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あっさり

 もう迷宮都市では毎朝の日課になっている、情報収集という雑談をしにリーダーやちびっ子たちに会いに行くが、今日は滞在許可の切れる7日目なので、今朝はどちらかというと別れの挨拶の意味合いが強いな。


「おはようさん、リーダー、ちびっ子」


「ウースッ、おっさん、ピクちゃん」


「リーダーさん、おはよ~。ちびっ子ちゃんも、おっはよ~」


「おはよー、ピクちゃん、おっさん」


 ピクちゃんとちびっ子には他のメンバーたちと集まって遊んでいてもらい俺はリーダーと話をする。


「ほい、依頼完遂の報酬、後金の5万だ。今日は小銀貨5枚な」


「まいど。でも、おっさん、あんなんで良かったのか? 極秘な情報なんてほとんど無かったろ」


「おお、十分十分。ずいぶんと助かったぜ。なんせ、仮滞在の7日間なんてアッという間だしな。俺とピクちゃんだけで動いても集められる情報の量なんてたかが知れてるしな」


「ならよかったよ。うちのメンバーのチビたちには、噂を聞いてくるだけなんで無理させなくてよかったから、こっちも助かったぜ」


「おう、俺とピクちゃんは午前中に少しブラついてから街を出てるけど、また戻ってきたときは依頼しに顔をだすから、その時はよろしくな」


「ああ、待ってるぜ。おっさんとピクちゃんなら大歓迎だ」


 ピクちゃんに声をかけて、ちびっ子や他のメンバーにも手を振りながら別れる。


「あるじあるじ~、みんなたくましいね~。ピク感心しちゃったよ」


「だねー」


 数日間この街で過ごして分かったことは、さすがに200万じゃ曰く付きの家でも買えず、手持ちの素材はランクが高すぎで、売るにはちょっと無理があり、商売をすれば将来的にはどうにかなりそうだが、即金を作るのはむずかしそうだった。

 まあ、無理に街での生活へ固執する意味はないのだが、手っ取り早く金を作るには善意の融資者をつのる――山賊狩り――のが、俺たちには現実的かもしれない。

 幸い幾つかの集団がマップにチラホラとって、そんなことを考えながらピクちゃんを肩車してメイン通りをブラブラしていると、マップに待望の反応があらわれる。


「あるじっ!!」


「ピクちゃんっ!!」


「「キタァァッーーー!」」


 思わずって感じで肩車から飛び立っておれの真正面に来たピクちゃんとハイタッチをする。


「おっしゃぁっー、あるじっ、狩るよ!」


「了解っ! もうこのまま出発しちゃおう、ピクちゃん。場所はBBQポイントあたりだから、とりあえず南門だな」


 この獲物を逃すわけにはいかぬと、はやる気持ちをおさえながらいそいそと歩く。


「ちょ、ちょっとアールジ様、待って、待ってくださいっ―――マスター、アールジ様が、はやくはやくっ」


 南の門へ向かうために迷宮ギルドの前を通り過ぎると、扉がカランカランと開いて受付嬢のお姉さんが、慌てた感じで声をかけてきたので手を振ってあげた。

 そのあと中から飛び出してきて、ズザザァッーっと駆け寄ってきたギルドマスターはというと、ロリフのままってことは変装反対の要望と圧力に屈して観念したのだろうな。


「オイッ貴様ッ、なに素通りしようとしておるか」


「あ、おかまいなく~」


「構うわいっ! さっさとギルドに顔出さんか」


「あ~、俺たちこれから用事があるからさー、今日が滞在期日だしまた今度だな」


「なぬっ! 街から出るんか、おぬしら」


「そうだよ~、ギルドマスターさん。ピクたちは、これから楽しい狩りの時間なんだ~」


「そ、そうじゃ、とりあえず冒険者登録だけでもしていくのは、どうじゃ」


「えー、変な仕事を押し付けられそうなんでイヤでござる」


「クッ。騎獣や馬車はどうしたのじゃ。用意しておるようには見えんが」


「俺らはそのへん適当だな。歩いたり、通りがかったキャラバンに同乗させてもらったり」


「マスターさん。早く出たいから、ピクたちは行くね~」


「またこの街に来たら顔だすわ。そんじゃなー」


 まだ何か言いたそうなロリフと話を切って門へ向かい街から出て、10分ほど歩きながら徐々に気配を希薄化させていき、最後に隠密セットを(まと)って尾行者の目からも完全に姿をくらました。

