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マスター、指輪を試す


 ホヘェ~っと満足顔のお姉さんが、ご馳走様でしたと言って受付カウンターへ戻っていったあと、ふたたび指輪の話にもどる。


「あ、そうだ、俺がその隠密リングをあげたんだし、マスターがもともと使っていた変身の指輪は受付嬢のお姉さんにでも譲ったら? あれってたぶんだけど、部分的に変化させることも出来るんでしょ」


「まあの。できんこともないが、あの指輪はあれでも迷宮産A級アーティファクトじゃぞ。それに、もう配下のもんへ渡して使用させとるわい」


「あの指輪で胸の部分だけイメージ通りに変化させれば、余分なパーツが必要なくなるじゃん。気持ちに余裕ができれば、俺へのマークが少しは緩むかな~なんて思ってさ」


「ブフッ、アールジよ、お前さんはロクなこと考えんナッ」


「ああ~~、マスターさんが笑ってたって、お姉さんに言いつけちゃおっと」


「やめい、やめんか。ピクよ、洒落にならんぞ。いつもフラフラしておるおぬしらと違ってワシは毎日顔をあわせるでな、針のムシロで胃に穴が空くわい」


 マスターにもう幾つか指輪の説明を補足しておいた。

 今までこの世界で見かけた人のなかで、この指輪を常時発動させて使用可能な魔力量を持ってそうなのは、マスターと聖女ぐらい。

 自壊術式が封入されているので、不用意にバラしたり用途以外の負荷を加えすぎると(ちり)状に崩れ落ちて復元不可。

 最初に指にはめた人専用で、今マスターが持っているリングはマスター以外は使用できない。


「物語なんかではよくある、服まで消せないから裸になって行動していたら効果が徐々に薄れ始めてイヤァ~ンなんてネタ展開にはならないから安心してくれ」


「アールジよ、今あえてそれを言い添えてこられると、逆に不安になるんじゃが」


「くれぐれも全裸で街中を歩きまわって“なんだか無性に気分が高揚しちゃう”とか言いながら変なプレイに走って、妙な属性に目覚めたりするなよ。俺らからは丸見えなんだし」


「へ、変態だっ、へんたいがいるよ~」


「おい、ピクよ、この男をいちどぶち喰らわしてもよいかの」


 ギルドマスターはなんのかんの言いながらも指輪を気に入ってくれたようで、使用感を確かめるように指輪を発動させて隠密セットをまとい、ちょっと待っとれと俺らに言って、個室はおろかギルドからも忍び出たり入ったりと、けっこうなハシャギぶりだ。


「ニャハハッ、マスターったら新しいおもちゃを手に入れた子どもみたいだよ、あるじ」


「アイテムってのは使い勝手をテストしてるときが一番楽しいからね」


 いいのお、これはいいものじゃ、などと言いながらマスターが戻ってきた。


「どう、魔力消費とか大丈夫?」


「この消費量なら微々たるもんじゃて何の負担にもなりゃせんぞ。しかしアールジよ、これはたの()しすぎるのお。あっ、そうじゃ、前に街からでたあと姿をくらましたのって」


「そうだな、この術だよ。もうマスターは術の効き加減を変化させられるでしょ?」


「もちろんじゃ。だが参ったのお、ギルドのセキュリティーをすべて無干渉ですり抜けよるぞこの指輪は。わしとしては痛し痒しじゃ」


「そういう術だしな。マスターの錬度が上がれば、神眼、真偽眼とかの固有ユニークも無視できるかもね。試しに王城とかに忍び込んでみ」


「フンッ、本当にできそうじゃが、やめとくわい」


「そういうこった。できるのと、やっていいは別物だし、使い手しだいだ」


「今のところピクとあるじとマスターさんだけだしね、使えるの」


 その指輪に付与されてる隠密セットに対抗するものを作れなんて酷な要求を出すと、たぶんそいつら過労死で全滅するぞとマスターに言い添えておく。


 今回はギルドに随分と長い時間いたようで、そろそろ近場の依頼をこなしてきた探索者や冒険者たちが帰ってき始める時間だ。


「んじゃ、マスター、俺らそろそろ帰るよ」


「あ、もう16時になりそうじゃん。あるじ、夕飯なににするの?」


「これこれ、なにあっさり帰ろうとしておるかっ。まだまだ聞かにゃならんことがてんこ盛りじゃぞ」


「いや、もうそろそろギルドがラッシュの時間、あっ、ピクちゃん、駅馬車、予約とかって必要なのかな」


「アッ! わかんないっ。発着所へ行って聞いてみようよあるじ」


 ピクちゃんがマスターにじゃあね~っと手を振り、俺たちが部屋から出て行こうとすると、妙に食い下がってくる。


「なぬっ、駅馬車じゃとっ。どこ行くつもりじゃ、おぬしら! これ、またんかっ」


「いやいや、逃げる気かっ! みたいに言われても。俺らの予定では、あした東へ向かって海岸線まで抜けていくつもりなんだけど」


「中止じゃな、中止せい。じゃなければ明日の便ではなく、その次にするのじゃ」


 ◆

 ◆

 ◆


 神託に基づいて使者の指示通りに迷宮都市へ向かい、到着してすぐに情報収集するまでもなく目標は見つかった。

 さっそく鑑定してみるとステータスがオール1――あっ、これ、アカンやつや。

 即座に視線を切りその場から離れて距離をとり、ホッと息を吐き胸をなでおろす……どうやら見逃してもらえたらしい。


 俺はこの世界へ転移してきて間もない頃とは違い、スキル構成を失敗したと気がついたあとは、細心の注意を払って行動してきたつもりだ。

 強奪スキルを使うときも同じ場所では2回以上使用せずに、後腐れない相手、俺の鑑定を感知できない相手からしか奪ってこなかった。

 おかげで物理系スキルはそこそこ集まっているのだが、問題は魔法関連の収集がうまくいっていないことか。

 魔法使いが自身に向けられた鑑定などの魔法干渉に対して無頓着なわけがなく、即効バレてしまい術を奪うどころの話ではないからだ。

 あてずっぽに強奪を仕掛けても自分の欲しい術が効率よく向こうから集まってくるなんて(うま)い話はありゃしない。


 だけど、目標である妖精は飛んでるんだよ、フワフワ浮いてるんだよ、そして俺は強奪スキルを持っちまってる。

 そうじゃなくても魔法スキルの宝庫なのは間違はなく、鑑定を見逃されたことで、もう1回ぐらいスキルで、強奪で干渉しても大丈夫、バレても逃げればいいなんて、自分に都合のいいおめでたい思考になっちまった。


 意を決して物陰に潜み息を潜めて対象を待ち、自分の持ちうる3桁のMPを可能な限りすべて上乗せした強奪を妖精へぶち込むという、一世一代の大勝負に俺は出る。

 そして……


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