シンジュちゃん
「シンジュちゃん、たっだいまーー」
ピクちゃんが声を掛けると、シンジュちゃんの本体である巨木、真樹の根元から30センチ程の高さにある洞からヒョイって感じで、身体の背後が薄っすら透けている見た目が5歳くらいの女の子がパッっと笑顔で顔をだした。
俺も手をふりながら声をかける。
「ただいまーシンジュちゃん」
『――、――』
「あるじもおかえりだって~」
音声として俺には伝わってこないが、手を振りながら笑顔でむかえてくれるシンジュちゃん。
なぜかシンジュちゃんと初めて会ったときから会話が成立していたピクちゃんが、あいだに入って通訳してくれるから意思の疎通は十分可能だ。
今でこそ、こうやって積極的に意思を伝えようとしてくれるが、姿を現し始めた最初の頃は、俺が何かアクションを起こす度に洞の内に引っ込んでしまい大変だった。
それを思うと感慨深いものがある。
「ここからはピクの同時通訳でシンジュちゃんの言葉をリアルタイムでおとどけします。」
「あいさ~、頼むねピクちゃん。でも先にシンジュちゃんの部屋にお届け物だね」
「うん、今日はシンジュちゃんにお土産があるから一度部屋に行こっ」
『嬉しい、アリガト』
二人は連れ立って洞の内のシンジュ部屋へ入って行く。
微笑ましく思いつつ見送って、俺は自分のホームへ入ろうとしたのだが……
「あああっーーーーー!!!」
「えっ、何っ!? なになに? 何よっ? 何があった!?」
突然上がったピクちゃんの大声にビックリしてワタワタしていると、木の洞からシンジュちゃんがバビュッーーー!! って感じで飛びだしてきて、まさに幼女魚雷のごとく頭から俺の腹につっ込んできた。
何ごとかと思いつつも、半透明で触れることの出来ないシンジュちゃんは後方にすり抜けていってしまうと――――いくはずが俺の腹にポフッって感じで収まり、額をグリグリしてから俺を見あげてニパッっと素晴しい笑顔を魅せてくれる。
「あるじっーーー! シンジュちゃんがぁっーーー!」
「おぉぉ……」
俺は、しゃがんで視線の高さをシンジュちゃんに合わせてから、恐る恐るシンジュちゃんの頭を撫でり撫でりしてみる。
「ピ、ピクちゃん……俺シンジュちゃんの頭ナデナデしてる?」
「してるしてるっ!!」
「おおおっ――」
今度はシンジュちゃんの両脇に手をさし入れて“たかい、たかい”しながらグルグル回ってみる。
「ピ、ピ、ピクちゃん! 俺、今シンジュちゃんに“たかい、たかい”してる? 一緒に回ってる!?」
「してるよっ! 回ってるよっ!!」
身体が透けているせいか触れ合うことも出来ず、偶然接触するはずの状況であっても身体をすり抜けてしまう。
そのたびにシンジュちゃんの寂しそうな悲しそうな表情を俺とピクちゃんは見ていただけに尚更だ。
「うおおーーー! ど、どうなっちゃった。もしかして赤石?」
俺はシンジュちゃんを下ろして手をつなぎ、小走りでピクちゃんのもとへ話を聴きにいく。
「うんうん、なんかねシンジュちゃんの部屋の棚に飾ってみたらね、スーってスゥ~って赤い石が真樹に溶け込むように消えていってね、そしたらフワッってシンジュちゃんが光ってね、治まったら触れるようになってたんだよっ!!」
ピクちゃんも大興奮で自分の見た状況を俺に身ぶり手ぶりしながら一生懸命説明をしてくれる。
俺も興奮ぎみで説明を聞いていたそのとき、正にそのとき天恵がごとく頭のなかに、もう本当にキュピッーーン! みたいに効果音つきでひらめいた。
んんんっ!? 直接物に触れることができるようになったってことは!!