 そのまま魔法で飛行に移って高速で進み、大樹海の外縁あたりで一旦着地してから、現場へ転移する前に簡単な作戦会議をおこなう。


「そうそう、赤トカゲはピクちゃんが獲ってきたけど、今度は俺にやらせてもらっていいかな? ちょっと考えていた作戦があるんだよなー」


「いいよ~、それでそれで、あるじの作戦ってどんなの? おせ~て(おしえて)おせ~て(おしえて)


「ふふふ、今回はこれを使います」


 ボックスから出したそれを見たとたん、ピクちゃんは小さな悲鳴を上げてバビュッっと一瞬で20メートルほどの距離をとり、手を震わしながら指差した。


「ヒキャッ! そ、それっ、アウアウ……」


「そうっ、あの無敵のピクえっくすさえも無防備に寝こかせる恐怖の魔法薬。絶対眠っちゃうぞ(やく)、だっ!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


【絶対眠っちゃうぞ薬】

「無臭だが高い揮発性なので、鼻っ面でかがせて、なおかつ鼻で吸引させないと効果がない」

「対処法も簡単で口で息をしていれば防げるので、知っているヤツはまず引っ掛からない」

「だが、吸引させることに成功すればレジスト不可能で、使いどころは難しいが効果は絶大で折り紙つきだ」


 ピクちゃん体験談より。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……そりわぁ~、あ、あれは~、ピク騙してぇ、あるじが~、嗅いでみなって、うう~」


「あー、だから、ごめんごめんって。いや~、まさか俺もピクちゃんが、あれほどあっさりコテンって眠りこけちゃうほど、効き目があるとは思ってなかったんだよ」


 持続効果時間がきれて、ピクちゃんがハッっと目が覚めた瞬間にピギャァァッって感じになって大パニックに陥ったのは記憶に新しい。

 ステータスに状態異常耐性や無効をもつピクちゃんにとって、スリープ系の術や薬などは効くはずがないと俺も、そして本人も思っていたんだ、それまでは。

 それなのに自身の意思を完全に無視され、意識を喪失させられて無防備に眠りこかされるという経験は、ピクちゃんにとっては絶対にあり得ないことであって、よほどの恐怖だったらしい。

 なのでその状態へ自分をアッサリ落としこんだ、この魔法薬に過剰な反応をするのは、いたしかたないところだ。


「う~、も、もうっ、その薬を出すときは先に言ってくれなくっちゃ、ビックリするでしょっ!」


「わかった、わかったからね、ね」


 魔法薬をボックスに仕舞い、ピクちゃんをなだめてふたたび肩車してから、BBQポイントの標的から10メートルほど横へと転移する。

 そこに居たのは全長30メートルぐらいで、胴回りが直径2メートルちょっとの真っ黒な龍で、まるで光を反射せずどこまでもひたすら黒くて、暗闇の蛇といったところか。

 ピクちゃんが獲ってきた赤いのみたいに、西洋ドラゴン()の姿を想像しながら来てみれば、ん~、こういうのって東洋ドラゴン()っていうのかもしれない。

 いちおう解析をかけてみると、邪龍なんちゃら神闇うんちゃらとか表示されたけど、また神かよって思いながらスルーしてサッっとウィンドーと閉じた。


 俺とピクちゃんはクチに人差し指を立てながら当ててシィッ~っと合図を交わしあい、黒ヘビに俺だけ近づき魔法薬をボックスから出す。

 べつに普通に喋ってもバレないのだが、忍び寄るという雰囲気を楽しむために、念話とかは使わず声も出さないで、ゼスチャーでピクちゃんと意思疎通をはかってみた。

 俺が今から嗅がせるよって仕草を見せるとピクちゃんも乗ってきて、さっさと嗅がせて魔法薬を仕舞えって言わんばかりに、顔をそむけて鼻をつまみながらクチで呼吸をしつつ、シッシッっと手の甲で追い払うような仕草をする。

