ダンジョンはお預けかな
「シンジュちゃん、たっだいまー」
「ただいま、シンジュちゃん」
『2人ともおかえりー』
異界門が開いたのを見てシンジュちゃんが実体化して出迎えてくれた。
「じゃ~ん。今回もお土産あるよ、シンジュちゃん。ほら」
『あ、凄っ、またピクちゃんが?』
「今回は俺だな。獲物を見つけたのは偶然で運が良かっただけなんだけどね」
『ありがと、あるじ』
「どういたしまして。さっそく部屋の棚に置いておいでよ。ピクちゃん、よろしく」
「うん。行こっ、シンジュちゃん」
『はーい』
威石を部屋においたであろう2人が、間をおかずにピュッーって感じで連れだってもどってきた。
「おっ、お早いおかえりだね。どんなあんばいになった?」
「ムフフ、あるじ~。ではシンジュちゃん、どうぞっ!」
『ほらっ、直接しゃべれるようになったよ、あるじ』
「おおー、なるほどね。念話きたぁ~ってかんじで、これはありがたいな」
『うんっ』
「よし。もともと考えてはいたんだけど棚上げしてあった、遠距離通話用マジックアイテムでも創るか」
『そんなのまで創れるの?』
「もう通信術式だけは作ってあるから、あとは端末だけだね」
「あるじったら、いつのまに」
「いや、実はさ、21歳ちゃんたち4人や王女ちゃんにあげた垂れシズク型ディメンションネックレスに、遠距離通信機能を組み込もうとしたんだけど、さすがにやり過ぎかなと思って自重したんだよね」
「あるじ……それ、やっちゃダメなやつだから」
異界門を閉じた状態の、真樹フィールドとむこう側の異世界とで通話させるのには、転移転送術式を流用すれば問題ないだろう。
「そうだ、そういえば黒石はどうなった?」
「黒石は、半分くらいのサイズで残ってたよ、あるじ」
「ふ~ん。できれば予備でもう一個ぐらいは欲しいよな。こんど獲物を見つけたら、次はピクちゃんにお願いしようかな」
「まっかせなさいっ!」
『なんか、邪龍をコロリと眠らせたってピクちゃんに聞いたけど、よくそんな薬を持ってたね、あるじは』
「ああ、これね」
「やっ!! 出さなくていいから――もうっ、あるじ」
まあまあとピクちゃんをなだめながら、シンジュちゃんに魔法薬が入った密封容器を見せてあげるが、ピクちゃんが嫌がっているのですぐにしまって簡単な説明をする。
「実はこの魔法薬って、創ったときは栄養ドリンクのつもりだったんだよねー」
「えっ!? なにそれっ。ピク、あるじの言ってる意味わかんないんだけど、どゆこと?」
「ほら、ほんの15分くらいしか寝てないのに、目が覚めたあと異様に頭がスッキリして脳が冴え渡るときってあるじゃん」
「まあ、あるね。でも、それがどうなったら魔法薬に?」
「その冴え渡る効果を全身、心身ともに出せないかと考えて、活性栄養剤のリフレッシュドリンクを創ってたつもりなんだけど、眠っちゃうぞ薬ができちゃったんだよ」
『意図したものと別の物ができちゃったんだ』
「うん。ディメンションルームで製薬してたんだけどさ、完成したから出来栄えを確かめようとして、まずは容器口の上を自分の方へ手のひらであおいで香りを嗅いでみたんだけど記憶がそこで途切れていて、はたと気が付いたら部屋で大の字になって寝ていたのには焦ったね、アハハッ」
「アハハじゃないっ! それはそうと、そんな怪しげな薬をピクに嗅いでみって言ったんだね、あるじは。ふ~ん、へ~」
「いやいやいやっ、ホントにピクちゃんに効くとは思わなかったんだって。それにほら、よくあるじゃん。小さな男の子が好きな女の子にイタズラしたりイジワルしちゃうやつ。あの心理だよ、たぶん、きっと」
「えへへ~、もうもう、あるじったら~って、そんなんで誤魔化されませんからっ」
『あははっ。でもでも、ピクちゃんには状態異常無効とか、はては反射・吸収なんてのまであるのに、よく効き目があったね』
