ストベリー・ジャム
妄想の世界なので、架空でしゅ!!
「おいっ、デコっぱち」
登校して席につくやいなや、後ろからあたしのオデコをペシペシ叩いてくる男子。
あたし、間宮 もも。
地元の公立高校に通う1年生。
この春から高校生になったんだよ。
大好きな食べ物は苺ジャム!
毎朝トーストに苺ジャムをたぁっぷりぬって食べてます!
んで、あたしのオデコを叩く男子は、佐々木 卓司、タクって呼んでる。
「だって、そのオデコ叩かないと一日始まんねーし。」
「なんで。」
「今日も一日無事に過ごせますように・・・って。」
しつこく指でツンツンしてくる。
無事にって・・・
「あたしは神棚でも、お地蔵さんでも、厄除けでもなぁ〜い!!」
このひろぉ〜いオデコが、あたしのコンプレックス。
こうやって卓司に叩かれるし、突っつかれるし。
「なんかご利益ありそうじゃねぇーか。むしろ、そのオデコが叩いて!って言ってるんだ。
叩くようになってから一度も怪我してないんだぜ!」
そんな得意げに言われても・・・。
「じゃぁ、金とるよ。お賽銭。」
卓司の前に手を出すと、
「縁起もんで商売すんなよなぁ。セコいぞ。そんなことより、お前またイチゴのチョコ食ってんの?」
「いけない?」
「太るぞ。」
「うるさい。」
「顔がつぶつぶイチゴになるぞ。」
「タクっ!」
もう〜。
卓司とはね、家も隣、幼稚園も小学校も中学校も一緒の“幼馴染”。
なんで高校まで一緒なの??
理由は簡単。
この高校、うちらの家の裏にあるからなんだ。
徒歩1分!
贅沢でしょ!!
あたし、どうしてもそこ行きたくて必死に勉強したもん。
中学が徒歩30分もあって遠くて、高校は絶対!近くがよかったんだよね。
電車やバス通学も憧れたけど(笑
卓司もきっと同じ理由だと思う。
そんでもって、なぜか一緒のクラス。
最悪ぅ〜(涙
何かにつけてケチつけてきたり、オデコ叩いたりちょっかい出してくる。
みんなに『好きな子にする典型的なパターン』ってよく言われる。
でもね!
“好きだからちょっかいだしてくる”ってのは無い!
だって、幼稚園から一緒にいるんだよ?
どっちかっていうと、使い慣れたおもちゃ。
そう!
あとね、いっつもあたしの恋路の邪魔すんの。
『お前じゃ相手がかわいそうだ』
とか、
『お前のそのオデコ見たらみんな逃げる』
とか!
とにかくムカつくー(怒
高校生になったら、たくさん恋して彼氏Getするんだからぁ!
なのに・・・同じ高校。
まぁ、それはしかたない。
キモチはわかるからさ。
でも、クラスまで一緒にしなくたっていいじゃなーい!!!!
「おはよん!」
高校入って初めてできたお友達、まりちゃん。
「おはよ!」
「また喧嘩?」
「違うよ、スキンシップ。いでっ」
卓司がアホなこと言ってるから、足踏んづけてやった。
「いいから、さっさと自分の席行ってくれる?」
「んだょ・・・」
卓司ったらふてくされて席に戻っていった。
「ホントいくつになってもガキなんだから。」
あたしがため息つくと、
「いいじゃない、楽しそうで!」
まりちゃんが言った。
楽しくなんかなぁーい!!!!!!!!!
そりゃね、小さいときは、
『大きくなったらタクちゃんと結婚すりゅ』
とか言ってた。らしい!
そんなの、誰にでもあるかわいい時代!
年頃になって一緒にいると冷やかされたりしてイヤだったなぁ。
でも、一緒にいるのがそれまで当たり前だったのよね。
もう少し大人になれば、恥ずかしくなくなるのかな?
「しかし、卓司くんわかりやすいよね。」
「何が?」
「ちょっかいだしてくんのは“好き”の証拠でしょ?」
「みんなそう言うけど、それはないよ。幼稚園から一緒にいて今更ありきたりなパターンはないんじゃない?」
「そうかしら?」
まりちゃん首傾げてる・・・
「そうなの!」
無理やり話しを終わらせた。
卓司に限って“好き”とかありない。
でも・・卓司って、好きな子とかいるのかな????
今まで聞いたことないな。
放課後は部活です!
あたし、陸上部に入ったんだ。
なんもとりえってないけど、足だけは速い。
自慢にならないか(笑
中距離のランナーやってます!
「ももちゃんいいタイムでてるね!その調子!」
走り終わって、タイムを計ってくれた新藤先輩が声かけてくれた。
「ありがとうございます!」
新藤先輩って、超―かっこいいの!
中距離の選手で全国にもいったんだよ!
学校でも人気ナンバー1!
近くにいて遠い存在。
先輩の走る姿みたらうっとりしちゃう。
「かっこえぇ〜」
って思わず声でちゃいますから!
いつものなっがーい部長のミーティングがようやく終わって、学校を出た。
「ももちゃん!」
呼ばれて振り向くと、なななななんと新藤先輩!
「お疲れ様です!なんでしょう?」
心臓が体突き破って出てきちゃいそうなくらいドキドキしてる。
「いつも校門出ると、花房さんたちと別れて一人で帰るから、家どこなのかな?って。
部活遅くまでやってるからな、夜道は危険だよ。」
気にしてくれたのかな???
