第一話 入学
俺は今、かったるい入学式を終えて教室に向かっているところだ。周りには俺と同じように教室に向かっている生徒が何人かいる。
どうでもいいけど何で偉い人の話は長いのだろうか? 聞くのが面倒くさい。
何故か入学式なのに学園長は来てなかったのが気になったな。
ガチャ。
扉を開けて教室に入る。すでに中には何人かの生徒がいて話している。
ところで、どこに座ればいいのだろう? 座席表はないみたいだが。
「自由席みたいだよ」
俺がどうしたらいいか迷っていたら黒髪の女の子が話かけてきた。見た目は清純な感じだが、その表情は小悪魔を連想させる。こういうタイプは何を考えているか分からないから関わりたくない。
「そりゃ、どうも」
俺は適当に返事すると窓際の席に向かう。太陽の光が当たって眠くなりそうだ。夏になったら、暑くてしんどそうだな。まぁ、自由席なら移動すればいいだろ。
「私は雨音眞由美。君の名前は?」
俺が席に座ると、さっきの女が隣の席に座って話かけてきた。
「…………」
「ちょっと聞いてる?」
何で、この女は俺に親しげに話かけてくるんだ? 関わんな、って雰囲気を全力で出しているのに。
このタイプは無視しても、しつこくくる。俺の経験からして間違いない。名前ぐらい言っても問題ないだろ。
「西条飛鳥」
「へぇ、飛鳥ちゃんか。何か女の子みたいな名前だね」
まさかの『ちゃん』付け。確かに女みたいな名前だから今までに呼ばれたことはあるけど、初対面で呼ばれたのは初めてだ。
「……『ちゃん』付けはやめてくれ」
「え~、何で? 可愛いから良いじゃない?」
「おいおい、何をイチャついてんだ、この野郎!」
雨音とかいう女をどうしようか迷っていたら、時代遅れのリーゼントの不良が絡んできた。出来るだけ目立たずに暮らしたかったのに。何で教室に入って数分でこんな展開になってるんだよ。面倒くさい。
「おい、聞いてんのか、あぁん?」
「ああ、聞いてる聞いてる。一時間目の授業が英語なんだろ?」
「ふざけてんのか、てめぇ! 今日は入学式だから授業はないだろうが!」
ガチャ。
扉が開いて眼鏡でスーツ姿の女の人が入ってきた。何か胸元が開いていてスカートが短く、妙に色っぽい雰囲気の人だ。このクラスの担任だろうか?
「皆、今からHRを始めます。席は自由席だから適当に座ってね」
立って話していた奴等も急いで席に座る。やっぱり、この女が担任なのか。
「ちっ! 運が良い野郎だな。また後で来るぜ!」
リーゼントが不愉快そうに席に座る。後でも来なくていいぞ。
「私がこのクラスの担任の二階堂恭華です。三年間よろしくね」
胸元を強調して、こっちを誘惑するような仕草で挨拶する先生。俺以外のクラスの男子はその仕草にメロメロになっている。
いや、もう一人興味なさそうにしている奴がいる。俺と反対側の廊下側に座っているヘッドホンをした男だ。学校にヘッドホンをしてきて良いのか?
「ねぇ、飛鳥ちゃんは興味なさそうだけど、もしかしてホモ?」
「違う。そして『ちゃん』付けをやめろ」
初対面の女にホモ疑惑をかけられるとは。普通はロリコンじゃないのか? いや、俺はロリコンじゃないけど。
「君達はネオスクールの中でも選りすぐりのネオです。そして、その君達の才能を開化させた上で実践で戦えるようにするのが私の仕事です」
ネオとは五十年ほど前に急に生まれた特殊な能力を持った人間のことだ。人数は増え続けて、現在は世界の千人に一人がネオになっている。
そしてネオスクールはネオの育成を目的とした学校だ。まぁ、そんなのは建前でよく分からない謎のネオを管理して研究するのが、この学校の目的だ。
普通の人間からしたら、自分達よりも優れたネオの存在が恐ろしいのだろう。しかも、どれだけ研究が進んでも何故ネオが生まれたのかは未だに分かってない。
ネオスクールの中でも俺達のクラスは特別クラスと呼ばれている。
一般クラスはネオが普通の人間として活動出来るように能力の扱い方と一般教科の勉強をメインとしている。そして特別クラスはネオの能力を使った特別な仕事のための勉強をするクラスだ。具体的に言うとネオの犯罪の取り締まりが多い。
その為、特別クラスの卒業生は軍の秘密部隊に配属されることが多い。もちろん、それ以外もあるが。
ちなみに能力が足りない場合は一般クラスに転科されることもある。
「じゃあ、そんなクラスでまずは何をするか分かる?」
先生が一番前の席の男子を指差しながら言う。
「え~と、実践訓練ですか?」
「はい、違います。君は後で補修室に来てね。先生と二人っきりで特別授業を行います」
舌舐めずりをしながら言う先生。何か教育機関としてマズイ出来事が起こりそうだ。まぁ、俺には関係ないけどな。
「まずは自己紹介です。廊下側からよろしくね」
一話終了。感想をくれると嬉しいです。