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出会い

金曜日の夜、帰宅直後にそれは起こった。


「やぁ、どうもこんにちは。」


家のドアを開けると見知らぬ男性がニコニコと立っていた。

しかも真っ黒のローブを着て。…

あぁ私きっと疲れてるんだ。

軽く一礼をしてとびらを閉める。

部屋を間違えたか幻覚が見えたか。どちらでも疲れてることに変わりはない。


「何だ貴様、折角この俺が微笑みかけてやっているのに無視か!!」


突如怒鳴りながら扉を開けたあの男性。どうやらあの笑顔は作り物だったらしい。

しかし見知らぬ人がこんなふうに話しかけてくるだろうか。

…幻覚と幻聴だな。疲れがピークに達しているみたいだ。


「ええい!まだ無視を続けるか、この愚か者めが!!」


終始ぽかーんとしていた私は彼に腕を引かれ、家の中に引きずり込まれた。

左腕をつかみ、引っ張る感覚がしっかりとある。

つまりこの男は幻覚などではなく、実在している。

脳で理解した瞬間、私は。



『コイツあげる。好きに使っていいよー。』



あの人の声が走馬灯のように駆け巡る。


「嫌…やめてください…い、や…」


視界が歪む程の大粒の涙がとめどなく溢れてく。

怖い。男の人はみんな怖い。怖い。

そのまま泣き崩れる私の腕を彼はパッと離した。

無意識に体が震え、脚に感覚がなくなっていく。立てない。逃げなきゃいけないのに。


「…何故泣く。腕、痛かったか?」


戸惑うかのように彼は私の顔を覗く。

まるで子供を泣かせてしまった時のようなバツの悪い顔だった。


「あー…その、なんだ。勝手に上がり込んだのは謝る。緊急事態で仕方がなかったんだ。

それでだ、お前と話がしたい…んだが…」


彼は戸惑っているようだ。頬をポリポリと掻き、リビングの方を見つめている。


「すみ…ません。あ、あのソファに座って、話しません…か。」


声が震え、途切れ途切れの言葉を彼は理解したらしく、首を縦に振る。

しゃがんでいた彼は立ち上がり、私に手を差しのばしてきた。

掴まって立て、という意味なのだろう。私は彼の行為を拒否した。首を振り、大丈夫ですと。

脚に感覚はないが、壁に手を当て、なんとか立ち上がる。

彼は苦い顔で私を見ていた。




向かい合う形で一つの長いソファに座る。

彼は比較的真ん中であぐらをかき、私はソファぎりぎりの場所に正座で座る。

しかし、無言の空気が部屋全体を包んでしまった。

それから何分か後、彼から口を開いたのだ。


「…まずは自己紹介か。」


無音状態から彼の声が響き、少し驚いて体が跳ねる。


「俺の名前はルーク。

俺の世界では、この名を知らぬ者はいないぐらい俺は有名だ。」


えっへん!とでも言うかの如くご満悦らしい。

両手を腰に当て、ソファの上で立つ姿はまるで子供だ。

態度が異様にデカく、一般常識を持ち合わせていないらしい。

黒のローブといい、コスプレか何かか、ただ単に痛い人のようだ。

ますます不信感が湧き上がる私に、彼は目でお前の番とでも言うかのように訴えかけてくる。


「…川澄…花です」


はな、はな、はな…と舌に馴染ませるように私を連呼する彼。

そんなに真剣に名前をよばれ続けると、なんだか恥ずかしいものがある。

不思議と顔に熱が集まってくる。

その時、私の前方から謎の音がした。グー、キュルキュルといったお腹の鳴る音。驚いて顔を上げると、恥ずかしそうに真っ赤な顔をした彼がいた。


「よ、よーし花!!

これから話すことは長くなる故、食事を取ってからにしよう!!」


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