あっ、花房さんたちって、同じ部員の1年生の子。
あたしは家近いけど、みんな電車やバスできてるから、校門でいつもバイバイなの。
「すぐそこなんで、大丈夫です。」
「あっ!そうなんだ!安心したよ。こっから結構歩くなら今度から送っていこうって思ってたんだ。」
「そんな!めっそうもございません!」
あたしの使い慣れない力の入った敬語?丁寧語?尊敬語?に先輩は吹き出したの。
「ももちゃんおもしろすぎ・・・」
「そ、そうですか??」
なんか変なこと言ったかなぁ?
「まっ、近いならいいよ!また明日な!」
「さようなら!」
先輩行っちゃった。
家がもちっと遠かったら・・・先輩送ってくれたんだ。
残念。
でも、ちょっとだけ特別な感じ?
それが機だったかな。
先輩がよく話しかけてくれるようになったの。
廊下ですれ違っても『やぁ!ももちゃん』って。
ちょっと鼻高かったりして。
だって、陸上部だけじゃなくって、校内でも人気者なんだよ!
そのお方に『ももちゃん』なんて言われて、廊下で会えば必ず声かけてくれる。
これって、ちょっとだけ好意もってくれてるってことなのかな・・・?
ただのかわいい“後輩”かもしれないけど。
でも、都合のいいように考えちゃうよなぁー。
先輩に会うたんびに、胸がキュウってなるの。
これって“恋”ですかね?
「うん、恋だよ!ももちゃん。」
まりちゃんがフォーク握りしめたまま目を輝かせて言った。
今はお昼休み。
机くっつけてお弁当タイム!
部活以外はまりちゃんと一緒に行動してるから、先輩が声かけてくれたときに一緒にいて、
「何?何?どういうこと?」ってまりちゃんが。
だから、お昼休みに話したんだ。
「ハードル高いなぁ。絶対彼女いるに決まってるし!」
「そんなの確認するまでわからないじゃない!ハードル高くたって頑張ろうよ!」
「近くにいるけど、遠い存在だよ?」
「廊下で『やぁ!』のどこが遠いのよ。」
確かにそうだけどさぁ〜。
そんな彼女いるんですか?って聞いたりとか、キモチ伝えるとか、絶対ムリぃ〜!!!
「やぁ!ももちゃん。(先輩の真似してる)だって!かわいい後輩としてでも、ももにかぁ?その先輩趣味悪いんじゃないのか?目が悪いとか。」
でた。
卓司・・・
「盗み聞き?そっちのほうが趣味悪いわよ。」
「期待すんなって。あんなイケメンがお前みたいなのと付き合うわけないだろ?今のうちにやめとけよ。」
また始まった。
「人の恋路の邪魔して何がおもしろいのよ。いいーじゃない付き合えなくたって好きでいることはできるわ。」
「そのオデコで何が“好きでいることはできるわ”だよ。説得力ない。」
「おおおおオデコは関係ないでしょ!!!!」
あたし頭に血が上っちゃって、思わず怒鳴っちゃった。
そこでまりちゃんの制止が入ったの。
「はいはいはいはい!そこまで!あのさ、卓司くんは一体何が言いたいの?」
「え?何がって、別に・・・」
「ももちゃんが先輩のこと好きになっちゃ困ることでもあるの?」
「んなもんねぇよ」
「じゃぁいいじゃない!ももちゃんにだって恋する権利あるよ。」
まりちゃん、なんでこんなに卓司の扱い上手なの?
あたしのときとは違って、しつけられてる犬みたい。
卓司、まりちゃんにコテンパンにされてどっか行っちゃった。
「まりちゃんすごーい!」
「何言ってんのよ。傍から見れば卓司くんわかりやすいよ。ももちゃんに恋されちゃ困るの。」
「なんで?」
「もう、ももちゃん鈍いんだから!長くいすぎるのもダメなのかなぁ??」
言っても無駄だと思ったのかな??
これ以上なんも言わないで眉間にしわよせてる。
まりちゃんは何が言いたかったんだろ????
今日も放課後は部活です。
あたしたちは、夏の大会にでるための予選に備えてるんだ。
それぞれのメニューで調整してんの。
んでもって今は、自分らのメニューをやる前に雑用。
「予選、楽しみだね!!!」
花房さんこと花ちゃんが言った。
「うんうん。このためにここの高校入って陸上部入ったんだもん!」
期待の1年生、ノブちゃん。
この二人が部活では仲良しなんだよ!
「ももちゃん、あたし部室にドリンクの粉取りに行って来るから、水溜めておいて!」
花ちゃんが部室に向かった。
「OK!」
「あたし、保健室に救急箱の中身補充してくるよ。」
ノブちゃんは救急箱を抱えて保健室。
「お願い!」
あたしは大きな蛇口つきの水筒と浄水器を持って水道に。
氷と水を入れておくんだ。
あとは麦茶作って。
しかし、暑い・・・そろそろ帽子用意しなくちゃね。
タオルは部室においてきちゃったし。
うっかりした・・・。
花ちゃんの話しだとね。
新藤先輩に憧れてこの学校に入ってきたコ、結構多いんだって!