「俺が後でこじつけた考察ではさ、強いカゼ薬を飲むと眠くなるのと似たような、だけどその眠気効果のほどが極めて強力に現れたんじゃないかってのが、ひとつ」
「あっ!? ピクもなるわ、眠く。あれって、なんなんだろうね~」
「でしょでしょ。あと、もうひとつは回復治癒系魔法みたいな攻撃を意図していない反攻性効果だったのが、俺やピクちゃんにも効いたおもな理由だろうってことかな」
「なるほどね~」
『それにしても、あるじ。なんで魔法薬の名前が【絶対眠っちゃうぞ薬】なの? よりにもよって』
「あー、それは……俺のネーミングセンスではそれが限界だったんだ、スマン」
『ご、ごめん』
いや、シンジュちゃん、真顔で謝らないで、悲しくなるから。
その後、俺はすぐにディメンションルームの工房へ入り、通話用の端末チップは帰宅したその日の夕飯前には完成させた。
地球の500円硬貨サイズのミスリル製通話チップを所持――ボックス内でも可――していると意識内で会話ができる念話タイプだ。
通信波は中継点などを介さない転移転送術式による端末チップ同士の直結で、3人でも通話できるように複数人同時接続可能のにしてある。
念話式から空中投影に切り替えればお互いの映像を見ながらの会話もできラグは一切発生しない。
ようするに極小の異界門を通して距離をゼロにした映像付き糸電話だ。
この遠距離念話のシステムとアイテムがぶっ壊れ仕様なのは、どうせ身内のみの運用しか考えていないので、俺が考えうる便利機能をフルに詰め込んで、いっさい自重してないからだな。
そしてディナータイムとなるわけだが――
俺、ピクちゃん、シンジュちゃん、3人揃えば当然はじまるのはお料理ブートキャンプなわけだが、うん、たらふく食ったとだけいっておこうか。
次の日から念話機をテストするかたわら、ログハウスにセットしてあった記録水晶をチェックしたりもしていた。
外出期間が1週間チョットと短かったせいもあるが、この場所がだれかの縄張り内ということはなさそうで、ログハウスになんらかの意図をもって接触する者は、今のところはいない。
黒石を半分だけ取り込んだシンジュちゃんのほうは、実体化していられる時間が2時間ほど伸びて約6時間になっている。
今回もホームで3泊4日過ごしたのだが、別になにかを決めて計画的に行動していたわけではない。
結局ただ単にゆっくりするのには3泊がベストの日時なのだろう。
「んじゃ、行ってくるよ、シンジュちゃん」
「シンジュちゃんっ、いってきまーす」
『はーい、いってらっしゃ~い』
前回同様に記録水晶をセットしてから異界門を閉じてログハウスの戸締りも結界を使い完了させて出発する。
「んじゃ、ダンジョンまで転移で直行するよ、ピクちゃん」
「あいあ~い」
ログハウスから見て東方面マップの製作は随分と進んでいるので、いつもの圧し掛かり立ち肩車の体勢になったピクちゃんと、前回みつけたダンジョンらしき場所へ一気に転移でショートカットをした。
したんだが、う~ん……
さっきから街道をはずれて森外縁部から7キロほど入った位置を、山すそに沿いながら森のさらに奥を目指しているらしき、西進する妙な集団の光点が意識内表示マップに映し出されている。
「あるじ、見てみて。あの集団の中に1人だけ女の子がはいってるよ~」
「ん、どれどれ」
ピクちゃんに言われて遠見系スキルで見てみると、たしかに一人混ざっているな。
誘蛾灯のように周囲の魔獣たちを引き寄せるキラキラピカピカの全身金ぴかプレートアーマー騎士を先頭に、どこかの騎士団らしき11人と女性1人の計13人が小隊を組んで、雑魚にたかられながらも統制のとれた連携で、なんとか敵をさばいている。
だが、小隊内の数人はそろそろ限界が近いように見て取れるので、先頭の金ぴかと何人かの個人は別としても、隊としては時をおかず瓦解するのは明らかだ。
