器用貧乏
――そこには信徒という表示が。
この生ゴミがそんな信心深いとは到底思えないので、どこぞの宗教組織に属するか庇護下にあるという広い意味なのだろう。
そいつが何故か俺らの情報をどこからか得ていて、いいや、明らかにターゲットとして指示されての動き。
まだこの世界、ましてや迷宮都市に俺たちが訪れてから1ヶ月も経っていないのに、宗教関係者なんぞが絡んでくるのは不自然すぎる。
唯一思い当たるのは赤トカゲから緋心威石を作ったときの解析結果に表示されていた“※おまいらっ!! 何してくれちゃ&%$#”だけなので、真っ当なルートからであるはずがない。
必然的に威石へ一言いい添えてきた本人か、もしくはそいつ関連だが別だったとしても、そのたぐいの者が裏にいるのは間違いないだろう。
自称神様程度が舐めた真似してくれる。
「ピクちゃん、チャンスがあれば威石の素材にしちまおう。まさか、いくらなんでもトカゲやヘビより格下なんてことはないだろうからさ」
「さんせ~いっ。ピクたちのことを甘く見てるみたいだから、事の顛末をさぐるために必ず覗きにくるよね。そのとき殺っちゃおう」
「生ゴミの目に遠見系の術が隠蔽して付与されてたし、犯人は必ず犯行現場に戻るってやつだな」
黒幕のヤツが生ゴミの目とリンクを繋いだ瞬間に転移で飛んでって叩き潰す。
俺とピクちゃんが元から絶つ相談をしていると、一通りの鑑定が済んだようでマスターが部屋に戻ってきた。
「で、どうだった」
「うむ。おぬしらの言うとおりじゃ。強奪をもっておったぞい」
「じゃあ、ヤツは」
「そうじゃな、必然的に稀人ってことになるの」
「あるじあるじ、どうして強奪イコール稀人なの?」
「強奪スキルってのは血縁者だからといって遺伝しないし継承もできなくて、突然発現したりもしないからかな。マスターさん、俺が知らないだけかもしれないから、その辺どうなの?」
「アールジの言ったとおりじゃな。さらに付け加えると強奪スキルを所持するには、上位の存在にあたる神やそのたぐいからの譲渡や、稀人たちが言うポイント? だけ受けとって、それを消費することで手に入れるしかないのお」
「へえ~、じゃあ魔道書とかに載ってたりもしないんだね~」
「ワシもそこそこ世界ってもんを見ておるが聞かんな。類似スキルとしてはラーニングじゃが見取るだけで奪いはせんし、自分の長所を伸ばしたほうが現実的じゃ」
「あるじ、強奪はなんの系統に含まれる術なんだろ?」
「スキルや経験値を奪い取るってのは相手の費やした時間、時を盗むって言い換えられるわけで、これは時間を制御する時魔法でも不可能だしなー」
「時間を撒き戻すでもなく、その経験を消すのでもなく、奪ってから消すのとも違い、そのものを自分の物としてしまうんじゃしの」
「バンパイアの吸血による眷属化みたいに種族固有の特殊スキルで、稀人には強奪がそれにあたるのかね。どちらにしてもさっきのヤツみたいなのは、ゴミスキルの回収屋だな」
「え~、強奪って便利そうだけど使えないスキル?」
「いやいや、使える便利スキルだよ。自身の可能性を広げるには強奪ほど有用なスキルは無いくらいだから」
「そうじゃの。元来、火属性しか使えないはずの人間が、それこそ全属性を手にすることができてしまうぐらいに強力なスキルじゃしな。しかしのお、いくら多数の術をコレクションしてもあれではの」
「ああ、なるほどだよ。全属性を手に入れたとしても、その先は自分でやれってことなんだね~」
「そのとおりじゃ、ピク。強奪は大抵器用貧乏になりおる。大器晩成とは真逆に位置するスキルであろうな」
「そもそも鑑定が通らないんだから、なにかしらの対策がなされてると、なんで考え付かないんだか。だから全身から血を吹き出すはめになるんだよ」
「さっきのゴミ君がピクたちからスキルを奪うのは、いくらなんでも無理だよね~」
「俺たちの術やスキルに初期状態のままなんてものは無いしね。マスターにあげた隠密リングに付与されてる術みたいに、統合複合された物ばっかりだから、どちらにしても強奪では奪えないかな」
「他は知らんがこの世界では強奪のみで大成することはむりじゃろうな」
今、マスターと喋っている間も生ゴミの尋問が進められているのだろうが、一応俺も別の手段を提示しておく。
「もしも尋問が進まないんならこの首輪つかうか?」
「オイッ! アールジ、その首輪はまさか」
「違法奴隷を解放してやったときに、そのままもらっておいた」
17歳ちゃんと15歳ちゃんが付けられていた隷属の首輪をマスターにみせる。
「もう何でもありじゃのう、だから稀人ってヤツは」
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俺は以前ピクちゃんとこんな話をしたことがある。
「あるじあるじ~」
「んあ、何かいなピクちゃん」
「えっとね~、たとえばピクがもうこの世界は滅ぼしちゃうっていったら、あるじはどうするかなって」
「ん? どうするもなにも、ピクちゃんが滅ぼそう、滅ぼしちゃえって思ったのなら、この世界は滅ぶべきなんだろうから滅ぼさないと」
「あれれ、ピクが自分で言っといてナンだけど、なに当たり前のことを言ってんだみたに返されるのは、そこはかとなく納得できないものが」
「いや、俺はもちろんシンジュちゃんだって賛成してくれるさ。不特定多数の良識なんかより、非常識だったとしてもピクちゃんのほうを信頼するし」
「えへへ~。そ、そうかなあ、そうなのかな~」
「そりゃそうだよ。世界がどうのこうのじゃなくてもさ、ピクちゃんが何かに対してコイツは悪だと感じたのなら悪だし、敵だと思ったのなら敵で、俺にとっても悪で敵だな。そもそも、その他大勢の考えなんぞどうでもいいし俺らは合わせないし合わせさせる必要もないからね」
善・悪、良い・悪い、そういうのは正直どうでもいいし、立位置や視点によって変わってくる。
俺がこの世界での判断基準としているのは、そのこと、そのものを、許容できるか許容できないかってことだけだ。