だから、『毎年マネージャーやります!』ってコがわんさかいる。
でも、うちの部はマネージャーとってないんだ。
そんでもって、県でも有数のインハイ常連校。
先輩目的で入ってきたコは練習がきつくてたいてい1ヶ月もたないで辞めていく。
あたしはこうみえて(どうみえて?)中学のとき、県ではベスト8入賞。
あたしは知らなかったけど、新藤先輩は中学のときからかなりの有名人だったらしい。
家が近いからってここの高校選んで、たまたま陸上部が強くて、入ったら有名な先輩がいたっていう、他の子とはちょっと違った理由でここにいるから、話しがかみ合わないこともしばしば・・・。
でも、走る先輩、ホントかっこいいんだ。
フォームも、なびく髪も、筋肉のつき方も、風を切ってるときの気持ち良さそうな顔も、全部かっこいい。
「もーもちゃん!」
先輩に突然呼ばれてビクってなった。
「ごめん、脅かした?」
「あ、いえ。少しボーっとしちゃってたみたいで。すみません。」
「暑いもんな。貧血とか起こさないように気をつけろよ!」
先輩はあたしの頭にフェイスタオルをかぶせてくれたの。
ドキン・・
わざわざ新しいの・・・
「部室戻ればタオルあります。メニューきついのに予備のタオルお借りしちゃったら・・・」
「いいよ。なかなか取りに戻れないだろうから。いつもありがとな、ドリンクとか作ってもらって。」
「何言ってるんですか!あたしたち1年生の仕事ですから!予選近いんですから、そっちに集中してください。」
「おぅ。」
「ガンバってください!」
「なんか、ももちゃんと話したら元気になった!サンキューな!」
あたしと話したら・・・
嬉しくて顔がにやけちゃうよ。
タオル・・・これが先輩のにおい。(変態???)
その出来事をまりちゃんに話したの。
「変態じゃない!でも、すごぉーい!!!やっぱ気があるんだよ!!!頑張っちゃいなって!」
「えぇー!でもぉ〜。」
二人で顔を赤らめて話してると、
「よぉ!デコっぱち。」
パシパシパシパシパシパシ・・
「ちょっと、今盛り上がってるんだから邪魔しないでよ!」
卓司の手を振り払った。
「何が“えぇ〜でもぉ〜”だよ。気持ち悪いな。」
「また盗み聞き?気持ち悪い。」
「もものほうが気持ち悪いよ。変態。」
「タクのがキモイ!」
「やめとけよ、あいつは。ももとはつりあわない。」
「だから、何でタクがいちいち口出しすんのよ(怒)」
「幼馴染だから。」
「幼馴染なら応援しなさいよ。」
「ムリ。」
「もう、あっち行って!」
なんなのよ!!!!
「ありゃ、ヤキモチだな。」
まりちゃんがパックのジュース飲みながら言った。
なんで卓司がヤキモチなんか・・・
「まりちゃん、こないだから意味不明な発言多いよ?」
「ううん。わかってないのはももちゃんだけ。」
まりちゃん半笑い。
なにがぁぁぁ??????
また卓司があたしのこと“好き”とかそういうこと?
「だからそんなんじゃないってぇ!」
「そう思ってるのはももちゃんだけ。」
むぅ〜・・・・
ちょっと横目で卓司を見てみた。
クラスの男子とプロレスごっこして遊んでいる。
やっぱガキ・・・
だいたい、男らしくないんだもん。
いつのまにかあたしより大きくなっちゃったけど。
恋愛対象になるの???幼馴染って・・・。
予選当日。
あたしら1年は自分の出番と応援と、ドリンク作りやれでバタバタ。
新藤先輩がウォーミングアップを始めたの。
「ももちゃん!」
たくさんボトルかかえて小走りのあたしに先輩が手を振って声をかけてくれた。
「先輩!頑張ってくださいねぇ!」
「ありがと!頑張るよ。」
先輩の出番。800m走1組目。
トラックに出てくると、ジャージ姿のまま軽く走って体をならす。
いつになく真剣な表情。
先輩頑張って・・・
「位置について・・・・よーい・・・」
“パーン”
選手一斉に走り出す。
あたし、ずっと先輩を目で追ってた。
真ん中あたりをずっとキープしてる。
ラスト1周で全員がスパートをかける。
先輩が誰かと接触して転びそうになった。
「新藤先輩っ!!!」
思わず叫んだ声が届いたのか、先輩の目つきが変わってものすごい追い上げで2位に入った。
「凄い!!!あそこから2位だよ!」
花ちゃんが興奮してる。
ホントよかった。2位入賞なら確実に本選へいける。
3組目の800m走が終わって、新藤先輩の本選出場が決まった。
全競技が終わって、会場の前で顧問の話しを聞いて解散。
帰り道、仲良しの高田先輩とふざけながら歩いてる。
選手から普通の高校生に戻った瞬間。
そのギャップに胸がキュンとなる。
「ホント、新藤先輩かっこよかったよね!」
「あそこから追い上げたんだもん、凄いわ。」
二人はまだ興奮気味。
そりゃそうだよね!!!!
「でもさ、ももちゃんが先輩の名前叫んだら、急に追い上げた気がしたんだけど。」
うっそ!花ちゃんもそう思ったんだ。
「そう?スタンドから聞こえるのかなぁ?」
なんて・・・とぼけてみたりして。
先輩と高田先輩が途中で電車を降りた。
「お疲れ様でした!」
「お疲れー!」
先輩はこの駅なんだ。
ちょっと収穫!
