圧巻! 迷宮ギルド受付嬢
「いらっしゃいませピク様アールジ様。お待ちしておりました」
「お姉さん、こんにちわ~」
「こんにちわ。なにやら顔出せ顔出せと無言の圧力がね~」
「フフフッ、すでにギルドマスターへは声をかけさせて頂きました。すぐにこちらからお呼びしますので、そちらの席に座ってお待ちください」
俺たちは受付嬢のお姉さんにうながされて、受付カウンター隅の席に着く。
朝のピーク時間が終わりギルド内は落ち着いた雰囲気を取り戻していて、職員たちの業務にも余裕があるようで慌ただしさは感じない。
だが、ギルドの窓口である受付嬢さんたちは容姿が整っている女性ばかりなので、手がすいてくると別の理由で忙しくなることがある。
男どもからの何とか自分へ気を引こうとする、あの手この手のアプローチ合戦がそれだ。
そういう意味では女性探索者たちから声をかけられて、笑顔で対応している男性職員もチラホラと。
そして、われらがお姉さんはというと、もうこれはまさに圧倒的なアプローチの量で、それを捌くわ裁くわ一刀両断って感じで撃墜数を加算していく。
「やあ、君はいつ見ても美しい」
「あなたはいつにもましてキモいですね」
「よう、そろそろ俺様の女に」
「寝言は死んでから言って下さいね」
「うわうわっ、あるじあるじ、受付嬢のお姉さんのセリフが切れ切れだよ。言葉で探索者たちをめった斬りのめった刺しにしてるよっ」
「ちがうよピクちゃん、あれは下僕どもにご褒美をあたえてるんだっ! いわば動物園の飼育員と飼いならされて牙を抜かれた猛獣の図だな」
「あるじ、見える、見えるよっ! ピクにも男たちのお尻の位置でブンブン振りまくられてる尻尾の幻影が見えるよお~」
「お・ふ・た・り・は、しばらくクチ閉じてましょうか、ネッ!」
お姉さんが全身に冷気をまといながらこちらに微笑みかけてくる。
「「ハイッ」」
程なくしてマスターが俺らを呼びに奥から現れたのだが、途端にギルド内がウォッーとかキャッ~マスタァ~とか大歓声と黄色い声で埋め尽くされる。
「ヤッホー、きたよ~マスターさん。こんにちは~」
「ややっ、これはこれは、そちらにおいでになるのは、今、ちまたで大人気な、かのギルドマスター殿ではありませぬか、眼福眼福」
「クッ」
「マスター、順調にファンの数が増えていっているようでなによりだな」
「やかましいわい。迷宮の方が稼げるは明らかで、一般依頼の達成率低迷はいたしかたなしと、自分で自分を納得させておったというのに、こんなことで、こんなことでぇ~……」
周囲からは、おっしゃぁーやる気でたっ、依頼を請けて一仕事こなしてくるぜっ! などと冒険者や探索者のテンション上がりまくりだ。
「ほれ、アールジ、ピクよ、奥へゆくぞっ」
「え~、べっつにい、ここでもね~、ピクちゃん」
「だよね~、あるじ。にぎやかなのもたまにはいいよね」
「やかましいっ! ゴチャゴチャ言っとらんで、さっさとコッチへこんかっ」
奥の個室に拉致られた――
◆
◆
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脱出に失敗した邪神は、先程までと違い心なしか震えていて、生気が抜けたように真っ白になりながら語りだす。
巡る過日は幾星霜、善悪真魔創滅聖邪と性質の違うありとあらゆる神と呼ばれる存在が一丸となり一つの敵と戦い、それでも相打ちとなり滅び潰えた世界があると。
「もう言わずとも分ろう、俺ぁその世界で偶然にも別世界であるこの世界を訪れていて生き残った2柱の片割れってこった」
邪神が語る内容は荒唐無稽で笑い話にしてもできが悪いとだれもが一笑にふすようなものなのだが、笑いとばすことなどとてもできる雰囲気ではなかった。
その滅んだ世界で中級神の位置づけでしかない1柱でも、この場に居る最高位の3柱と俺をふくめた者どもをまとめ滅することが可能なほどに、神々の層があつく高い成熟度をほこっていた世界だったと話す。
言葉に誇張も起伏も熱もなく淡々と、ただ淡々と語る口調にうすら寒いものを覚え、意見を差しはさもうとする者はいなかった。
最後に邪神は担当神へ視線をうつし、この件に限り日和見は英断だ、絶対にちょっかいかけるなと、含めるように言って話を締めた。
「疑うまでもなく本当のことなのでしょうが、今のところ我らが観測したなかでは、にわかに信じがたい物があるのも事実です」
邪神が語り終わったのを見計らい、階位的には3柱に続く4柱で邪神と同格の1柱が疑念をなげかける。
「あん? どういうことだ」
「ピクえっくすがあるじと呼び行動を共にする男にはピクちゃんなどと呼ばれていて、それはもう楽しげに毎日を過ごしているのを見るに至ってはなおのこと」
「ピピピッ、ピクちゃんっ、だあっ!? なんの冗談だオイッ、ふざけんなっ! そっ、そう、そうだっ、形態は、ピクえっくすはどんな形態をとってやがるんだ」
「姿のほうは妖精種のフェアリーに近いですかね。サイズは稀人どもの言う、2リットルのペットボトルほどでしょうか」
う、そ……だ、ろ……最終形態じゃねえかよ。
妖精形態は膨大な存在力の緻密で繊細な制御を必要としていて、圧倒的な大出力と高密度を可能にするかわりに、その姿をとって維持しているだけでも消耗していく、もう後のことなど考えない最後の手段でいわば自爆技に近かったはず。
元の世界では十把一絡げに扱われるような下級神の1柱でしかなかった俺などは、ちりも残らず一瞬だ。
なのに、その姿を常時とっていて、それを普段使いしているだとおっ!?
まさか、そんなことあり得るかよっ。
あるいは、ただ単に俺が知っている最終的な姿が妖精ってだけか、それとも以前チラリと目にしたヤツとは別の固体なのか……
いや、ピクえっくすなんてヘンチクリンな種族がそうそう居るとは思えんし、同じヤツだと考えたほうが無理がない。
そこまで考えたときハッっと気が付き、まわりを見回しながら恐る恐る質問する。
「お、おい、まさか今でも観測を続けたりは……」
「ああ、それは大丈夫です。担当神が逆にこちらを探知してくる可能性が高いと考え、一切の接触を絶っていますから」
自分の分を弁えているものは、それだけで賞賛に値する。
俺は心底安堵して担当神を思わずハグしてしまった。
元の世界では滅びと再生を司る高位の1柱へと仕えていたが、この世界では異端なる邪神と位置づけられる俺にはそぐわない行動だな……
あしたもう1話このくらいの時間で。




