ポロッっと、ピクちゃん誕生簡易秘話
奥の個室に拉致られた――
「改めて聞くが、おぬしら稀人じゃな」
俺が室外の音は聞こえて室内での会話が外に漏れない消音タイプの遮音結界を張り、マスターが驚いてるのをスルーして話を進める。
「まあ、そうだな」
「ピクはどうなんだろうね、あるじ」
「俺と出身世界は別だけど、稀人? の範疇でしょ」
「そうなのかや」
「うん。ピクが寝てたらあるじが起したの」
「そうそう、思えばピクちゃんは出会ったときから腹ペコキャラだったな~」
「も、もうその話はいいでしょっ。あの時はピクもよく分かってなかったんだし」
「なんじゃい、ワシに聞かせてみい」
「まあ、簡単な説明すると、もともと俺は5体の眷属を使役してたんだけど、そいつらは自身の持つ根源的な欲求として、より上位の力ある存在に取り込まれて糧となることを至福としていたわけ」
「そうだよそうだよ、ピク悪くないもんっ」
「んで、俺が卵状態のまま化石化していたピクちゃんに魔力を供給して顕現、いや再誕かな、目覚めさせたんだけど、寝起きでムニャムニャしているから眷属たちの待機ルームに入れといて、しばらくあとに再び中を覗くと他のヤツラの姿が消えちまってたんだよ」
「ん~、ピクがその5体をその身に取り込んだということかの」
「そうそれ。ピクちゃんがもう満腹満腹みたいにケフッってなって、お腹をさすりながらフワフワ浮いてるのを見たときは脱力したな」
「でもでも、あれにはピクだってびっくりしたんだよ。あるじが連れていた眷族たちって、今までピクが見たことがある唯一神や絶対神、最高神とか自称全知全能なんてのたまって偉そうにしてた連中なんか、ホント蟻んこに見えるほどの強大な存在力で、満腹感で動けなくなったなんてあれが初めてだもん」
「なにやら聞いてはならぬようなワードがいくつかあったような気もするが、まあよかろう。しかしアールジよ、確かに勇者ではないにしても……まあ、わしの聞き方も悪かったがの」
「あっ、勇者といえばなんだあの金ぴか、あと聖女ってのも一緒にいたけど」
「ぬう、やはり鉢合わせしとったか。しかし、そうなるとおぬし等は聖域へ無断で足を踏み入れとったってことじゃな」
「いや無断っていうなら、この先からは聖域となりますので立ち入り禁止ですって、看板かなにか目印を置いとけよ。境界がわからないでーす」
「ふん、まあいいわい」
「それであの金ぴかはギルドマスター預かりのなのか? 付き合う相手はちゃんと見極めないと後で泣きをみるぞ」
「ばっ、ばか言えっ、だれがあんなアホウを抱え込むもんか。バカは害悪じゃっ!」
「確かにな」
「クスクスッ、“勇者だぁ~”だもんね。もう一人の、あるじに話しかけてきた女の子はちゃんと話が通じてたけど」
「ふむ聖女か。あの娘を初めて見たときは、ワシの同属か魔人種か、どちらかと人とのハーフかと勘違いしてしまったほどの魔力保有量じゃな」
「魔人種? “世界のすべてはこの我が手の内にあり、我と我が同胞のみに生きる資格が与えられ、その他は無価値にして無意味な塵あくたと知れ”とかいいながら世界征服を目論む魔王なみたいなのもいたりするのか」
「いや、人種のほうが悪辣じゃろうが。魔人種の王という意味では魔人皇と呼ばれる者は居るがの」
「ふ~ん、魔人皇なんてのが居るんだ」
「しかしアールジよ、ぬしはその恥ずか死ぬようなセリフを、よくもまあ即興でつらつらと並べ立てられるの。感心するわい」
「いやいやっ、これは異世界での様式美でしょ。俺でも自宅で晩御飯前にこんなセリフを並べたりしないって」
「ふう、ピクも大変じゃの~……」
「いえいえ、慣れていますので~」
なんだか妙に2人が通じ合っているので、旗色が悪くなる前に話を逸らす。
「あ、そうそう、マスターにあげようと思ってた物があるんだ」
◆
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「しかしながら、少なくともこの世界では最高位である3柱方の力を以ってすれば抑えることも或いは」
担当神の賢さとは裏腹に中位の1柱がそんなことを言い出した。
「そもそも、3柱がピクえっくすの出自を把握できていない時点で、こいつらが世界の全てを掌握している存在なんてもんじゃねえって気づけよ」
また別の1柱が問いかけてきたのだが、もう勘弁してくれって感じだ。
「ピクえっくすとは良きものなのでしょうか、それとも悪しき存在なのでしょうか」
オイオイオイ、今さらか、今さらそれなのかよ。
「お前の言う良い悪いってのは、お前にとって都合が良い都合が悪いってだけだろがよっ。なんでそんな自身を中心に据えた発想しかできねえんだ。ピクえっくすがお前程度の雑魚神が作る枠内に収まるわけが、ねぇだろがっ!」
あ、あれっ、なんかおかしくねっ? 俺って邪神と呼ばれている悪神のはずなのに、なんでこいつらにおイタをしてはいけませんよ~って優しく言い含めようとしてるんだろう。
「おいっ、3柱の。この場にいるってこたぁ、そいつらもこの世界全般で見れば階位的に上位と位置づけられるんだよな。それらの問いがこのアホな内容で言葉かよ……ダメかもしれねぇな、この世界」
もういいやと、集会にダラダラと付き合っている意味はないから、さっさと会場をあとにする。
自分たちの力が及ばない埒外の存在なんてのは居ないってかっ! どこまでもおめでたいヤツラだ。
絶対にどっかのバカがピクえっくすにちょっかいをかけて、ロクデモナイことになるのは分りきっている。
クソッ、あいつは、向こうの世界から一緒に跳んだあいつが捕まるかどうか。
前回、俺とそいつが偶然にもこの世界へ来ていて助かったのは、元の世界での決戦前に、お前らむしろ邪魔だからどっか行っとけってな具合に追っ払われて、ついでにチョットお使い頼まれてくれって使いっ走りに出されていただけなのだ。
……なんとかして馬鹿が事を起こす前までに。
しかし、邪神の杞憂はすでに現実になりつつあるのであった。
フットワークの良い馬鹿が、いや、なにも考えていない馬鹿だからこそフットワークが軽いのだろう。
担当神が危険を感じて接触を一切遮断しているのをいいことに摘み食いしてやろうと、すでに配下へ神託として指示を出し終えている1柱が存在した。
次は月曜です。




