第一話 夢
ゆらゆらと一面に揺らめく、紅の炎。
降り注ぐ、火粉の雨。
――ああ、またこの夢か。
「――ッああぁああぁあぁぁぁああああ――ッ!」
人族の青年は鮮血の絨毯に倒れ込んだハーフエルフの女性を抱きかかえ、天を仰いで慟哭する。
夢の中特有のあやふやさもあって、二人の顔ははっきりと認識できない。
しかし、青年が抱きかかえる女性には、幼馴染である彼女の面影が――
――もう、幾度となく見た夢。
目を覚ませば忘れてしまう、なのに夢の中ではこれは過去にも見た夢だと鮮明に思い出す。
そして、次に現れるだろう一人の仇敵の存在も――
「――現地人にしては頑張った方だと思う」
予想通り、一人の男が忽然と姿をあらわす。
「時代を先取りした戦略に戦術。その先見性は英雄と呼ぶに値するものだった」
正直、何をいっているのか半分も理解できない。
少なくとも十五年間生きてきた人生にこのような知り合いはいない。なのに、何故か記憶に違和感が残る。
「サモナーという特殊な存在と転生者特有の知識チート――この二つの相乗効果で最強チートに等しい私でも、なかなか手こずったぐらいに」
青年の周囲を不死の兵――召喚兵士が取り囲む。
「でも、それももう終わりだ」
男が右手を振り上げる。すると召喚兵士が漆黒の銃を構えた。
何度か見た夢の中で、仇敵はその銃を〝sniper rifle〟と呼んでいたのを覚えている。
「――死を持ってさよなら、というのは転生者である私には相応しくないか――」
青年が男をじっと睨む。
「必ずッ、貴様を殺す」
例え、世界が違おうと死んで生まれ変わる事になろうとも、仇敵の容貌を細部にわたって一つでも見落とすことのないように――
「では、縁があったらまた会おう。君が運よく転生することが出来たとしたなら、な」
男が唇の端を吊り上げた。
手を振り下ろすと同時に、甲高い銃声が周囲に響く。
すると、糸の切れた人形の如く血まみれの青年はハーフエルフの女性と重なり合う。
――暗転。
そこで夢は真っ暗な闇の中へと消え去る。
そして、漆黒の背景に意識だけが取り残された。
「いやな夢だ。本当に趣味が悪い」
――いや、目が覚めれば忘れてしまうのだ。
……だったらせめて夢の中ぐらいでは、認めるべきなのだろう。
これが夢ではなく、もう一つの過去であることを――