あの集団の中では3人が抜けた力をもっていて、存在力の大きさで言えば金ぴかが白虎に善戦するが届かないぐらいで、手持ちの装備により勝敗が分かれるってとこか。
そして、紅一点であるピクちゃんが興味を示した女性だが、魔力キャパティシーが飛びぬけて高く、存在力だけならば白虎を凌駕しているのだが、それが戦闘力に直結しているかどうかはまた別の話だろう。
小隊を実質のところ統率しているであろう隊長? っぽいおっさんは、2人とくらべると能力的に一段落ちるように見えるが、隊員を指揮する姿はなかなか老獪で、いかにもつわものって雰囲気をもっている。
「ピクちゃん、連中があのまま直進すると、スピアスネークのコロニーがある場所に突き当たるよね」
「うん。何匹かはベノムスピアバイパーに進化してる個体もいたよ」
「あらま、あいつ等死んだな。槍蛇の擬態を看破できそうな斥候職が、あの小隊の中に居るようにはみえないし」
スピアスネークとは体長70センチ胴回り最大直径3センチほどの、見た目はそのまんま毒ヘビで擬態隠形術に優れている。
攻撃法は、貫通性の高い突進で頭部から敵へ突き刺さり、首もとの返しにより敵の体から引き抜かれることを防ぎつつ、内臓を食い荒らしながら敵の体内へさらに侵入していくというものだ。
身体的特徴として、普通に引っ張っても簡単には胴体が千切れない強い引っ張り強度と、ただやみくもに切りつけても高い弾性により、まるで空中に投げた糸を棒ではらったような手応えになってしまい、切断するにも洗練された剣技が必要になる。
そしてスピアスネークの最も恐ろしいところは狩りの方法で、獲物がキルポイントへ差しかかった瞬間に擬態隠形からの全周囲一斉突撃をおこない、その集団での待ち伏せ奇襲による突進圧殺飽和攻撃は、はまれば白虎クラスでもイチコロの破壊力だ。
「あるじ、あの人たち、なんかバタバタしだしたね」
「だろうね。そもそも隊員たちの配置と所持技能による人員構成を失敗してるよ、あの集団」
「探査とか索敵とかが下手そうだもんね」
スピアスネークの危険性は非常に高いのだが、こちらが先にみつけることができさえすれば排除はきわめて容易になる。
なんせ、やつらが決めたキルポイントに入らない限り、絶対に仕掛けてこないからだ。
「せめてあと2人は探索能力が高いスカウト職の斥候を用意して3人に周囲をさぐらせながら、配置は女性の前で金ぴかと隊長っぽいのが横に並び2列縦隊になって逆正三角形をつくる位置取りをして、ほかの隊員は前面3背後4の比率で守り重視じゃないと」
ガチ戦闘集団には見えないし、探査が目的だとしても中途半端すぎる。
「もうレベル的にはいっぱいいっぱいだね、あの人たち。どうするの~、助けてあげる?」
「どうしよっか。集音遠聴き系スキルでヤツラの会話を聞いていたら、聖女さま~とか、勇者どの~ってのが耳にはいってきて、鑑定するまでもなくスゴクメンドクサソウな集団なんだけど」
「じゃあ放置しちゃう? あ、聖女って言うぐらいだから貸しをつくっておけば、もしかしたら聖典の原典はむりでも写本ぐらいは見せてもらえるかもよ。どう? あるじ」
「おおっと、なんて素晴らしい発想なんだ、ピクちゃん。じゃ、さっそく移動しよう」
そう言って、森外縁から距離にして10キロの、勇者たちの小隊から見れば左斜め前方の南西の位置に場所をうつした。
「それでそれで、これからどうするの、あるじは」
「お昼ごはんにします」
「キャッホォー! あるじっ、メニューはって、あれ? さっきピクたちは、死地まっしぐらな集団をどうするかって話していたはずなのに」
「あはは、まあまあ。では、メニューを発表します。今日の昼食はカレーライスです」
「えっ、あるじがやってたVRMMO内にもあったの?」
「あるにはあったけど、俺、スパイスを自分で配合してカレー作れるし、配合もしてあるから」
「ふむふむ。こんな森の中でカレーのスパイシーな香りを漂わせたら、どこかの誰かや集団とかも匂いに誘われて近寄ってくるかしれないもんね~、あるじ」
