ちょっとした気まぐれ
俺の目が覚めた時、ピクちゃんは俺の顔に大の字で張り付いていて、ずっと前に観た映画の1シーンで、どこぞの宇宙生物がお腹の中に卵を産み付ける時のような体勢になり、スヤスヤムニャムニャ夢心地。
ちょっとした悪戯心でピクちゃんを舌でベロンと舐め上げてみると、物凄い反応で飛び起きた。
「ふぎゃああっーーー#$%@¥」
「うおっ」
「なっ、ななな――」
「アハハ、おはよう、ピクちゃん」
「ナメタアァァーーー!! ピクの、ピクの、股間をっ、お股をっ、嘗めたああっーーー!」
「おおう、ほんのり塩あじ」
「プッ……」
「プ?」
なんだかピクちゃんはプルプルとわななきながら顔を下に向けた。
俯いていて表情が見えないから分からないが、た、多分だけど、笑っては……ゴクッ、いないのは確実、か、な……うん。
「プラズマフレアッーーー!!!」
「どあっーーー!! チョチョチョッ、ちょっと待ったぁぁ! ゴメンゴメン、ゴメンナサイッ!」
ヤベェ、ヤッベ~、結界で防いでもあんなん長時間浴びたら、低温火傷でお肌に赤みがさして、むずがゆくなりかねん。
「フゥゥゥッーーー!」
うわっ、威嚇している猫みたい――だけど、これを指摘すると多分死ねるな。
ここは思いっきりピクちゃんをヨイショして空気の読める主をアピールしておこう。
出発前に機嫌を直しておいてもらわねば。
「そ、そうだよね、塩あじってのはあんまりだよね。そう、例えるな仄かな甘みと爽やかでフルーティーな香りが鼻へと「ちがうっ!!」お?」
「味わいから離れてって言ってるのっ! なに人のお股をワインソムリエみたいに語ってるのよ、まったくあるじは!」
「え?」
あれ? 俺なんか間違ったかな。
「え、っじゃありません。それよりお風呂っ! はやくっ!」
「はいぃぃっー、只今っ!。ただいま用意させて頂きますっー」
俺がテントから飛び出して風呂の時間凍結を解除しに向かおうとしたら、中でピクちゃんがクネクネしながら、もうもう、あるじったら~、しょうがないんだから~、とか言いながらイヤンイヤンってしてるのがチラッと見えた。
あれれ? 怒ってないのかなっと、ピクちゃんの様子を窺ってみると――
「ダッシュ!」
「ヒィ~~」
ギッって感じで――キッっじゃなくてギッね――睨まれちゃったよ……女心はよく分からん。
風呂の用意しているうちに4人も起きてきたのでピクちゃんと入るように進める。
ピクちゃんはと言うとさっきの悲鳴の件で13歳ちゃんに心配されて、どうしたの~っと質問攻めされハハハと乾いた笑いで誤魔化していた。
俺が風呂から出たあと1時間ほどで朝食を済まして、今から山賊たちのお宝をある程度を分配譲渡してやるつもりだが、その前に昨夜つくった物の準備をする。
「ピクちゃん、4人から髪の毛を1本だけ貰ってきて」
「はいは~い昨日のだよね、あるじ」
「そうそう、これ個人認証付きだからさ」
そう言いながらピクちゃんが貰ってきた髪の毛で、内部時間停止させ拡張容量6畳ほどにした、垂れシズク型ディメンションネックレスに、個人登録を済まして全員に1個づつ渡して4人に使用方法を説明する。
仕様としてはゲームとかのアイテムボックスが近い。
追加で魔法が付与してあり、アポーツで離れた場所から呼びもどせ、マジックステルスで他者に認識されなくできる。
これは一応彼女たちの安全のためにつけておいた。
あとは個人認証の説明を代表として21歳ちゃんにする。
「今みんなのシズクにはチーズケーキ4ホールとフルーツソース。銀貨30枚で300万入ってるんだけど、分かる?」
「はい。こ、これは?」
21歳ちゃんが質問してくるのをとめて話をつづける。
「こんどはこれ。これは王女ちゃんを登録したものなんだけど見てみ。あとお互いのを見せ合ってみてみな」
今度は全員に王女ちゃんのを見てもらうと17歳ちゃんが反応する。
「あ、中が見えません。あ、他の子たちのも」
「うん。それが個人認証ってことね。俺は製作者でピクちゃんはパートナーだから使用できるし見えるけど、基本ほかの人のは見えない」
それから全員にアポーツやステルスを試させてから、俺の取り分を4人に見せて彼女たちの持ち物は入ってないか聞き、無いようなのでアイテムボックスへ仕舞う。
「あるじあるじ~、台の上に山賊のお宝をおいたよ~」
「ありがとう、ピクちゃん。4人には自分たちの持ち物と分け前としてそこにある物を自由に選んで良いよ、あげるから。余りは鋳潰しちゃうんで遠慮しなくていいからね」
