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銀器はダメよ


 ハア? 指輪ですかと、お姉さんが言葉をもらすのを聞きとめたギルドマスターは、アワアワしながら受け取った隠密リングをはめた手を突き出して、言い訳をしだす。


「あ、いや、こ、こやつが、アールジのヤツがいきなりこれをな。深い意味は無いのも、わ、分っておる、分っておるが流石にこれは反則じゃろっ。いくらワシでも受け取るのをためらうし焦るわいっ! のう」


 そんなこと言ってるくせに、ちゃっかり左手のくすり指に指輪をはめてんだよな、このロリフは。

 お姉さんはハイそこにお座りなさいと言わんばかりに俺へと向きなおり、マスターの挙動不審な理由を懇切丁寧(こんせつていねい)に教えてくれる。


「アールジ様、妙齢の女性へ不用意に銀製品を贈るのは勘違いの元なので控えるべきですよ」


「え? ごめん。なにか失礼な行為だったのかな」


「違います。女性に結婚を申し込む際に銀器を贈り、相手に受け取ってもらえれば婚約が成立します」


「なるほど、嫁ぇ~(余命)宣告されちゃうわけだな。墓穴を掘るとはまさにこのことかっ!」


「うっわ、最悪だっ! 最悪だよあるじ」


「アールジ様は今、生きとし生けるもののうち半数を、すべての女性を敵にまわしたと心得てくださいまし」


「そうかそうか、そうまで言われて断るんは女がすたるってもんじゃな。はなはだ遺憾ではあるが貰われてやるとするかの、のうアールジよ」


「――マスター!」


「じょ、ジョウダン、冗談じゃよ。やっ、ちょ、調子に乗ってしもうた、ナハハッ」


「「や~い、怒られてやんの」」


「うるさいわい」


「あっ、そうそう。お姉さんにはお詫びにこれを、おひとつどうぞ。マスターにも、ほい」


 ボックスから8分の1で大きめにカットしたレアチーズケーキをお皿に載せて、ピクちゃん分も合わせて3人分テーブルへ並べてフルーツソースも出す。


「はい? あら、これを私にですか」


「わしにもか。ん~、ケーキっちゅうもんじゃな、これは」


「わ~い」


「見たことがないタイプのケーキですね。どうしましょう、今、頂いちゃっていいでしょうかね、マスター」


「さっきは扉のところで、お姉さんにちょっと失礼しちゃったからね。お茶菓子でご機嫌でも取っておこうかと思ってさ」


「あら、まあ、うふふ。でもそれ早く忘れてくれると尚嬉しいのですけど、ねっ」


 ハハっと笑って誤魔化して俺がお茶の用意も始めると、ギルドマスターから待ったがかかった。


「待つのじゃ、アールジ。茶ならわしがご馳走してやるわい。受付業務もまだ手すきじゃろ、ぬしも飲んでゆけ」


「まあっ!? マスターのお茶を頂くのも久しぶりですね」


 一度部屋から出たマスターは茶葉の入ってるであろうケースを大事そうに抱えながら戻ってくる。

 アイテムバックから自分専用の茶器を出して丁寧にお茶を入れ始めたのだが、指輪も外す徹底振りで相当なこだわりがあるのだろう。

 ピクちゃんはマスターの横に行き興味深そうにながめていたが、俺に手招きしてこっち来て一緒に見ようと言い出した。


「あるじ、マスターさんはお茶マニアだよ。自分専用茶器もかなり良いものを使ってるし茶葉も凄いよ」


 どれどれと俺も覗いてみると、お茶に関しては通り一遍等な知識しか持ち合わせていないが、俺がVRMMOのシステムを使って出すお茶とは一線を画す、これぞ本物って感じの茶葉だ。


「オイオイオイ、良いのかマスター、こんな高級そうなのを飲ませてもらって」


「ぬははっ、これが分るとは2人ともなかなかじゃ。まあ気が向いた時くらいはの~――」


 ――俺とピクちゃんはお茶の旨さに驚き、いっぽうでケーキを食べたお姉さんとマスターの反応は“ンッ、ンンンンッーーー!!”と、こんな感じで言葉になっていなかったので、喜んでもらえたようだ。


 ◆

 ◆

 ◆


 今の私は王女さま専属護衛の女従士(おんなじゅうし)傍仕(そばづか)えという特殊な役職を賜っている。

 あるじさんから頼まれた王女さま用ディメンションネックレスを届けて、そのまま召し上げられるかたちになった。

 妹的な3人も傍仕えとされて、あるじさんから13歳ちゃんと呼ばれてた子は、影武者にでも仕立て上げるつもりなのかと思ってしまうほどに、王女さまと同列な扱いをされて教育も受けている。

 17歳15歳の姉妹は、姉の聖典好きに妹が振り回され付き合わされて、暇さえあれば王宮の図書室へ入り浸って蔵書を読み漁っているようだ。


「ねえ、ちょっと聞いていいかしら」


「はい、なんでしょう」


 訓練場へむかう私へ三姉妹の長女から声をかけられる。

 面識はあるものの言葉を交わすのは初めてだ。


「王女様や傍仕えをやってるアンタの妹たちがたまにクチにする、妖精とそのパートナーで、なんとかって名前があるじゃん」


「はい」


 妖精と言えばピクちゃんで、なんとかってのは、あるじさんのことなのだろうと当たりをつける。


「単刀直入に聞くとそいつら強い? わたしら3人の姉妹はご覧のとおりの傭兵稼業で、大陸のあちこちや別大陸にも渡ったこともあるんだが、(つい)ぞ妖精ってのにはお目にかかれなかったんだよねー」


 この姉を筆頭にした姉妹は、この前の紛争でもかなり活躍したらしく、戦場の三姉妹なんてふたつ名で呼ばれて噂にあがることもしばしばなのだ。


「正直に言いますと恩人ですので、強いか弱いかという目では見たことがないのですが」


「まあ、そりゃそうだわな」


「あの、あなたから見て私の剣はどうでしょう。まだまだなのは分っていますが、そこそこは使えていると自分では思っているのですけど」


「うん、まあね。うちら姉妹もそうだが、あんたも女にしては使えてる方だと私は見るね。それがどうしたいっ」


「ひとつ、目前で起こった出来事があるのですが、私たちの前に居た4人の男たちが気が付けば壁にめり込んで張り付いてました」


「はい?……アンタなに言ってんだい。意味わかんないんだけど」


「そうですね。私も妖精さんが何をしたのかまったく分りませんでした。パートナーの方には見えているようでしたけど」


 私ごときに力を計れるような次元ではないのだ、あの2人は。


「ふ~ん……つまりはそういうことかい、ありがとよ。妹たちには、もし会ってもいきなり喧嘩ふっかけたりするなと言っとくわ」


「クスクスッ、私が聞いた噂ではお姉さんを止めるのに、妹さん2人が必死になっていたと言うものなのですが」


「おやおや~、人の噂ってのは当てにならないねえ、それはたぶん気のせいで尾ひれってやつだろうさっ、クククッ」


 そのまま背をむけて手をふりながら去っていく長女を見送って別れた。


 ただでさえなけなしの胸なのに、それがすべてお腹の肉になってしまうということは、女としての死を意味する。

 聞かれたら無理に隠さなくてもいいよとは言われているが、できることなら私からの情報開示はなるべくしたくない。

 契約魔法はかけられてはいないが、可能性は極力潰しておきたいのだ。


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