第5話 タッグバトル
とりあえずリーゼントは倒したけど、どうするか。こいつが倒れている場所にずっといるのも嫌だし移動するか。
「ハロー、飛鳥ちゃん。奇遇だね」
曲がり角を曲がろうとした瞬間に雨音が現れた。
「こんな奇遇があってたまるか。ずっと見ていたな」
「いやだなぁ、たまたまだよ。たまたまレクレーション前にそこに無様に倒れている雑魚と会話して、たまたま偶然ここに来ただけだよ」
隠す気が全くないな。わざとらしすぎる。後、地味に毒舌だな。
「にしても凄いね。チーターの動きを捉えた上に一撃で倒すなんて」
「本人が弱いからだよ」
能力自体が凄くても能力を使う人間が弱かったら意味がない。実際、リーゼントも普通の奴よりも速いけどチーターには遠く及ばない。まぁ、チーターの動きなんて生で見たことがないから分からないけど。
「で、何が目的なんだ?」
「目的なんて大したものじゃないよ。そこの雑魚が私に一目惚れしたのか熱い視線を向けてきて気持ち悪いから懲らしめようと思っただけ」
やっぱりリーゼントをけしかけたのは雨音か。タイミング良く現れた瞬間に何となく予想していたが。
て言うか、それがリーゼントが俺に絡んできた理由か。全く気付かなかったな。
にしても一目惚れか。まぁ、雨音は性格はともかく容姿は良いからな。
「後は飛鳥ちゃんの実力を見るためかな」
「あっそ」
俺は確認することだけ聞くと雨音を無視して移動を開始する。すると上から木が降ってくるのが見えた。
「あぶねぇ」
俺はそれをバックステップで避ける。
て言うか、何で木? 当たったら、かなり痛いじゃねぇか。
「ちっ! 避けられたか」
声がした場所を見てみると背中に翼を生やした男が別の男を抱えていた。おそらく翼を生やした奴が何らかの鳥のビーストで、もう一人が木を落とした犯人だな。
て言うか、連戦か。しんどいな。まぁ、さっきのは戦闘というには一瞬で終わったけど。
「あっ! ホモカップル!」
雨音に言われて気付いたが、SHRの時に部屋替えを希望していた二人か。もう組んでいるということは、すでに付き合っているのか? 行動が早すぎる。
面倒くさいし、早く倒すか。俺はジャンプして空中にいる二人にしても殴りかかる。
「嘘だろ! 何だ、そのジャンプ力!」
空中で安全だと思っていたのか、抱えられている奴が驚く。だが鳥の奴は冷静に俺の攻撃を回避する。
「あまいよ」
ちっ。不意討ちで倒すつもりだったのに。思ったよりもやるな。
「ビビらせやがって。次はこれだ!」
今度は俺の着地の瞬間を狙って木が枝分かれして襲ってきた。今日、出来たばかりのコンビとは思えないほどのコンビネーションだ。これは避けられない。
「主人公のピンチに颯爽と現れる私って格好良くない?」
雨音が水の盾を出して敵の攻撃をガードする。しかも、水が高速回転して木を粉々に砕いている。こんなのを普通の人間が食らったら細切れになりそうだな。
「色々とツッコミどころはあるが一つだけ言わせろ。お前は颯爽と現れるどころか、最初から普通にいたじゃねぇか」
後は誰が主人公だ、とかピンチじゃねぇよ、って感じだな。食らったら多少は痛いけど、それだけだ。あの程度の攻撃でピンチになる俺じゃない。
「折角、格好つけたのに台無しだよ」
「知るか」
て言うか、何で俺を助けたんだ? 俺が攻撃を食らった後に追撃すれば、俺を倒せたかもしれないのに。本格的に何がしたいのか分からない。
「そっちもタッグというわけですか」
「どっちのカップルの絆が強いか勝負よ」
雨音と俺の間のどこに絆があるんだ? 俺には不信感しかないんだが。
「じゃあ、前哨戦も終わったところで名乗ろうか。俺は平塚慎吾。木のネイチャーだ」
雨音が入ってきたことで戦いを仕切り直すつもりか?
