迷宮都市に到着
ガタガタゴトゴトと馬車に揺られながら迷宮都市へむかっている。
同乗させてもらう交渉は拍子抜けするほどアッサリまっとまった。
むしろキャラバンのリーダーの方から、ピクちゃんとその連れか? っと声をかけてもらう始末だ。
4人を乗せた一行とすれ違った際に、街道を歩いてるのを見かけて、もし良かったらと言われてたらしい。
それならと、俺は乗車賃と謝礼がわりに銀貨を2枚リーダーへ渡し、おねがいすることにした。
リーダーはすぐに多すぎると言おうとしたが、俺はその分融通を利かせてくれと頼んで、交渉はそのまますんなり成立した。
ピクちゃんはすでにキャラバン内の女性メンバーと仲良くなって、キャッキャと楽しげに会話しながらリサーチに余念はなく、井戸端情報はお任せだ。
街へ到着するまでに護衛たちの見せ場も数度あって、獣とか魔獣を撃退したり獲ったりしていたが、俺はでしゃばることなく大人しく見物させてもらう。
馬車の外を眺めているかたわらキャラバンの周囲に目を配っていると、おっさんが俺に声をかけてきた。
「よお、あんちゃん。探索者には見えないが、なりに行くのか?」
「いえ、そういうわけではないです。ただ、迷宮ってのは1度は見てみたいですね」
「冒険者なんですか?」
今まで話しかける機会をうかがっていたようで、今度はまだいかにも駆け出しって感じの兄ちゃんが話しかけてくる。
「いや、どこかに登録したりはしてないかな」
「あのっ、妖精なんてどこで獲ってきたんですか? もし、よかったら教えてもらいたいんですけど。場合によっては報酬もはずみますよ」
「ブハハハッーーー、獲ってきたってあんたっ!」
ピクちゃんをカブトムシやクワガタと同じような採取物あつかいするのを聞いて、思わず吹きだしてしちまったよ。
侮れんゾこいつ――
俺に対する兄ちゃんの考えなしな質問を聞いたおっさんが、血相変えて近寄りあんちゃんの頭におもいっきり拳骨を落とす。
「いってぇっーーー!!! なにすんですかあっー!」
「バッ、馬鹿かっ、お前っ! スマン、まだコイツ全然分かっちゃないんだ。気を悪くせんでやってくれ」
「あはは、大丈夫ですよ。実害があったわけではないですし。それに、今の質問が出るってことは妖精とかの種族はあまり一般的ではないんですよね?」
「ああ、少なくとも俺は生まれてこの方40年ちょっと、1度も見たことない。話としては残っているが今この大陸に居るってのを聞いたことはないな。別大陸にならってところだろうが」
「なるほどね。別大陸へはどこから渡ることができますかね」
「大陸北部から北の海峡経由が無難だろうな。他は格段にリスクが高くなる」
「へ~」
そこでふたたび兄ちゃんが話に入ってきた。
「でしょー、だから、もしこの大陸にも妖精族の住処があるんなら「あるんなら何だってんだ、んっ?」、あ……」
「えっとさ~、俺たちが偶然このキャラバンにお世話になってさ、せっかく同じ馬車に乗り合わせたんだし、短い間だけどお互い気分よく過ごせるんなら、それに越したことはないとは思わないか? お前、早死にするタイプかもな」
「うっ、あの……」
あ~あ、処置なしって感じでおっさんも呆れ顔だ。
「例えば俺たちがこの馬車に乗せてもらう前の自己紹介で、きのう30人ほどの盗賊たちを皆殺しにしてきましたって言ったら、お前は今みたいにピクちゃんをペットか何かみたいにあつかえるのか?」
「えっ! そんなまさか」
「そうだよな、そんな危険人物を馬車には乗せないよな。じゃあ、俺がなんでもかんでも今までの悪事なんかも正直に話すかな、どう?」
「話しません」
「兄ちゃんがすべてをさらけ出し体当たりで腹を割って話すってのも、時と場合によっては相手に伝わるものがあるかもしれないけど、死に直結するような場所でそれをすると高い確率で現実になるよ、己の死ってやつが」
「はい、気をつけます。妖精のピクさんを見て少し舞い上がってました、すみません」
「君より目端の利く海千山千なあちらの方も、大っぴらに行きすぎだ、馬鹿正直すぎだ、って言いたかったんだよきっと」
