのさらに、四隅に縦深五列程度の銃兵で小方陣を組むことで全方位に死角がなくなる陣形。


「帝国はこのエルネスト方陣の前に大損害を被り撤退を余儀なくされました」


 だが、この会戦を契機に皇国の大規模な反撃が始まる事にはならなかった。長期の戦役で疲弊していた皇国には反攻作戦が可能なほどの余力は残されていなかったのだ。

 そして、それは帝国も同様。お互い、長年の戦役で疲弊していた両国は、ここで一旦小康状態に移行する。


「さて、両国が再び戦火を交える事となったのはそれから五年後。皇国とアスグリン王国の同盟が切っ掛けでした」


 アスグリン王国は、大陸中央の北部に位置するマリアン半島を中心にエルフ族が長年統治している歴史ある大国。元々の歴史が長い事も影響あるのか、それとも民族性なのか、基本的にあの国は保守的だ。

 帝国とも領地が接しているため、前々から小競り合いはあったが、半島ゆえにそれも限定的だった。


(まあ、今まであの国が動かなかった一番の要因は、帝国と皇国の共倒れが狙いであったことは明らかだが)


 積極的に動かなくとも漁夫の利を得られると考えていたのだろう。前時代ならそれも間違いではない。しかし、召喚士官が登場し始める近代以降ではそれは大きな誤りだ。


「皇国と帝国が小康状態の期間中に、一度大規模な戦力で王国が帝国領内に進攻した事がありました」


 皇国に大敗した帝国の残存戦力を調べる強行偵察の意図があったのか。


(いや、王国唯一の少将(召喚士階級サモナーランクは大佐)を将軍に据えたことから本格的な侵攻作戦だったのかも知れない)


 今となっては想像する事しか敵わないが、一個召喚旅団と正規軍三万の大規模な動員であったことは確かだ。


「ですが、王国の目論見がどうあれ、結果としてその作戦は失敗に終わります」


 ヘルムス中尉が息を呑む。


「――それも、殆ど一人による帝国召喚士官サモナーの活躍によって」


 帝国は長きに渡る戦役で疲弊していたのと、突然の王国軍強襲によって、援軍の編成が間に合わず、当初一個召喚大隊と北部方面軍一万だけでの応戦となる。

 当然の如く防戦で時間を稼ぎ、援軍を待とうとしていた北部方面軍の上層部たちに、前線視察で偶然、国境付近に訪れていた帝国のある将官召喚士官が――


『私と諸君らがいれば、本国の援軍など無用。それどころか既に戦力過剰ですらある』と――大胆不敵に宣言したらしい。


 そして、それが只の世迷言で無い事を王国は身をもって思い知る。


 その将軍はたった一人で、五千を超える召喚兵士サモンソルジャーを呼び出し、王国召喚士官によって編成されていた旅団を一気呵成に粉砕した。

 召喚士官が実戦を経て、戦功を積み上げることでしか、召喚士階級が成長――昇進しない以上、実戦経験が帝国より圧倒的に少ない王国では、彼に対抗する召喚士官が育成されていなかったのだ。

 この逸話は各国が改めて高位の――特に将官級の召喚士官がいかに重要か思い知る一戦となった。


「この一戦により、もはや王国単独では防衛すらままならない事を理解した王国上層部は皇国に対して同盟を打診」


 頼りにならない同盟相手とはいえ、居ないよりマシ――というよりどちらかが滅びれば、もう片方も帝国によって滅ぼされるしかない呉越同舟の関係である事から、二つ返事で両国は同盟関係を締結。


「そして、王国は召喚士官育成のための――戦力増強が目的の外征による機軸政策を打ち出します」


 今までのように、領地や資源を目的としている戦争ではない。

 召喚士官がこの世界に誕生して、戦力の増強のために戦争を選択するという、前時代とは戦争のやり方どころかその目的すらも一変した。

 各国は生き残るために覇権主義になる事を迫られたのであった。


「その結果、帝国の戦力を引き付ける陽動の役目が皇国に回ってきたため、皇国は再び帝国と戦火を交えることに」


 これが第二次ザラント会戦までの大まかな経緯である。





「説明ご苦労、ヘルムス中尉」


 テレーゼがヘルムス中尉を労う。


「次は会戦での編成について話をしましょう」


 彼女を座らせ、後を引き継いだ。


「皇国は通常部隊が連隊、召喚士官は旅団ごとに、エルネスト方陣を編成。第一〇五召喚中隊は槍兵パイク中心の構成となる」


 正規軍と召喚魔導軍では旅団にも違いが見られた。

 皇国では通常、三千人前後で旅団と規定されているが、召喚士官の旅団は四五〇人前後で構成される。これに兵科に応じた召喚兵士サモンソルジャーが加増される変則旅団。

 エルネスト方陣に必要な隊列と兵科に対応した場合だと、大体二千弱の召喚兵士が召喚される。

 これを召喚士官と合わせると二千強から三千弱、通常の旅団に遜色ない規模だ。


「そして――」


 テレーゼが言葉を溜め一瞬の間が出来る。


「――第一〇五召喚中隊が所属する第三旅団の指揮はフランツ少将閣下が執られる」


 その言葉で、幕僚たちの顔に安堵の色が浮かんだ。


(召喚魔導軍は実力主義の組織だが、上層部に無能――否、無能というには語弊がある、出世する事に特化した人物と言うべきか)


 勝つためには〝文字通りの意味で〟どんな犠牲も厭わないという高位の召喚士官も少なくない。それは不死の兵――召喚兵士という存在が身近にあることも大きく影響していると思われる。

 フランツ少将は老齢だが、それ故に手堅い指揮を執られる方だと評判であった。


 テレーゼがゆっくりと付け足す。


「では、諸君の奮闘に期待する」



 彼女が言い終わると同時に、天幕に勢揃いしていた幕僚たちが一斉に敬礼した。

適性について


種族適性(種族に適した兵科を召喚する際に魔力消費を五割減とする)


魔族   騎兵系統

人族   歩兵系統

エルフ  弓兵系統

ドワーフ 銃兵系統


個人適性(自分の適性に応じた兵科を召喚する際に魔力消費を二割減とする)

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