俺たちと4人で5等分の均等割りにしたシズクの中に入れてある銀貨30枚の方が、台に置いた山賊のお宝より見入りとしてはよかったりする。
もしかして山賊とかって儲からないんじゃね、リスクばっかり高くって。
「でも、いいんですか? こんなにしてもらって」
「まあ、ちょっとした気まぐれかな。今見せたけど俺たちの分はもらったし、街での通行料金や数日分の旅費があれば事が足りるから」
「ピクたちは現金の持ち合わせが無かっただけだからね~」
「あと、これを届けてあげてほしいんだよ。俺が女性冒険者に依頼して報酬がそれって考えてもいいよ。あ、無いとは思うけど危険が伴う場合は無理に完遂しようとしないこと。分かった?」
そう言って冒険者の顔になって頷く21歳ちゃんに、王女ちゃん用ネックレスを手渡す。
俺たちは東の迷宮都市に向かい、彼女達は南の小国郡のどれかに帰って生存報告や他にすることもあるだろうしね。
「ほらほら、みんな。あるじが良いって言ってるんだから、好きなの貰っていいんだよ」
まだ少し遠慮ぎみの女性陣へピクちゃんが手を引っ張ったり背中を押したりしてお宝のところに連れて行って選ばせる。
「へんに絡まれそう・足がつきそう・巻き込まれそう、みたいに面倒事の匂いがする物は避けるのが無難かな。残りは俺らで処分するから」
「ピクも選ぶのてつだってあげるよ~」
ピクちゃんが13歳ちゃんのサポートに付き4人は1時間ほどで分配を終え、いわくありげな物は俺が引き取って残りは山賊どものアジトごと埋め潰し、風呂場も解体して更地にもどした。
「んじゃ、出発準備ができたから全員同時に範囲転移で纏めて街道にでます。ピクちゃんは肩車で4人も俺の周りに集まって下さーい」
「はいはーい」
ピクちゃんに手を引かれた13歳ちゃんはニコニコしながら、他の3人は恐る恐る俺の周りにあつまってきた。
「そういえば森の外縁部に沿うように通ってる街道の、更に南東側に、かなり大回りするような感じの遠回りルートも有るな」
「ピクの予想では東にある町と南部の国々を行き来するのに、三四日は余分にかかりそうなんだけど需要あるの?」
ピクちゃんも意識内表示しいるマップをみながら21歳ちゃんに質問する。
「はい。通常は時間が掛かるけど危険が少なく割安な遠回りルートを使います」
「なるほど。森林側のルートは外敵の出現率が高いってことか。見通しも悪く姿を潜ませる場所には事欠かないし、奇襲にうってつけだろうな、森の周辺は」
「はい……」
おっと、21歳ちゃんが少し表情を曇らせてしまった。
キャラバンが襲われて捕まった時のことを思い起こさせてしまったか。
「あまり気の利いたことは言えないし柄じゃないんだけどさ、終わりよければすべてよしとか、強い者が勝つのではなく勝った者が強いんだとか、そんなような言葉を聞いたことない? 聖典なんかに載ってそうだけど」
「あっ、あります!」
俺が4人に聞くと即座に17歳ちゃんハイッハーイッと手を上げるような勢いで反応した。
もしかしなくても、この子って聖典とか稀人マニアで間違いないよな。
「酷い目にあった君たちは、山賊どもに対して思うところがあるだろうけど、ヤツラは俺とピクちゃんに皆殺しにされて、君ら4人は生きて再び日の当たる場所へ返り咲いた。俺が思うに、これって君たちが山賊に勝ったともいえるんじゃないかな」
「だね~、ピクもそう思うよ。生き残ったもの勝ちだね」
「過程に最良を求めて結果が最悪なんて結末より、そこそこの結果を出して過程は後で適当に反省する程度の方が、無理がないし気楽でいいでしょ。何事もほどほどにで、運も実力の内ってやつだよ」
「どんなに強くて賢い不死身のように見える存在でも、運が悪いとアッサリ死ぬのをピクはいっぱい見てきたよ。4人の運が山賊たちのを僅かでも上回ったからこそ、偶然ピクとあるじが現れたわけだしね」
13歳ちゃんなんかは俺達が通りがかるのが一日でも遅かったら、間に合わなかった可能性が高い。
「それにヤツラを瞬殺するような力がある俺やピクちゃんでも常勝無敗ってわけではなくて、俺なんか――VRMMO内で――幾度となく死にそうな目にあったし、ボロボロになりながらの敗走なんてそれこそ数え切れないよ。そしてピクちゃんでさえ休眠状態に陥ったことがあるんだ」
「そうそう」
「だから今は只、生還を果たしたのを喜んでおけばって話なんだけど……う~ん、なんか俺のキャラじゃないわ~」
「あれれ~、あるじ、照れちゃってる~」