て言うか、前哨戦って。お前、明らかに不意討ちで俺を倒すつもりだっただろ。
「私は朝比奈透。鷲のビーストです」
「私は雨音眞由美。水のネイチャーだよ」
え? お前も名乗るか? 昨日も自己紹介したのにまた名乗るって面倒くさいだろ?
「「「…………」」」
三人の視線が俺に集中している。何、この空気? 俺も名乗るの?
よし、相手は隙だらけだし今のうちに倒すか。俺は再度ジャンプして平塚に殴りかかる。
「……何してるのかな?」
だが、雨音が水の鞭を出して俺を右手を掴んで止めてきた。雨音は俺の味方じゃないのか?
「ここは名乗るのが戦士としての礼儀でしょ?」
俺は戦士じゃねぇよ、とかツッコんでも意味はなさそうだな。仕方ない。
「西条飛鳥。能力は不明だ」
「え? 不明って、どういうこと?」
「俺の能力はまだ開花してないんだよ」
ネオは生まれつき能力を持っているが、能力が開花する時期は人によって違う。早ければ幼稚園ぐらいで、遅い人は二十歳ぐらいになる。まぁ、大抵の場合は小学校高学年から中学生の間だ。
能力を持っていることは生まれた時にされる調査で分かるが、能力の種類は開花するまで分からない。力が弱い場合は調査でネオだと分からず開花してから気付くケースも少ないながらあるらしい。俺は見たことないが。
「いやいや、あり得ないでしょ。そんな人が特別クラスに入れるわけがない」
「正確にはまだ途中までしか開花していないんだ。今の段階では高い身体能力だけ。だけど、その身体能力が他のネオと比べても優れているから例外的に特別クラスになったんだよ」
俺が開花しきっていないのは本当だ。能力の種類は分かっているが。
「……ふーん、なるほど。ネオはまだ解明できていないことが多いし、そういうこともあるか」
とりあえず雨音は納得してくれたみたいだ。
「じゃあ、まずはこれを外してくれ」
まだ右手に絡んでいる水の鞭が冷たすぎて感覚が少し麻痺ってきた。この水、冬の水道水よりも冷たいんだが。
「そうね。じゃあ、あいつらを蹴散らしましょう」
そう言うと、雨音は水の鞭を解除する。ふぅ、冷たかった。
「ウォーター・チェーン!」
雨音の周りから水の鎖が大量に出てきて空中の平塚と朝比奈を襲う。入学の時点でここまで能力を扱えるとは。
最初から何となく分かっていたが、ただの変人じゃなかったんだな。
「こうなったら俺を降ろせ!」
「仕方ないですね」
朝比奈が平塚を下に降ろして雨音の水の鎖を避ける。制空権をとって戦闘を有利に進める作戦だったんだろうが、こうなったら意味がない。平塚を抱えたままでは雨音の攻撃を避けきれない。
「食らえ!」
平塚が落下の途中で手から勢いよく木を出して俺に攻撃してきた。
「面倒くせぇ」
俺は木を掴んだ。ちょっと面積がデカイから掴みづらいな。まぁ、さっきみたいに枝分かれしてるよりはマシだが。
「嘘だろ!」
「オラッ!」
そして俺はそのまま木ごと平塚をブン回して校舎にぶつけた。
よし、これで平塚はリタイアだろ。
「このまま避けていても埒が明きませんね」
水の鎖を避け続けていた朝比奈が痺れを切らして、落下の勢いを利用して雨音に襲い掛かる。
「……かかったわね。ウォーター・ロック」
ニヤッと笑ったと思うと、雨音は朝比奈に対して左手を突き出した。すると雨音の左手から小さな水の球体が出てきた。その水の球体がどんどん大きくなっていき、突っ込んできた朝比奈を包み込んだ。
「ゴホッ……ガバッ……」
そして朝比奈は気絶した。
「……おい、窒息死してないよな?」
「大丈夫大丈夫。気絶してるだけだから」
「…………」
確かに死んではないがヤバい状況に見えるんだが。まぁ、先生達がカメラで見ているだろうし助けてくれるだろ。多分。