無茶しやがって
「中止じゃな、中止せい。じゃなければ明日の便ではなく、その次にするのじゃ」
「どうする、ピクちゃん。なんだかロリフが凄く駄々っ子になってるんだけど」
「う~ん、まあ別にそれでもいいけど。あっ、マスターはお休みの日に合わさせて自分も連れて行けって言いたいんだよ、あるじ」
「なるほど~、そうならそうと言ってくれよマスター。海の幸を食べ歩きながら、魚介類をストックしまくるつもりだから、けっこうな距離を移動するけど大丈夫か?」
「ちがっ、違わいっ! まだ聞くことがあるって言っとろうが」
そう言いつつも、そういえば乾物以外の海の幸はしばらく食っとらんし、たまには遠出も悪くないのお、などとブツブツ言ってるマスター。
けっきょくは明日も顔を出す約束してギルドをあとにする。
帰りがけに駅馬車の発着所へ行き予約の有無を聞くと、南や北方面は時期によって必要なときがあるが東行きは大丈夫らしい。
海があるなら夏や暑い時期は混みそうなものだが、この世界での海水浴は命がけらしく、その前に東側の海岸は岩場ばかりで砂浜はほとんど無いとのこと。
ついでに街滞在延長手続きもしておくが、次からは日にちが余りそうでも1週間の仮入街証にしたほうがよさそうだ。
翌日、日課にしてるリーダーたちからの情報を受け取ってから、雇う日数を延長したいと話す。
「あれ? 今日出発するんじゃなかったのかよ」
「いや~まいったわー、ギルドマスターとかにさあ、行かないでっ! みたいな感じで引き止められちまってさー、ナハハ」
「なに言ってんだおっさん。どうせマスターとか受付嬢にお小言もらってるだけだろ?」
俺は思わず頭を抱えてしゃがみ込む……コヤツできよる。
「ぶふっ、リーダーさんったらまるで見ていたみたいだね、あるじっ」
んじゃよろしくとリーダーたちと別れて、そのままその足でギルドへ向かってると、途中でなにやらこちらの方を、もう害意ありまくりの視線で物陰からうかがっているヤツがいた。
ここしばらく俺らにチョッカイかけてくるヤツは減っていたのだが、その敵対者は近寄ってこないでピクちゃんに対していきなり攻性魔法をぶっ放す。
もちろんピクちゃんが気づいてないわけがなく――そいつは即、目や鼻、耳、口、身体の穴という穴から血を吹き出してぶっ倒れた。
「おわっキモッ!? アホか、こいつ。この生ゴミなにしてきた?」
「あ~、今アイツ強奪系スキルをピクに仕掛けたみたい」
「ブハッ、マジかっ、バカじゃね。俺らが無防備でフラフラしてるわけないじゃんね」
鑑定が通ってないだろうに、結界のカウンター20倍マジックボムであのザマということはMPをどれくらいつぎ込んだのやら。
「仮にピクたちのスキルを奪取できても、脳のキャパシティーが足りるわけがないのにね~」
人間の脳は常に全開稼動してるわけではないということから、そんなふうに解釈している。
「大人しくそこらへんのヤツラからファイアーとか生活魔法のクリーンとか低位スキルかき集めてりゃあんな目に遭うことなかったのにな」
しょうがねーなーと思いながら、生ゴミの不法投棄はよろしくないのでギルド横まで引きずっていった。
「ふう~、それでアールジ様、その全身血まみれの冒険者らしき人はなんなんですか」
ピクちゃんに受付嬢のお姉さんをよんできてもらい生ゴミを見せながら簡潔に答える。
「たぶんギルドマスター案件だ」
俺の言葉を聞いて瞬時に表情を引き締め対応してくれる受付嬢のお姉さん。
「分りました。そちらから直接裏へ回ってお待ち下さい。マスターとすぐに向かいますので」
まえにちびっ子たちやリーダーもナンバーワンとか言っていたが、ここでゴチャゴチャ言ったりしないで即座に動けるのは流石だな。
裏で待っているとすぐにマスターを伴って出てきてくれた。
「アールジよ、何事じゃ」
俺の引きずってきたゴミを見ながら、たしかこいつは最近街に入ったなんちゃらとかブツブツ言っている。
「こいつ、強奪スキル持ちだ。ピクちゃんに仕掛けてカウンターマジックでこの有様だな。たぶんステータス偽装を持ってるだろうが、このギルドに置いてある鑑定水晶のランクはどんなもんだ? 今ならいけるんじゃないかな」
