ムニュゥ
「あ、そうそう、マスターにあげようと思ってた物があるんだ」
俺のせいではないにしても、変装の指輪が使えなくなってしまってるのは事実なので、代わりとなる指輪をアイテムボックスからだす。
指輪ケースを開きマスターに渡したシルバーリングはミスリル製で、俺とピクちゃんが常用している魔法隠密セットやサイズの自動調整が内包付与してある。
魔力消費軽減の術式は封入していないので、ギルドマスタークラスじゃないと使いこなせない代物だ。
「これをワシにって、オイッ! これっ、お、お前は……クッ、こ、こやつ絶対わかっとらんな」
指輪の説明をしながら渡したのだが、喜んでいるというより戸惑っているようにみえる。
ほんのり頬を染めながら小声でブツブツ言っている内容は“ホントわかっとらんのか……しかし銀器は……悪い気はせんがの”とか、こんな感じだ。
扉がノックされたのにも気が付かないほど、自分の世界に入り込んでしまっているので、仕方ないから俺がドアに近づいて開けちゃうよっとギルドマスター方へ視線を向けながら、扉に手を伸ばしたタイミングで表から開かれてしまい俺の手は空を切る。
いや、切らずに受付嬢のお姉さんの胸へと――
「あっ!」
「あ」
い、今、手のひらにフニョンって。
「アアアァァッーーー!!!」
「なんじゃっ、なんじゃっ!?」
お姉さんの絶叫を聞いてビックリしたギルドマスターが我に返える。
謝ろうとアセッた俺も一言発するのがやっとで、だが間違えた。
「乳手しかしね掴む物無し」
――死して屍拾う者無し――
「わっ、わたくしのオッパイをムニュってしておいて、その上で冗談を言い放てるとは……うんうん」
「ごめん、無乳っとしたけど肩甲骨とカン違ゲハッ――グオォッ! こ、ここでボディーにガゼルパンチ!?」
あの有名なボクシング漫画が過去の稀人によって、この世界に輸入されているということかっ。
そして、いつの間にかお姉さんの上半身が∞を描くように揺れはじめ……
まくどっうちっ、まくどっうちっ。
「……遺体です」
「いまのはあるじが悪いよね~」
「うむ、アールジが悪いのお~」
「ゴメンって。場をなごませようとしたんだけど失敗しちゃったよ。あ、お姉さん取れなかった? 胸の偽グェッ、ちょ、チョークッチョークッ」
「うふふ、アールジサマ、お首がこっているようですので、わたくしがほぐして差し上げますね」
気が付けばお姉さんの腕がヌルっと首に巻きついていて、ギリギリッと締め上げられてるチョークスリーパーを、俺は必死にタップする。
い、今、チョークスリーパーに入るときの動きが見えなかったんですけどっ。
「懲りんやつじゃっ、まったく」
「キャハハッ、いいぞもっとやれ~」
と、止めてください、ピクさん。
「そもそもなんでアールジ様が扉を開けるようなことになっているんですかっ、マスター!」
お姉さんに続いてピクちゃんも、さきほどのギルドマスターの妙なリアクションへの質問をする。
「そういえばマスターさんはもの凄く動揺してたけどなんで? 指輪なのは意味ありげだけど、今みたいに変装前のエルフの姿をしていた時期には、アクセサリーなんかプレゼントしまくられただろうし、お姉さんにも負けないくらいアプローチされて告白もされたでしょ~」
ハア? 指輪ですかと、お姉さんが言葉をもらすのを聞きとめたギルドマスターは、アワアワしながら受け取った隠密リングをはめた手を突き出して、言い訳をしだす。
◆
◆
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俺が普段から拠点として利用している大陸北部に位置する西の国、とある教会の奥まった個室に使者がおとずれる。
神託・賜り・もたらされ、などと眠いことをつらつらと、そして長い前置きが終わり俺への指示部分を聞いた瞬間にキレた。
「アアンッ、神託とかはどうでもいいが妖精種を捕らえてこいだと~……この俺様にわざわざ魔大陸くんだりまで出向けってことかよ、オイ!? ふざけんなっ!」
教会からの使者が違う違うとあわてて話し出す。
そいつが言うには、この中央大陸に1匹まぎれこんでるらしい。
最後に確認されたのは大樹海内になりますとか舐めたこと言いやがるから再びキレてしまう。
「てめぇ~、正気か。魔大陸どころか聖域を越えて大樹海深部へ向かえってか。なあ、この指示は誰が出しやがった? ぶっ殺してやんよ、そいつ。お払い箱ってならそれはそれでかまわね~が、もうさっさと死ねと言わんばかりの陰険な真似されちゃあ、こちとら黙ってられねえぜ」
最初はキサマかと使者の襟首をつかみ、頭突きせんばかりに顔を近づけて脅しつけてやると、聖域を無断で越えてバレるのはマズいから、取りあえず中立の迷宮都市まで行ってみてくれと、路銀をよこして逃げるように部屋から出て行く。
クソッ、強奪なんて罠スキルの死にスキルなんかをつかまされたおかげで、教会の使いっ走りなんざやる羽目になっちまってる。
物語なんかで強スキルとして書かれているが、冷静になって考えれば当たり前だ。
レベル1を100人集めたってレベル100には成れないし勝てるわけがない。
周囲の人間から奪いまくって気づかれないはずもねぇし、俺自身が盗人で指名手配の討伐対象ってのが関の山だ。
魔獣やモンスターから奪う? サファリパークを徒歩で回れってか、死ぬわっ!
異世界転移する際のスキル選びで成長促進系のポイントが高めで強奪はそこそこだった理由がこっちに来てから分ったが後の祭りだった。
おまけにこの世界には稀人がそこそこの頻度で訪れるらしく、リバーシやプリンも普通に有るし、後発の俺ができるような知識チートなんか残っちゃいね~。
目に見えない細菌や微生物からも経験地や技能を奪えるように設定の変更を要求したい。
数日は毎日この時間に投稿させていただきます。