そこ、ピクさん、ヤメテクダサイ、マジで。
はっきり言って俺とピクちゃんは山賊のお宝をぶん取ってやろう程度の考えだったし、悪人どもの敵は善人なんてことはなく唯の傍若無人ってだけなのに、それを知らない年上3人のキラキラした視線が痛い、痛すぎる。
「ととと、と、とにかく出発します」
目標地点に転移後、そこから3キロほどを南方面へ13歳ちゃんの歩調に合わせて歩いて進んだころ、東から南へ向かう中規模商隊が通りかかる。
護衛の1人が冒険者としての21歳ちゃんを知っていて、交渉の後に4人を同乗させてもらえることとなった。
13歳ちゃんの今後は21歳ちゃんが手を尽くしてくれるそうで、さすがに多少なりとも面識のあるあの年齢の女の子を、知らんぷりで放り出すわけにはいかないので助かった。
「いっちゃったね、あるじ」
「もういっそのこと物語で出てくるような“わたくしを助けなさい”みたいに言い放つガチ貴族令嬢あたりだったのなら、もろとも皆殺しで手間が無かったんだけど」
「いい子達だったね」
「王女ちゃんと言い、イレギュラーにも程があるよな」
「あるじ~、このままハーレムルートに入るのかと思ったよ」
「なにをおっしゃいますやら、わたくしピクさん一筋でございますのに(むちゃ言わんでください)」
「あらまあお上手だこと(ハッ! この男、ビビリよった。ヘタレめっ)」
商隊を見送った後、さきほど全員で転移した目標地点へふたたび転移しなおし、そこから東の街へ向かってブラブラ歩いて進む。
「あるじあるじ、日が暮れる前には迷宮都市に到着できそうなペースで進んでるキャラバンが14時ごろには通過しそうだよ。ピクたちも同乗させてもらう?」
ピクちゃんが意識内表示マップを見ながら聞いてくる。
「頼んではみるけど、こんな場所を歩いてる俺らってかなり怪しいよね」
「じゃあじゃあ、ピクのわがままナイスバディーでウッフ~ン炸裂させてキャラバン攻略してあげるね」
「……ピクちゃん、そんなこと言ってると邪狼の餌食になっちゃうぞ」
「え? ジャロウってなんなんです~。なんでピクが餌食に」
「嘘・大げさ・まぎらわしいってやつだな」
「ムッキィィーーー!!」
◆
◆
◆
「以上です、ギルドマスター」
配下の第一次報告に老紳士が頷く。
「うむ、ご苦労。では誤情報に踊らされぬよう気を引き締め当たれ」
「「「はっ!」」」
世界各国の密偵達の動きが俄かに激しさを増していく。
原因は謂わずと知れた大山脈一部消失現象なのだが、齎される情報はどれも憶測の域を出ない。
遂に別ルート開通か・北の国に拠る秘術実験・天変地異の前触れ、どのような眉唾情報も今の状況では誰も否定できなかった。
北と南を分断する大山脈の切れ間で、陸路で南北への行き来が唯一可能な経路上に位置する迷宮と冒険者の街である、ここ中立緩衝迷宮都市に於いても例外ではなく、錯綜する情報に都市上層部は浮き足立ってしまっている空気を隠しきれておらず、対応に苦慮していることが感じ取れてしまう。
仮に別ルートなんて物が開通したりすると、人や物に新たな流通路を経由されて物流の量に影響が出る可能性があり、通り抜ける際に発生していたこの都市の大きな収入源の一つ、通過料金徴収量が著しく減少してしまうからだ。
その上層部から派遣された連絡員の落ち着きのなさを尻目に、配下への指示を終えたギルドマスターは会議室を出て行き、つき合っておれんと謂わんばかりにさっさと部屋へ戻った。
迷宮ギルド内マスタールームのプライベートなスペースで1人になってリラックスした途端に、マスターと呼ばれていて老紳士然としていた雰囲気がガラッと変化する。
フンフフ~ンっと鼻歌を歌いながらお気に入りの茶器を使う際に傷を入れぬよう、指にしていた迷宮産アーティファクトである指輪を外して変装を解いたうしろ姿は少女のそれであった。
「まったく、オタオタしおってからに、おのずと結果も出ようが。あらっ、このお茶、美味しいわね――」
――焦っても疑心暗鬼に陥るだけでしょうに。
それにしても今代の小心っぷりには辟易するわね。
あ~あ……あんた等の子孫たちが代を重ねるごとにドンドン小物になっていくのは、どうにかなんないかしら。
フゥ~、年取ると愚痴っぽくなっていけないわ。
ここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございます。
遅筆なので不定期になってしまうと思いますが、よろしくおねがいします。
では、みなさま良いお年を。