みんなと別れて電車を降りて、みんなの普段使う通学路を歩いて帰る。
変な感じ(笑)
家の前に着くと、お隣の卓司が家の前でサッカーしてた。
「ただいま。」
「おぅ!おかえり。大会?」
「うん。予選会だったの。」
「そっか。どうだった?」
「そりゃね予選落ち。」
「んで、大好きな先輩はどうだった?」
感じ悪っ。
「もちろん、本選出場決まったわよ。感じ悪いわね。」
「よかったなぁ。」
「ねぇ、こないだからなんなのよ。」
「えぇ?別に。ももが傷つく前にやめとけって言ってやってるだけだよ。」
「大きなお世話よ。」
「こんだけ一緒にいると、お節介もしたくなんだよ。」
「それはどぉ〜も。じゃぁね。」
「おつかれぇ!」
家に入ってもしばらく卓司がボールを蹴る音がした。
感じ悪いけど、
“ももが傷つく前に・・・”
だって。
あたしが傷つかないように忠告してくれたってことだもんね。
優しいっちゃ優しいとこもあんだ。
でもさ!
初めっから“失恋”って決め付けんのもねぇ〜。
いくらハードル高くたって、ちょっとくらい応援してくれたってよくない?
毎週月曜日は部活はお休みなの!
せっかく休みなのみ、今日はまりちゃん部活だし。
することないから、部室行ってシューズの手入れすることにしたんだ。
お天気もいいし、シューズ持って外に出ると、新藤先輩が芝生に座っていたの。
どこか遠くを見るような・・・
落ち込んでる?
大会は本選決まってるし・・・・
「先輩!」
あたし、思い切って声かけてみたんだ。
「ももちゃん!部活ないのにシューズの手入れ?」
「はい、やることなくって・・・」
「ははは!せっかくの休みなんだから彼氏とデートすればいいのに。」
「いやぁ、残念ながらいないもんで・・・」
「ホントに?世の中の男はどこに目つけてんだろうな。」
「恐れ入ります。」
あたし、ペコっと頭下げると、先輩ったらお腹抱えて笑い出した。
「あのぉ・・・あたしなんか変なこと言いました?」
「言った!“恐れ入ります”って!どこのウエイトレスだよ。」
つぼに入ったらしく、大笑い。
どうしたらいいの???
「ねぇ、ちょっと付き合ってくんない?」
「え?」
「本選の前にシューズ新しくしたいんだ。買いに行くの付き合ってよ。」
「はい!」
なんてラッキーなの!!!!
先輩と、お買い物デートぉ!!!!!!
先輩ご用達のスポーツショップに行って、先輩の新しいシューズを買った。
その後、あたしたちはジュースを買ってお店の近くの公園に行ったんだ。
いろんなお話した。
部活のこと、クラスのこと・・・でも・・・
先輩、なんかを紛らわしたくて話しているようだった。
「先輩・・・」
「ん?」
「こんなこと、あたしが言うのお節介だとは思うんですが、なんかありました?なんだか、吹っ切れたくて喋っているように思うんです。」
気分・・・悪くしたかな・・・?
「ももちゃんには敵わないな。いつもみんなにアンテナ張って気づいて行動する。」
「そうですかね?」
「うん。」
沈黙が流れた。
「こんなコが彼女だったらなってたまに思う。」
「え?」
先輩、何を言って・・・?
したらね!先輩、突然あたしに抱きついてきたの!
「せせせせせせ先輩?????」
「ごめん・・・少しだけこのままでいさせて。」
「先輩・・・」
先輩は黙ったまま、あたしをギュッと抱きしめてた。
これって・・・期待していいの?
ドキドキドキドキ・・・・・
先輩の胸の音も聞こえた。
ドックン・・ドックン・・ドックン・・って。
「ごめん!」
あたしから離れて言った。
「俺、予選会の前に彼女に別れてって言われたんだ。」
彼女・・・・
「部活忙しいだろ?なかなか会ってやれないし、どこにも連れてってやれない。そしたら、毎日不安だって。」
「不安・・・」
彼女さんは、有名女子高に通っているんだって。
「彼女がももちゃんだったらって何度も考えたことあるんだ。いつも笑ってて、笑わして。ももちゃんの声聞くと元気が出て。彼女には申し訳ないけど、かわいいって思ってた。」
先輩、あたしのことかわいいって・・・
あたし、先輩が好きです。
なんて言えないけど。
「多分、彼女さんは先輩やこの学校が羨ましいんだと思います。」
「羨ましい?」
「はい。なんていうか、いろんな人に囲まれて、注目されてる先輩が、毎日一緒にいられる部活の部員やクラスメイトが羨ましいんだと思います。不安なのは、そう思う自分に押しつぶされそうで怖いんだと思います。彼女さんは先輩が嫌いになったわけじゃないと思うんです。大好きだから、逃げたいんじゃないでしょうか?」
「逃げたい。」
「はい。好きになればなるほど、こうしたい、あぁしたいって思えば思うはど、わがままになっていく。でも、それは先輩を困らせることになる。」
「うん。」
「ちゃんと、話しあったらどうでしょうか?我慢とか遠慮とかそんなもん一切ナシにして、腹割って話してみたら・・・」
そう言ってる自分に腹が立った。
自分の気持ちも伝えらんないくせに、彼女の気持ちを意見したりして。
「ごめんなさいっ!」
「ももちゃん?」
「彼女さんでもないのに、彼女さんの気持ち憶測で言って。あたしだったらこうかなって思ったから言ったんですけど、彼女さんに失礼ですよね。」
「謝るなよ!ありがとな。でも、もうムリなのかもしれない。」
「先輩・・・」
「そういえば予選会の日、ラスト1周で転びそうになったとき、聞こえたんだ。ももちゃんの声が。」
「ホントですか?」
「うん。ももちゃんのために負けらんないって思った。ありがとう。」
笑ってるけど、どこか寂しげな先輩。
あたし、なんかしてあげられるかな・・・?