そう言っておっさんを見て話を振り、後のフォローをさせる。
「すまんな。こいつ若いわりに見所あるんだが、いかんせん積極性がこうじて暴走するときが多々見受けられるんだ」
「いえいえ。あれだな、君は商売するにあたって、おもてなしの心で裏しかないぐらいに、表情を取りつくろう心構えでちょうど良いんじゃないかな。今は腹に一物かかえきれずに早漏ぎみだからね」
兄ちゃんに冗談っぽく言うと、おっさんものってきた。
「ブハッ、クククッ確かにちょっと早すぎるな」
「ま、まいったなぁ~」
「なになに、なんの話してるの~、あるじ」
「ああ、ピクちゃん。持続力や持久力という男にとっての永遠のテーマを語り合ってたんだよ」
「なにそれ~、へんなのっ」
ほどなくして予定どおり日が暮れる前には街に到着した。
俺たちはキャラバンと一緒に街に入ることはできないので、手前で下ろしてもらい別れ際にあの兄ちゃんに声をかけておく。
「んじゃ、めげずにガンバレ」
「はい、お世話になりました」
「いやいや、お世話になったのはこっちだから」
キャラバンメンバーに手を振りながら別れて検問所へむかう。
時間的にラッシュで込み合っているのを覚悟したが、ほとんどの人は通行するための証明を所有しているらしく、門に通過手続きで並んでる人は意外と少なかった。
無証明の俺たちは審査用魔道具でチェックを受けて問題なく仮入街証をもらい1週間以内2人分で小銀貨2枚渡した。
聞いたところによると、行商とかで荷物があって証明が無いと売り上げが吹っ飛びかねないほど高額になるらしい。
「あるじ、なかなか大きな街だね」
「広さは東京ドーム約17個分ぐらいか」
「……それって、あるじが居たとこのファンタジーな遊園地の広さじゃん。ピクが知らないと思ってるの?」
「ごめん、適当言いました。一度この単位を使ってみたかったんだよ、普段はまず使う機会がないから」
「それより、さっき門の守衛さん? にあるじが聞いてた、おすすめ宿屋に部屋取って街ブラついてみようよ」
「そうだね。迷宮ギルドには明日行くことにしときますか」
街まで乗せてもらった馬車での様子だと、まず間違いなく俺とピクちゃんに絡んでくるのがいるだろうから、そこそこのセキュリティーにしておく。
「あるじあるじ~、結界の追加効果はショックぐらいにしとく?」
「うん。害意・敵意のある接触だけに反応で、スタンガン程度の強さでいいでしょ。あ、持続効果5分でいこっか」
電撃への忌避感を精神的に植えつけて、俺らにチョッカイ掛けるとエライ目にあうという広告塔になってもらおうか。
「チェイン効果なんかも付けちゃおっか、ムフフッ」
「いやいやっ、それ大惨事になるから」
「キャハッ」
「その代わり、マジック・カウンター・マジックはキツめのマジックボムで敵の意識を刈り取っちゃっていいよ」
「うん、そうするよ。カウンター20倍設定にしとくね」
簡単に説明すると、俺らに攻性魔法でアプローチをするとその使用MPの20倍が相手のINTへ叩き込まれ、魔素酔いで急性アルコール中毒のような症状に陥り、仮に逃れても精神力へのショックはそれなりに喰らってもらうというハードキル的なパッシブ防御魔術だ。
あとは、わざわざ雑魚を呼びこむ必要もないので気配を希薄化して、一般の人にはこちらから声を掛けないと気が付かれない感じに薄めておいた。
それでも進んで広告塔になりにきてくれるアホは後を絶たず、まったくありがたいことだな。
宿で1泊分だけ部屋を取り、夜の街へくりだしブラブラしてみた。
ピクちゃんは肩車になり、あっちあっち、こっちこっちと、俺を誘導する。
しばらく歩き情報収集の定番、酒場らしきところへ入ってみると、面白そうな話をしてるヤツがいた。
「にいさん、面白そうな話をしてるね。俺も聞いていいかな? オーイ、この兄さんたち3人に酒を頼むよー」
店員を呼びお酒をおごりながら色々聞いた。
「お、あんちゃん、いいのか? んじゃ、遠慮なく」