 そういうことならと、鼻先で容器を開いて鼻から吸引させて、黒ヘビにはすぐに眠ってもらおう。


 それまでは浅く眠っていてもトグロを巻きながら体制を整えて、周囲の気配を感じ取りつつ気を張っていた黒蛇が、完全に脱力してグデッっとなった。


「ほい、眠ったよー」


 魔法薬をボックスへ仕舞いピクちゃんを呼ぶ。


「フゥ~、あるじ、それからそれから?」


 俺は黒ヘビの人間で言えば耳元あたりへ移動して、完全に眠ってしまっているそいつに小声で話しかける。


「(お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・すっ)」


「プハッ! あるじっ、それ、アイドルとかの寝起きを撮影するヤツじゃん」


「ごめん。俺、ボケないと死んじゃう病なんです」


「も~、それで次はどうするの?」


「はい、まず取り出しましたるは、この厚手の毛布と荷造り用ビニール紐。そして、その毛布に水をタップリ含ませまして、息を吐ききったところで黒ヘビの鼻を覆うように被せてから、ズレて落ちないようにクチごと紐で結わえて準備完了」


 2人で眺めながら20分ほど待っていると、フガフガ、フググウ、ガクッっで動かなくなった。

 ※よい子は絶対に真似してはいけません。


「はいっ! 逝ったー」


「あっさり決めたね、あるじ~」


 わーいパチパチっと軽い拍手をするピクちゃん。


「まあ、今回のこれは水中では使えない方法だし、動き回る相手にだと自分でも魔法薬を吸い込んで、自爆する可能性があるけどね」


「それはそれで見てみたいかも。あるじが、敵と一緒に並んで眠りこけてる姿」


「いやいや」


 今回の狩りの目的はシンジュちゃんへのお土産にする威石なので、邪龍をポイッっとアイテムボックスへ放り込み、今回の解体はボックス内作業領域でパパッと済ます。


「あるじあるじ、どんな感じ」


「うん、こいつは持ってるね、核、あと魔石。すぐに出すよ、はいこれ」


「きゃほ~。あるじ、はやく~。はやく赤い石みたいにしちゃおうよ」


「了解。ではでは、稀代の錬金術師ピク殿、よろしくおねがいします」


「あいあいさ~」


 それから、緋心威石と似た要領で、龍核と魔石を圧縮・精製・融合させて、こんなんなりました。


 黒深威石:膨大な力を内包する秘黒石。

 力のある~…………っと以下は同じような説明が続いていたが、赤石の時は最後にあった“※おまいらっ!! 何して~~”は、表示されてなかったな。


「おっし、完璧だよピクちゃん。では帰るまでの保管もよろしくおねがいします」


「ムッフゥ~、まっかせなさ~いっ!」


 ほくほく顔のピクちゃんは、さっそく黒石を自分専用ストレージへしまいこんだ。


「あるじ、今回は黒だったね~」


「単純な大きさと密度だけなら、前回の赤より上かもね」


「黒い石だから、シンジュちゃんが不良になっちゃったりしてね~、ムフフッ」


 ひと段落ついたのでそういえばっと、この邪龍のステータスを見たときのことをクチにする。


「前の赤トカゲもそうだけどさ、この黒ヘビにもステータスに神って入っててさ、もうなんか神の大バーゲンで大盤振る舞いだな、この異世界は」


「あるじ、このヘビは神だったの?」


「ピクちゃん、そもそも神って言葉はその者の種族を言い表しているわけではなくて、誰かが何かの大きさや強さなんかを表現するための曖昧な単位ってだけだから」


「ん? どゆこと」


「神ってのは“ものすごい、とてつもない、すさまじい”みたいな言葉とおんなじ類義語ってことだね。ん~、ほれピクちゃん、足元みてみ」


「え~、なになに、蟻んこ?」