次の日、早速まりちゃんに昨日のこと話したんだ。
「彼女いたのかぁ〜、でも、チャンスじゃん!先輩はももちゃんのこと気に入ってるんだから。」
「そうじゃないの!なんとかしてあげたいの!彼女さんだって嫌いになって別れたいって言ってるわけじゃないと思うの。」
「ももちゃん、いい子!あたし見直したよん!」
そう言ってあたしの頭をナデナデ。
「俺も見直したよん!」
ってオデコをナデナデ・・・
「タク!また盗み聞き!」
「失恋決定したな!励ましてやろうか?」
「いらないー!」
放課後の練習でも、やっぱり元気がない。
スポーツドリンク作りながら、あたしの目は先輩を追いかけてた。
このままで本選大丈夫なの?
確かに、心のどっかで別れちゃえばいいのにって思ってる。
あたしを見てほしいって・・・
もう見てらんなかった・・・
あたしの好きな先輩の走りは、こんなんじゃない・・・
そう思ったら、勝手に足が休憩してる先輩のところに向いていた。
「ももちゃん、どうした?」
「行きましょう。」
「どこに?」
「彼女さんのとこ!」
「え?」
もう、先輩の手を取って走りだしていた。
校門のとこで卓司とすれ違ったのも気づかない。
「もも?」
「ももちゃん、なんで・・・」
「あたし、先輩の気持ちよさそうに風を切って走ってる姿が大好きなんです。今の先輩にはその走りがない。これ解決しなきゃ、本選どうなっちゃうんですか?ちゃんとはっきりさせましょうよ。」
「怖いんだ、ホントに別れるのが。」
「だったら、自分の気持ちちゃんと伝えてください。好きだって、離れたくないって。それでも駄目だったら・・・・・。」
「駄目だったら?」
「・・・・あたしがしばらく彼女になってあげます!」
先輩、走りながらクククク・・・と笑いだした。
「そんときはよろしく頼むよ。」
「まかせてください!」
あたしと先輩は、彼女さんのいる高校へ向かった。
着いたのはいいけど、あたしも先輩もTシャツにジャージ。
完全に浮いていた。
下校する女の子たちにジロジロ。
なんせ夢中だったから・・・
上がった息を整えていると、先輩が彼女さんの名前を呼んだ。
彼女さん、スラッとした体系にサラサラのロングヘアー。
ジャンパースカートにパフスリーブのブラウスから大きなエンジ色のリボン。
完璧お嬢様じゃん!
「新藤くん?」
彼女さんがこっちに気づいた。
先輩、うつむいて何も言えないでいる。
「先輩。」
あたしは先輩の背中を押した。
「ももちゃん・・・」
あたしは頑張ってポーズをして、来た道を走って戻り始めた。
「ももちゃん!ありがとう!」
先輩の叫ぶ声に足を止めて、振り返った。
「先輩頑張って!とってもお似合いじゃないですか!別れるなんてもったいないですよ!彼女さーん!先輩のキモチ、正面から受け止めてあげてくださいね!」
くるっと背を向けて走り出した。
うまくいってくれるといいな。
ホロっと目から何かが落ちた。
涙・・・?
鼻水まで出てくる。
グスン・・・
やだ、何泣いてんの!
しっかりしろ!もも。
走ってると、後ろから腕を掴まれた。
「もも。」
卓司・・・
「何してんの?」
目も鼻も真っ赤な顔で卓司を見た。
「ひでぇ顔だな。」
卓司はティッシュをだして渡してくれた。
「ありがと・・・」
「いったろ?傷つく前にやめとけって。」
「後悔はしてないもん。」
「ももはな。俺は・・・」
「何よ?ってか見てたの?」
「あぁ。ももが先輩引っ張って走って校門出て行ったから追っかけた。」
「なんのために。」
「え・・・なんとなくだよ。」
「んで、俺は・・・の続きは?」
「もう、いいじゃねぇか、帰るぞ。」
「納得いかない。」
「いいんだよ!ほら歩け。それとも、泣くか?」
卓司、両手広げて言った。
「タクの胸で?」
「こいよ。」
あたし、吸い込まれるように卓司の胸に顔をくっつけた。
しばらく卓司の胸を借りてわんわん泣いた。
その間、卓司は黙って付き合ってくれた。
“よしよし”って頭なでながら・・・
こういうとき、幼馴染っていいよね。
「大丈夫か?」
「うん。」
泣いてすっきりして、学校に戻る道。
卓司はあたしよりも一歩前に出て歩いていた。
今までなんで気づかなかったなんだろう・・・
卓司の背中ってこんなに大きかったっけ??
