ただの電波野郎でした。
スーツの上からエプロンを着て、キッチンに立つ。
ちなみに彼はソファに座りながら、テレビを見ている。
とりあえずスープとパスタを作ろう。
もしかしたら外人さんかも知れないし…。
彼を外人さんだと思う理由はいろいろあるが、一番は瞳の色だ。
心配そうに私の顔を覗き込んだときに見えた深緑色の瞳。
遠目からだと黒に見えるが、よく見ると緑色っぽいのだ。
綺麗な色だったなぁ。
なんて思いつつ、鍋二つに入った水を温め、野菜を切っていく。
「花、お前、料理が出来るのか。」
突如隣から声が聞こえ、反射的に彼から離れる。
彼は少し寂しそうな、バツの悪そうな顔で立っていた。
「わ、私、男性が苦手で…だから、あなたが嫌い…とかじゃないですよ」
そうか、とポツリ呟く彼。
「俺のことはルークと呼べ。
それと、お前は何を作っている?」
ルークと呼ぶべきなのだろうか。
いや、いきなり呼び捨てはアレだ。
ルークさんが一番無難だろう。なんて勝手に自己完結する。
「パスタとスープ…です。お嫌いじゃないですか。」
ちなみにパスタは麺を茹で、レトルトパウチをかけるだけの簡単なものだ。
流石に疲れてるので凝ったことはできない。
「食べたことはないが、話は聞いている。
この世界の飯は大体美味いそうだ。」
彼は電波発言をかましてくる。
彼の言っていることがよくわかっていないが、後で話してくれるだろう。
「おい、そこの鍋の蓋が小刻みに動いておるぞ。」
ハッと我に返り、鍋を見ると吹きこぼれそうになっていた。
火を緩め、パスタ麺とパウチを投入する。別の鍋に切った野菜を入れて、味付けをしていく。
その間、ずっと彼に見られていたのは言うまでもないだろう。
皿に盛り付け、テーブルに運んでいく。
彼はイスに座りながら、まじまじとパスタやスープを見ていた。
ご飯を食べるとあって、彼はローブのフードを取った。
黒髪に白い肌。そして整ったその顔。
…イケメンさんだ。
彼を見ていると、首を傾げ、どうした?とでも言いたそうな顔をしていた。
「えっと…じゃあいただきます。」
手を合わせ、スプーンを手に取る。
彼もいただきますと私の動きと同じことをしながら食す。
私の動きを真似ているようだ。
彼がスープを口に含む。口にあっているといいのだけれど。
「お前、料理専門の人間か?」
彼は瞳を見開き、訪ねてきた。
いいえと否定すると、さらに瞳を見開いた。
「凄いな、今まで食べてきた中で一番美味しいぞ。」
なんでこの人はそんな恥ずかしいことをサラッと言っているんだろう。
いや多分深い意味はないんだろうなぁ。
今まで美味しいものを食べてなかっただけだろう。
私はどうも、と一応答えておいた。
「ところで、このパスタ?はどうやって食べるんだ?」
私がいつまで経ってもパスタに手をつけないから、真似が出来ないと彼は言う。
食欲はまあまああるみたいだ。男の人だからだろうか。
「フォークで麺を軽く取って、スプーンの上でクルクル回して…」
私が実践してるのを追いながら、彼も一生懸命にやっていた。
まるで子供に教えているようで少し笑ってしまったが、真剣な彼は気付いていないのだろう。
その後、彼は野菜スープが気に入ったようで鍋に余ったスープも全て食べ尽くしてしまった。
「美味かった。
やはりこちらの世界の食文化は発達しているな…
これは舌が肥えるわけだ。」
一人でうんうんと頷く彼。
また電波発言ですか。そのネタはもうお腹いっぱいです。