「そうそう、そのアリから見たら俺やピクちゃんは神のごとき力の持ち主なわけだけど、俺は自分を神だなんて名乗る恥ずかしいやつにはなりたくないな~」


「ブフッ、たしかに。シンジュちゃんなんかも世界樹を神聖視してる人たちから(あが)めたてまつられそうだね」


「それだけならいいけど、その信者たちが自分の思っていたのとちっが()ぁ~うとか、自分たちにとって都合のいい存在じゃないから異端だぁ~とか言い出す確立のほうがたぶん高いとおもうな、俺は」


「あ~、有りそう。私はあなたを崇めているのだから、あなたが私を助けるのは当然のことだとか言いそうだね、ウェッ~」


 まあ、ちょっと思いついたからピクちゃんと話はじめたけど、神とか信者とかどうでもいいよな。

 これで話しは終わりにして、俺のメインホームがあるシンジュちゃんのフィールドへ帰るために、この場で異界門を出してしまおうか。


「あるじ、こっから直接?」


「うん、シンジュちゃんのとこに戻るのはどこからでも大丈夫かな。だけどこの世界へはマーカーを設置してある簡易拠点のログハウスの場所じゃないと、今のところは戻ってこれないけどね。じゃ、帰ろうピクちゃん」


「うんっ!」


 ピクちゃんはバンッっと扉を開いて元気よく入っていく。


「シンジュちゃん、たっだいまーーー」


 ◆

 ◆

 ◆


 あの2人が街を出ると聞き、慌てて待機していた即座に動ける密偵を尾行として数人つけたのだがの。


「撒かれたとな。ヤツラが門から出発したであろう時間から10分と、もたなんだか」


「「「ハッ、申し訳ありません」」」


 予想はしておったが、この3人もボンクラではないしの、あやつらのほうが上手(うわて)だっただけじゃな。


「うむ、まあよかろう、織り込み済みじゃ。して、どのような感じだったのかの。向かった方向は?」


「ハッ、向かった方向は森外縁へ道なり、我らがどのような撒かれかたをしたのかというと、御2人の気配が徐々に薄くなっていき、まるでキリ()カスミ()に紛れるように消えてしまいました」


 まるで仕事をさせてもらえなかった3人は、かなりプライドがきずついたのだろう、くやしげな表情を見せる。


「3人とも気にするでない、十分じゃ。どちらかの魔法かスキルなのだろうが、もしかしたらわざわざ門から出ずとも、街の中で消えることさえできるやもしれんしの」


 そう話をしていると扉の外からこの部屋へ訪ねてきて入ろうとしている誰かの気配を感じて3人に目配せして姿を消させる。


「久しぶりー」


「ご無沙汰しておりますギルドマスター様」


「久方ぶりでございますギルドマスター殿」


「うわっ、ほんとにギルドマスターが幼女になってるよ。これってなんていうんだっけ……年増の幼女って、たしか聖典に載ってたよな」


 横の少女、聖女と呼ばれている娘にスネを蹴られて言葉を止め、同道している騎士に聖女殿にお任せいたしましょうと手を引かれる勇者(ガキンチョ)


「死にとうなければその先はクチにするでないぞ、小僧」


 別の意味で頭の痛い面倒なヤツが訪ねてきた。

 勇者、と言えば聞こえがいいがただのクソガキで馬鹿。

 聖女と騎士は山頂消失の調査のために聖域の奥へ足を踏み入れるための根回しと、許可ももらいたいのであろうな。

 アールジやピクといきなり鉢合わせしなかったのは不幸中の幸い……今チラッと頭をよぎった嫌な予感はなんじゃ。

 あの広大な大樹海内で偶然にも、なんて、こ、これがフラグってやつかや。

 ――ブルブルッ、考えただけでゾッとするわい。


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