卓司の胸ってこんなにたくましかったっけ・・・。
ガキだなんて言ってごめん。
卓司の見方が変わったのはこのときからかもしれない。
小さい頃からあたしが凹んでたり、泣いてたりすると急にいい奴になる。
これがホントの卓司なのかもしれないね。
学校に帰ると、先輩とあたしはこってり顧問の先生からお叱りを受けたよ。
お互いかばいあっちゃって、顧問も呆れてた。
罰として校庭50周してから帰宅になったんだ。
「ももちゃん、ほんとにありがとう。これからは、もっと向き合おうってことになった。たくさん話してくれたよ。走ってる俺のこと大好きだって。応援もしてる。でも、ほんとはもっと恋人らしいことがたくさんしたかった。でも言えなかったって・・・」
「よかったですね!」
「俺のせいで、50周させちゃってごめんな。今度ケーキでもおごるよ。」
「いいですよ!あたしが勝手にやらかしたことですから。」
「でも、お礼がしたいんだ。ね?」
「楽しみにしています!」
これでも走りながらの会話なんだよ。
走り終えると、真っ先に芝生に行って倒れこんだ。
もう、辺りは暗くなって校庭の照明がまぶしかった。
翌日、ちゃんとまりちゃに報告したよ。
「ももちゃん、素敵すぎ!!よく頑張ったね!」
まりちゃん、あたしを抱きしめていいこいいこしてくれた。
「でも、卓司くんもやるねぇ。」
「ホントはいいやつだって、わかってるんだけどね。」
「よぉ。デコっぱち。」
いつもどおりあたしのオデコをペシペシ。
「今の撤回するわ。」
「ハハハ・・・」
「何を?」
「タクは知らなくていい!」
「お前またイチゴのチョコ食ってる。顔が・・」
「つぶつぶになんないっ!」
いい奴なんて思うんじゃなかったよ。
まったく。
先輩、本選で見事上位入賞で、インハイ出場が決まったんだよ!
自己新出したんだから!
あの日から、あたしの大好きな先輩の走りに戻ったんだ。
むしろ、調子がよくなったみたいで。
タイムがどんどん上がっていくの!
風が先輩の味方してくれてる。
ホントよかった・・・彼女さんとの仲が元通りになって。
まぁ、あたしの恋は振り出しですが、1000人はいる大型高校ですからいくらだって恋の種は落っこちてる!
そう・・・
ホントに落っこちてたんだ、すぐ近くに・・・・
お昼の休み時間。
あたしとまりちゃんは、いつもどおり机くっつけてお弁当食べておしゃべりしてたの。
「佐々木くんいますかぁ?」
って卓司に女の子が訪ねてきたの!!
「あぁ?桜木か。なんだよ?」
「ほら、委員会の仕事。あれどうする?」
って、桜木さんって人と教室出てったの。
「卓司くん、何委員だったけ?」
「え?購買委員じゃなかった?」
「仕事って何?」
「みんなのお昼のパンの注文係りじゃない?」
「そうじゃないって!注文以外になんかあるのかってこと!」
「・・・さぁ。」
「怪しい・・・」
「怪しい?」
「卓司くんねらいかもよ?」
「あのコが?」
「そう。なれなれしかったもん。桜木って言ってたよね?男子から人気ある子だよ!でも男ったらしって噂もある。」
「ふーん。」
そんときはあんまり気にならなかったんだ。
でもね、結構頻繁にうちのクラスに来るようになったんだ。
委員の仕事で相談があるとか言って。
そのせいで、卓司があたしにちょっかいだしてこなくなったの。
それはいいんだけど・・・・いつものお決まりがないと、調子狂うよ。
なんかあたし変なこと言ってるよね?
正直言うとね、寂しいの。
オデコ叩かれないと・・・・。
桜木さんと卓司が一緒にいるの見ちゃうと、なんか胸のあたりがモンモンしてくるの。
なんだと思う?????
「ももちゃん・・・それは恋じゃないでしょうか?」
「まりちゃん・・・それはないんじゃないでしょうか?」
「モンモンしてんでしょ?それヤキモチ。」
「えぇぇぇぇぇぇぇ?????」
嘘でしょ???
恋って“キュン”とか“ドキドキ”とかじゃないの?
「そうとは限らない。」
ってまりちゃん・・・。
10年以上一緒にいて、今更好きだと気づきました?
そんなわけない!!!!!!
「一緒にいるから気づかなかったんじゃない?嫌いだったら、どんなに近くにいても嫌いだしね。」
「まりちゃん・・・」
まりちゃんがそんなこと言うもんだから、卓司が気になっちゃって、気になっちゃって・・・。
卓司の顔まともに見れない・・・。
「おぃ、もも?」
「へ?」
「なんだよ、具合でも悪いのか???」
「そんなことないよ。」
「オデコ叩いても反応ねぇし、声かけても下むいたままだし。変だぞ?」
「そん・・」
「佐々木くーん!」
桜木さんが教室にやってきた。
卓司は「なんだよ・・・」と小さく言って、桜木さんの待つドアのとこまで行った。
「ねぇねぇ、今度さぁ・・・」
なんか誘ってる???
嫌っ!
聞きたくない!!!!!!