スピアスネークのコロニーへの直進ルートから、斜め前方の俺たちのいる位置へ匂いで誘う。
「まあ、ヤツラを積極的に助けてやるつもりはないけど、生き残るチャンスを作ってあげるくらいはね」
「あのまま直進すると間違いなく全滅だろうし、大サービスだね、あるじ」
「前進しなければと視野狭窄におちいってるみたいだから一息いれさせて、そのあとはさらに奥へ進行して小隊壊滅の憂き目に遭うか、それとも今の自分たちではここまでだと仕切りなおすことができるかまでは、面倒みるつもりはないけど」
ご飯をハンゴウ炊きしてカレーライスを食べていると、斥候職が俺たちを見つけてそいつに誘導された小隊の連中がやってきた。
希望的観測をもっていた俺の期待は裏切ら――いや、むしろ案の定だろうか、ハズレな勇者君がいきなり突っかかってくる。
「きさまっ、何者だっ! ここは許可無くば立ち入ることの許されぬ聖域の、さらに深潭へと向けて分け入った淵寂なる魔の領域だぞっ」
◆
◆
◆
聖域からさらに深く大樹海へ踏み入り時間にしてどれほどだろうか。
まるで樹海そのものが一つの生物であるかのように、この場では異物の我々を排除しようと、魔獣どもによる断続てきな襲撃が絶え間なく続く。
今は日ごろの訓練によるたまものだろう連携により何とか凌いでいるが、精鋭であるはずの騎士団隊員の幾人かは消耗が激しく、小さなミスが取り返しの付かない状況へと発展しそうな雰囲気をはらみつつある。
勇者殿、そして聖女殿もまだ余裕をもっておられるようだが、表情は決して明るくない。
「聖女殿」
「はい」
聖女殿は一言かければ全てを理解していただける察しのよさで助かるのだが、問題は……
「勇者様っ」
「ん、なになに、聖女殿」
「ちょっと速すぎます。私も、隊の皆さんも、ついていくのがやっとで、周囲への注意がおろそかになってしまってます」
「えっ、そう、そうかな? 俺はまだ余裕だけど」
ふう、やはりな、こちらは分ってないようだ。
「勇者殿、私からもよろしいでしょうか」
「ん、いいよ隊長さん。なに?」
「しばらくは進行速度をおさえていただき、一度スカウト職の者には範囲を広めて探索させたいのですが、おねがいできないでしょうか」
「ペースを落とすなら今は俺が先導することないね。んじゃあ、聖女殿の近くに場所を移すから、隊員のほうで露払いよろしく~」
「ハッ、仰せのとおりに。ありがとうございます勇者殿」
うわっ、今、聖女殿がもの凄く迷惑そうな顔をしたが、見なかったことにしておこう。
――斥候に出したスカウト職が、間をおかずに隊へ戻り奇妙な情報を我々にもたらし、勇者殿がそれに興味をしめした。
「あ、ホントだ。なんの匂いだろ、これ。なんか無性に腹が減って食欲を刺激されるんだけど。みんなはどう?」
そして南西方向へ進路をとり、人種と妖精が食事をしているという場所を目指して、その先にいたのは――あっ! マズッ、勇者殿がいきなりっ。
筆者がネットでグルグルして探してきたカレースパイスの種類と、作中での配合イメージは下記になります。
グラムは多少適当なので、おこのみ部分で調整する感じにしてます。
さすがにこの文字数と種類を文中に入れるのは気が引けたので後書きで。
■ 基本
ターメリック・60g
コリアンダー・40g
クミン・40g
■ おこのみで
ガラムマサラ20g
カイエンペッパー・8g
粒フェヌグリーク・8g
フェンネル・8g
棒シナモン・8g
カルダモン・4g
クローブ・4g
にんにくパウダー・4g
ジンジャー4g
ナツメグパウダー・4g
ブラックペッパー・4g
ホワイトペッパー・4g
チリペッパー・4g
オールスパイス・4g
パプリカパウダー・2g
カレーリーフ・2g
ベイリーブス(月桂樹の葉)・2g
ヨーグルト(無糖)・少々