「続報はまだだけど、南でちょっとした紛争が起こったらしいぜ」
「ああ、おれんとこのクランのヤツが使役獣で情報を得たらしい」
俺は使役獣? っと思い聞いてみると、伝書鳩みたいなものらしい。
「まだ動くには時期尚早だが、本格的になれば戦闘特化のヤツラは特需をあやかりに南へむかうだろうから、迷宮都市も一時手薄になるな」
「なるほどね。面白い話ありがとう、兄さん方」
「「「おうっ、こっちこそごっそさん」」」
酒場をあとにして肩車なピクちゃんと話しをしながら宿屋へ帰ることにする。
「あるじ、さっき聞いたのって王女ちゃんとこの話だよね」
「だね。王女ちゃんの父上もちゃんと動いたようだしなによりだ」
「あっ、あるじ、13歳ちゃんたち4人、大丈夫かな」
「う~ん、たぶん。この迷宮都市まで情報が届いてるってことは、4人が同行した商隊もこの情報を手にしている可能性が高いと思うよ」
部屋に戻り、翌日はギルドの混みそうな時間を避けて、遅めに行動開始しだ。
宿屋のおやじに挨拶してチェックアウト? する。
今は午前10時ぐらいで街を歩く人の層がガラリと変わっていて、冒険者や探索者はほとんど見かけず商人や主婦、子どもの姿なんかもチラホラ目にするようになっていた。
15分ほど歩いてギルド前に到着したのだが、なんかイメージと違って予想以上に立派だった。
「あるじ、これが、ギルドの建物だよね。でっかいね~」
「うん。迷宮って儲かるのかな? 早速入ってみようよ、ピクちゃん」
ピクちゃんを肩車してギルドのドアを押すとカランカランとベルの音がしながら開いた。
これで現代のセンサーによるピンポンみたいのが鳴ったりしたらガッカリだったが、そのへんは昔の稀人さんも空気を読んだらしい。
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そういえばと、普段から荒くれな雰囲気の護衛たちが、2人に対してなんの反応もしていなかったのを不審に思い、護衛任務の男たちに聞いてみた。
すると、あの男とピクちゃんに不用意な行動を取らないように、出会う前に一度、姿を見たあとさらに厳しくもう一度、護衛隊長からお達しが傭兵や冒険者に回っていたらしい。
「俺たちが実力をつかみかねる、はかりかねるって時点でもう普通じゃねぇって話だよ」
それになっと、キャラバンのリーダーに話が引きつがれる。
「あの男は同乗の際に謝礼として銀貨2枚ポンっとよこしやがった。世間知らずのボンボンでもあるまいし、手荷物なしの便乗2人分には破格すぎるだろ」
「金を惜しむところと使うべきところ、要するに金の使いどころを知っているってこった」
「あの瞬間にただの客から、キャラバンのお客様になったわけだしな」
こんなかんじでキャラバンの主要メンバーたちからも、次々にあの男への寸評が聞けた。
そして護衛隊長からの言葉でさらに頭をガツンっとぶん殴られたような衝撃をうける。
「一つ教えといてやると、うちのスカウト職がステータスを覗いたら2人ともオール1だったそうだ」
「え、そんなまさか」
「ほら、もうすでに驚くところがずれちまってる」
「どういうことでしょう?」
「あのなぁ~、オール1ってのは覗いてるの知ってるぞって意味なんだよ」
「うわっ!! ――鳥肌たちましたよ、今っ」
俺の乗っていた馬車に付いていた護衛からも声がかかる。
「お前の、どこで獲ってきた~ってセリフを聞いたときゃぁ冷や汗もんだったぞ、実際」
「うう~、面目ない」
「たぶんだけど妖精にも聞かれていたな、あれ」
「イッ!? マジっすかっ!」
「それに、ただの例えっぽく言っていた30人皆殺しってのも、あながち嘘じゃないかもしれね~ぞ~。2人に会った経験を次に活かせなきゃ、あの男が言っていたとおり早死にするかもしれねえな、お前」
……はぁ~、自信なくすわー。
俺、こんなんでこのさき生き残っていけるんだろうか。
今回たまたま参加させてもらった商隊の遠征で、口先だけではどうにもならない相手ってのが居ることを、骨身にしみて分からせられた。