とっさに両手で耳をふさいでみた。
「だから、それが好きの証拠なんじゃん。」
「まりちゃーん!!!」
あたし、まりちゃんに泣きついた。
まさかこんな近くに恋の種が落ちてて、拾った種が卓司だったなんて・・・。
卓司も、嫌な顔しないで桜木さんと話ししてる。
あぁぁぁぁぁぁ(怒)
モンモンする!!!!!
「認めます。あたし・・・タクが好き。」
「よく言った!!!」
まりちゃんが拍手した。
「でも、両思いだから平気だよ。」
「あんなに仲いいよ?」
「付き合いでしょ。」
でもぉ・・・・
「百歩ゆずって、まりちゃんが言うようにタクがあたしのこと好きだとするじゃない。でも、あたしがなかなか気づかないから、諦めて桜木さんのほうに方向転換してたら?」
「それ言われちゃうとな・・・ついこないだまでももちゃんは先輩好きだったしね。」
まりちゃん、困り顔。
はぁ・・・よっぽど先輩に恋してるほうが楽だったかも。
先輩は届かない人だけど、卓司は近くにいるのが当たり前だった。
そんな卓司に桜木さんっていう彼女ができたら、卓司のこと好きでも好きじゃなくても、遠くなるのはとても寂しい・・・。
卓司が桜木さんと話し終えてこっちに戻ってきた。
「購買って注文以外に仕事あんの?」
まりちゃんが聞いた。
「あぁ。注文の効率をよくしようとか、文化祭とかで購買委員ってパンの試食会とかするらしいんだ。」
「なるほどね。それであのコと?」
「そ。係りで一緒。」
「文化祭なんてまだ先じゃない。」
「それ言うんだけどさ、早くから動いてれば、いい案もそれだけ浮かんでくるって。」
「それただの口実じゃない。」
「なんの?」
「いいの、こっちの話し。んで、何に誘われたの?」
「趣味悪いぞ、まりも。盗み聞きなんて。」
「どっちが。だいたいね、あんな大きな声で喋られちゃ聞こえてきますよ。」
「確かに。つか、もも静かだな。やっぱ具合悪いんじゃないのか?」
あたし、ずっと黙ってたから。
「そうね、ある意味具合い悪いんじゃないかしら。」
まりちゃん、人事だから意味深な言葉で喋りまくってるよ・・・。
「保健室行くか?」
「え?いや・・・大丈夫。」
「ホントか?無理しないで気分悪くなったらすぐ言えよ。」
そう言って卓司は、席に戻って週刊ギャングを読み出した。
「変なとこ優しいのね、卓司くん。」
まりちゃんも気づいたらしい。
ホント、ある意味病気だわ。
好きだなんて、今更言える?
トントン・・
「なに?」
あたしは、自分の部屋の窓を開けた。
卓司とは、家も隣なら部屋も隣。
ベランダへ出てよく宿題とか教えあったっけ。
「具合いどおだ?」
「だから別に悪くないって。」
「いつもと全然違うからさ。もしかして、また好きな奴でもできた?」
「できちゃ悪いわけ?」
「恋わずらいにしては重症なんじゃないのか?こんどは誰だ?切り替え早いなぁ。」
「教えない。大きなお世話よ。」
「んだよ。」
卓司は持っていたコーラをグィッと飲んだ。
言えるわけないじゃない。
好きな人があんただなんて。
「もうすぐ夏祭りだな。」
「そうだね。」
「今年は一緒に行こうぜ。」
「え?」
突然の誘いにびっくりした。
いつもならびっくりもドキッともしないのに。
「去年は受験勉強でいけなかった。」
「うん。そだね。空けとくよ。」
「おぅ、じゃ、また明日な。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ。」
あたしを誘うためにベランダ出てきたの?
“恋”って凄いね。
昨日までなんでもなかったのに、“好き”って気づいたときから、なんでもなかったことまで、ドキドキしたり、期待したり、落ち込んだり、遠く感じたり。
近くにいればいたただけ、その恋は苦しい。
夏祭りに誘われるなんておととしまでは普通だった。
でも、今年は違う。
自然に顔がほころぶ。
嬉しいんだ、あたし。
でも、恋ってそう簡単にうまくいかいものなのだ・・・・
「まりちゃん、よい夏休みを!」
「ももちゃんもね!」
「うん!気をつけて行ってきてね!」
「お土産買ってくるからねぇ!」
まりちゃん、夏休み中はオーストラリアに行ってるんだって。
しかも、遊びじゃなくてホームステイ。
すごいよねぇ。
先輩も、夏休みはインハイと合宿で大忙し。
ちょっとだけある夏休みで彼女さんとどっか行けたらいいね。
予選落ちのあたしは、インハイ組とは別で学校で練習。
インハイの応援に行ったりするけどね。
夏祭りの日も練習だけど、午前中だけなんだ!余裕で夏祭りにいけそう。
クローゼットから久しぶりに浴衣を出してみた。
これ着て夏祭りに行こう!
夏祭り当日。
午前中の部活もしっかりメニューこなして帰宅。
シャワー浴びて、浴衣に着替えた。
髪、切らなくてよかった。
走るのに邪魔かなって思って切ろうと思ってたんだ。
でも、延ばし延ばしにしてたんだよね。
今日が終わってからでもいいか!