すぐにギルドマスターが指示をだして、直属らしき者たちがゴミを拘束して連れて行くようすを眺めていると、その部下たちの中に見覚えのあるやつを見つけたので挨拶しておいた。
「ちーッス、この間はごめんね。街を出るとき折角ついてきてたのに」
するとソイツはビクッっとしたと思ったらガクッと崩れ落ち、そ、そんなぁ、撒かれただけじゃ、顔まで、などと言いながらなんだか様子がおかしい。
「こっ、これ、アールジ、お前、勘弁してやってくれ。これから精進していこうとしてる矢先に、顔バレまでしてるなんて可哀相じゃろが」
ロリフなギルドマスターに慰められるゴッツイ男って絵もなかなか笑えるな。
それから俺とピクちゃんは個室に場所を移して、2人でギルドの鑑定水晶による結果まちをしている。
俺たちはすでに解析して結果をしっているが、そのことをこちらから言うつもりはない。
だが、生ゴミのステータスに気に入らない表示を俺は、そしてピクちゃんも当然みつけている――
――そこには信徒という表示が。
◆
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お姉さんを含めた4人でお茶したあとに、秘蔵の茶葉をティースプーン1杯分だけ分けて欲しいと頼み、もらった茶葉を物質コピーで増殖して、茶筒へ入れ替えた茶葉をマスターへ渡す。
まっとうな生産者からすると、これぞまさにデュープなチートで垢バンものだな。
「ぬおあっ! アールジっ、キッ、キサマッ、なにしとるんじゃぁぁっーーー!!!」
マスターにとって、この茶葉は何にも代えがたいほどの貴重な宝物であり、それが目の前で突然増殖されて山と積まれれば、この反応も頷けるだろう。
「大丈夫だから心配するなって。他所に流したりなんかはしないし、その辺はわきまえてるさ」
「そそそっ、そういう問題ではないわっ! ……の、のう、もしかして、幾らでも増やせるのかや?」
「あくまでも量産品としてはってことならな。マスターの茶葉は等級的にどれくらいの物なんだ?」
「わしのは400年物じゃな。最高級品と言われているのは500年物で、それを過ぎると徐々に風味が失われていくので600年物よりかは上じゃ。秘宝として三千年物っちゅうヤツもあるが、最古の物ってだけで茶葉としての用はなさんじゃろうな」
ふ~ん、500年物ね~とつぶやいて、もう俺の言いたいことは分ってるだろと、二の腕でウリウリとマスターを押しながらそっと囁く。
「の・み・ほ・う・だ・い(飲み放題)」
「はうっツッ!! うう~、わっ、わし、ど、どうすれば……ぐぬウ」
マスターは変な声を上げながらビクッっとして、アウアウってなっている。
腕を組みながら“秘中の秘で……貴重な世界樹の……この悪魔めぇ”などとブツブツ言いながら、お茶愛好家とエルフ魂との狭間で心が凄まじく葛藤中なのだろう。
あくまでも正規に手に入れた現物を増やせるだけで、そこからさらに熟成させるのは技術的環境的にむずかしいから、作り手たちに迷惑はかからないなどと、俺は言葉でマスターの背中を後押しするように、言い訳になっていないような言い訳を吹き込んでいく。
最後に現時点での最上位品をお願いしたいと、最上位の部分を強調して飲み放題と連想するように誘導すると、マスターはガックリと肩を落として力なく頷き、エルフ魂を売り渡した。
「すぐにと言うわけにはいかん。いかんが、なんとかするわい……ううっ」
落ちたっ! 一度留め金をはずしてしまえば、徐々に歯止めがきかなくなり、後は坂道をころがり落ちるようにだな、クククッ。
「うわ~、あるじが悪い顔になってるよ~」
「ピクよ、わしは今エルフとして、とても大事なものを失ってしもうた……それがもう何だったのかも思い出せん」
こうして俺はエルフ謹製、世界樹の茶葉500年物を手に入れることとなる。
24話目にして気が付きました。
この主人公たち、あらすじにある観光を全然してないですね。