「そうだ! シンジュちゃんに良い物を出してあげるよ」
アイテムボックス内にホワイトボードが入っているのを思い出し、こちらに文字を見せた時に逆さまになってしまわない様に、クリエイト系魔法で横に回転させられる様にショルダーベルトを取り付け、シンジュちゃんの首に掛けてあげる。
「ど、どうかな、重くない? 邪魔じゃないかな? 一回使ってみてよ、シンジュちゃん」
『うん、大丈夫だよ。ありがと』
「やったー、ピクの通訳とボードでさらにコミュニケーションがスムーズになるね」
「あと、俺の気のせいじゃなければ、シンジュちゃんの身長が2~3センチ伸びたように見えるんだけど」
『うん、千年分くらい? 成長したかも』
「マジかっ! それにしても千年分とは……」
「スゴーイ、あの赤い石はやっぱり凄かったんだね。また向こうの世界行ってピクとあるじでたくさん作ってくるよ」
「そうだね。今まで必要以上に狩をする理由がなかったけど、大きな存在力の獲物は積極的に狙っていこうか」
『う~ん、しばらくはイッパイで無理かも』
「ん? イッパイって俺達的に言えばお腹いっぱいみたいな感じかな?」
『うん』
「そっか、じゃあ目に付いたヤツがいたり機会があれば狩って、威石を作る感じにしようかピクちゃん」
「そだね。もっと強そうなのがいるといいねぇ~」
話しながら3人で移動して真樹の近くに造ってあるオープンテラス風のガーデンテーブルに行く。
ピクちゃんとシンジュちゃんにテーブルに着いてもらい、アンブロシア・アップルパイとかハオマ酒・ブランデーケーキとかネクタール・スムージーを2人の前に出してあげる。
「あるじっ、う・ま・い・「ストッープ落ち着けピクちゃん」う~」
油断も隙もないなピクちゃん。
『うまうま、ピクちゃん達と同じもの食べられてうれしいよ~』
どうかと思ったがシンジュちゃんも問題なく食べられるようだ。
ん? さっきシンジュちゃんは満腹って言ってなかったかって? 別腹ってやつだな。
二人に給仕しながらエリクサのハーブティーを3人分いれてソーマを一滴落とし風味をだして俺も席につき、3人でしばらくお喋りしながらティーパーティーっぽくすごした。
実体化したことでシンジュちゃんはハシャギすぎたのか眠そうにしはじめたので、そろそろシンジュ部屋でおやすみなさいだろう。
「片付けは俺がやっておくから、ピクちゃんは一緒について行ってあげてよ。シンジュちゃんも急な実体化で今日はさすがに疲れたでしょ」
「そだね。シンジュちゃん、部屋に戻ろっか」
『うん、あるじ、おやすみなさーい』
「あいよ、おやすみー」
2人を見送ってから俺もホームに戻り、キッチンでピクちゃんの大声で中止したドラゴン挽肉を魔法で作ってると、作業を開始してすぐにピクちゃんが戻ってきた。
「おや、おかえり」
「ただいまー。シンジュちゃんはすぐに寝ちゃったよ」
「そっか、実体化も身体に馴染むまでは疲れやすいかもね」
「うん、長時間の実体化はまだ無理らしいよ~。あるじは、それって何してるの?」
「ほら、ドラゴン肉の肉質が硬い部位があったでしょ、それを魔法で挽肉にしてたんだよ」
「あるじってさ~魔法で何でもできるよね~」
「何でもって訳ではないけど、余程精密なものだったり専門知識が必要なものでもない限り、具現化したり何か現象を起こしたり創造したりできるみたいだね」
「でもでも、あるじの居た世界には魔法ってなかったんでしょ?」
「世間的にはそういうことになっているね」
「えっ! あるじの中の人って30歳超えているの?」
「どっ、どっ、童貞ちゃうわ!!」
中の人ってなんだよ!
「年齢は否定しないんだ。あっ! あるじに質問で~す」
「な、何かな?」
「お店でお金を払ってお願いするのは、セーフですか? アウトですか?」
――くっ、殺せ!
「バナナは遠足のオヤツに入るか入らないかみたいなデッドラインを引くのは止めようか、ピクちゃん」
「えへへ~ごめーん」
「だってさ、女の人って言葉に乗せて見えない斬撃を飛ばして相手の精神をなで斬りしたり切りきざんだり、その斬撃に氷とかの属性を付与したりもしてくるから怖くない?」
「うん。なんかピクわかった気がする。あるじが素人童貞なの」
「ば、馬鹿なっ! どうしてそうなるーーー!!」
その後、誤魔化す為に必死に弁明すればするほど、うんうんそうだねピク分かってるからみたいに慰められて慈愛の目で見られてしまい、その晩は忸怩たる思いのまま血涙で枕を濡らした。
俺は一体どこでルートを間違えたんだ……
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俺のプレイしていたVRMMOは召喚師サモナーとして、神、魔神、魔王、邪神、破壊神、女神、天使、ドラゴン、幻獣、など全てのありとあらゆる種族を合体・融合・吸収・合成させて、オリジナル眷属を創造して使役する、よくありがちだがヤリ込むと奥が深いゲームで、とくにスキルを継承させるのが楽しかった。
そしてシンジュちゃんの本体――真樹――をVRMMO時代使役していたなかで最も多くの知識神をとり込んだ眷属の一体は“真なる大樹”と呼んでいて、そいつがわずかに残る記憶・記録・伝承を元にこういっていた。
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「大樹の大地に張る根は深く長く広く無数に分散し別次元別世界へ届き、その一本一本が各々の世界での世界樹となっている」
「大樹の天空へ伸びる幹は大きく太く高く無数に枝葉へ広がり新緑の如き葉の一枚一枚が各々の世界での初元総録――アカシックレコード――となっている」
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「マイマスター、神と崇められる強大な存在を以ってしても不確な存在であって、多くの神々を取り込み全ての世界で知らぬことなどないに等しい我々、私とほかの眷属4体にとってさえ未知の存在。それが、あの大樹。知らないはずなのに確信できてしまう。真なる大樹に間違い御座いません」
「え~っと、う~んっと、な、なるほど、まったくからん!」
5体の眷属たちがコケた…………
次元を超えて世界樹にとか、葉っぱが全部アカシックなんちゃらなんて真顔で言われても困るって。
…………っと、初めて真樹を目にしたときこんなやり取りがあったのをシンジュちゃんに話して、実際どうなのか一度きいてみたんだけど。
『観測者・記録者とかが多いのかな?』
とのこと。本人も分からないらしいが実際たしかめようがないしね。




