3話
美月はワクワクしているのか笑いっぱなしだった。
「本来の神器の使い方を知って神器の大切さを知るチャンスですね。」
「でも、どうやって地上に降りればいいんだろう。」
そう。ここに来るまでのことは教えて貰えたのだがここから地上に行くまでのことは全く教えて貰っていないのだ。
すると美月は露骨に顔をしかめてこちらを見た。
「知らないで闇退治に行くと言っていたのですか。本当に主さまは虫クズにも劣ってしまうぐらいのド低脳ですね。」
いくら可愛くてもこの毒舌はないだろう。可愛いのに口が残念ってなん可哀想な子だな。
ついつい同情の視線で見てしまう。
「なにを見ているんですか。」
「いや、なんでもないよ。」
「そうかー、しかし本当にどうしますか。」
うーん、いくら悩んでも答えがでないのはわかっているが考えてしまう。
「はぁーーい、みーんーなー、ちゅもーく、あなたのそのお悩みをズバッと解決。天上の観察者、キロロンですよー。
あなたのお悩みの答えはー、はい、わかりましたー。ビンとこの鍵があれば解決しますねー。
しかーし、こちらも商売ですからいつもならたくさんふんだくるところ、今回はただにしてしまいまーす。
と、言うかあなた売れるもの持ってないでしょ。」
な、なにこの無駄にハイテンションな人。いや、神か。
まず何から突っ込んで良いのだろうか。いや、突っ込んだところですべてが藪から蛇な気がしてしまう。
その男は女の子物の可愛いフリフリの付いた水着を着てド派手な浮き輪を持って立っていたのだから。
僕はたっぷり三秒石化してから呟いた。
「誰か、この不審者を追い出してくれないかな。」
目が色々と汚れてしまうから。
ちらっと美月を見ると美月はあまりの衝撃に、どこかに逝ってしまわれていた。
「おーい、美月、正気に戻れよ。すいませーん、キロロンさんでしたっけ、すいませんがなにか服を持っていませんか。」
「持ってるよー。あ、これは罰ゲームだからね。気にしないで。」
そんなにこやかに言われても全然説得力が無いなんだけれど。
なんて恐ろしい罰ゲームなんだ。見る人に対しての破壊力が半端ないぞ。
多分見る人によっては思わず自分の目を潰したくなるぐらいの。
この罰ゲーム考えた人はこんな恐ろしい光景が見たかったのかな。
「ところで本当に無料でくれるの。」
「ええ、さっきっからそー言ってるじゃないかー。初回限定のただですよー。良かったじゃないですかー。もっとこう、喜んでくださいよー。」
残念ながらいかなるプレゼントだって女の子物のフリフリの付いた水着を着た変質者に渡されたら嬉しくはないだろう。
「なんで目をつぶっているのですか。」
自分の格好を見ろよ。そしたら僕の気持ちがよくわかるはずだ。
「悪いんだけど、鏡を貸して。」
「いいですよ。」
パチンと指をならすと手鏡が出てきた。鏡を受け取りキロロンに向ける。
するとキロロンは口を大きく開け後ろに倒れてしまった。さすが恐るべし変質者の底力。
「美月、大丈夫か。」
「はっ、なんですか。今、ものすごく恐ろしくて禍々しい存在が目の前に居た気がするのですが。」
「忘れた方が良いことも世の中にはあるんだよ。」
「.........................。」
「あー、なんか疲れたね。」
下を見せないようにしなければ。
「すいません、すいません、ちょっと友達の罰ゲームに対して驚きすぎてショックで固まってしまいましたよ。アハハハハ。」
「上着を着て下さったんですね。アハハハハ。」
乾いた笑い声だけがむなしく響き渡った。
「あ、あとこれが初回限定の無料のビンと鍵ですね。はーい、毎度ありがとうございました。
これからもキロローンショップを贔屓してくださいねー。頼みますよー。」
「ところで使い方はどうするの。」
「あ、取り扱い説明ですかー。そうですねー、ビンはただ持っていれば自然に人生キャンディーが集まるようになっていますしー、
鍵はー、そこの神器のこの鍵状の穴が開いているところに入れて鍵を回せば地上に行くことが出来ますよー。
それでは本当の本当にさようならー。キロロンショップはあなたがお悩みしているときにいつでも駆けつけますよー。」
それだけ言って去っていった。
「..................................。」
「..................................。」
僕達は長いこと黙っていた。そしてその痛々しい沈黙を破ったのは美月だった。
「も、もう二度と来ないでほしいですね。」
「同感だよ。」
深い深いため息が荒れている庭に静かにこぼれた。