おかあさんのかんざし借りて、髪を上げて家を出た。
家の前で卓司はもう待ってて、いつもどおりジーパンにタンクトップ。
「お待たせ。」
「おぅ。・・・」
「何?」
「髪長いほうが女らしいぞ。ももは。」
「そう?」
だったら切るのやめようかな。
「うん。長いほうがいいよ。ももは。」
「ありがと。」
神社までは歩いて10分。
中学時代の友達と再会して盛り上がった。
でも、新しい友達と一緒だったりして後にバイバイ。
開いてるベンチに座って休憩することにしたんだ。
「もも、カキ氷食うか?」
「うん。」
「買ってくるよ、イチゴだろ?」
「うん!練乳付きで!」
「OK。待ってろ」
「うん。」
カキ氷ももちろんイチゴ!!
5分くらいして卓司が戻ってきた。
したらね、いたんだ・・・・
隣に桜木さんが。
「あれ?他にもいたの?」
“他にも”って・・・
「あぁ、幼馴染のもも。」
「こんにちは!」
「こんにちは。」
“あぁ”って・・・桜木さんも誘ってたってこと?
「ほらよ、練乳イチゴ」
「ありがと。」
「その子だったんだ。あたしも買えばよかったぁ。」
「俺の食うか?」
「いいよ、タクくんのじゃん、でも一口ちょうだい!」
いつから“タクくん”なんて呼ばれるようになったの?
「えぇ?しょうがねぇなぁ。」
やめてよ・・・あたしの前で。
カキ氷を持つ手が震えていた。
「もも、食わないと溶けちゃうぞ。」
「う、うん。」
我慢・・・我慢。
「ねぇ、他も案内してよ。」
「もも、歩きながら平気か?」
「うん、平気だよ。」
3人で神社を歩き始めた。
その間、桜木さんと卓司は話しに花を咲かせ、あたしはついていけなくて黙っていた。
卓司は全然気づかない。
ねぇ、気づいてよ。
あたし、息苦しいよ。
こんなまずいイチゴのカキ氷は初めてかも。
「幼馴染さんは彼氏いないの?」
「え?」
いたら卓司と着てるわけないじゃない。
わざと言ってる?
「いないけど。」
「そうなんだぁ。」
「ももは男っぽいからな!」
「そうなんだぁ!だからタクくんとも仲がいいんだね!」
どうしよ・・・破裂しちゃいそう。
「女みたいに噂話しと盗み聞きが趣味のあんたに言われたくない。」
「ホントかわいくないなぁ、ももは。だからいつまでたっても男が出来ないんだよ。」
「キャハハハ!」
桜木さん、楽しそうに笑ってる。
もう、限界だった。
なんでこの二人にそこまで言われなきゃいけないのよ。
足が止まっていた。
「だからももには・・・どした?早く行こうぜ。」
何か言ったら涙が溢れそうだった。
「もも?」
「どうしたのぉ?」
「もも、お前・・・」
ダムのように溜まった涙が目から溢れそうになったから、猛ダッシュで走り去った。
「ももっ!」
「タクくん?」
少しして卓司は追いかけてきていた。
「ももっ!待てよ。」
卓司が叫んでいた。
無理。
浴衣なのに卓司は追いつけなくて、あたしは家に駆け込んだ。
「もも?随分早いじゃない。」
「タクが来てもいないって言って。」
「え?」
ピンポーン・・
卓司が追いついた。
「お願い、今は会いたくないの。」
あたしは乱れた浴衣のまま部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。
「卓司くん。」
「おばちゃん、ももは・・・?」
「ごめんなさい、会いたくないって。」
「そうですか・・・・・・・お邪魔しました。」
「いつもごめんなさいね。もも、わがままで。」
「いいんすよ、それでも、ももが好きなんです。」
「まぁ・・・いつもありがとう。」
涙が止まらなかった。
苦しくて、でも、声を殺して泣いていた。
好きになるのが遅かったの?
卓司の優しさは、幼馴染としてだったの?
ホントに男友達としてしかみてなかったの?
わかんないよ・・・
なんにも集中できなかった・・・
部活も・・・宿題も・・・インハイも。
先輩は、ベスト8まで残った。
彼女さんも見にきていた。
嬉しそうに先輩をみつめていた・・・。
卓司とは、何度か朝に会った。
卓司は毎朝ロードワークにでかけているの。
「おはよ、もも。」
卓司が声かけても、あたしは卓司を避けた。
もう、辛くて苦しいのは嫌だった。
桜木さんとうまくいけばいいと思っていた。
早く諦めもつく。
そしたら・・・しばらく恋の種を摘むのはやめようかな。
忘れるまで時間かかりそうだもん。
こんな想い・・・初めてだ。
先輩を好きになっても、他の誰かさん好きになっても、こんなに苦しい思いしなかった。
必ず、卓司が邪魔して、振られると励ましてくれた。
そんな卓司を好きになったら、邪魔するのは学校で人気のある女のコで、振られて励ましてくれるのは・・・卓司じゃない。
ようやく部活の夏休みに入った。
手つかずでいた宿題をしに図書館に行こうと家を出ると、門のとこに卓司が寄りかかっていた。
「よっ。」
卓司もどことなく元気がないように思えた。
気まずい・・・
あたしは卓司を無視して逃げるように図書館に向かった。
「おぃ、ももっ。」
卓司が追いかけてきて腕を掴まれた。
「離して。」
「嫌だ。来いよ、話しがある。」
「あたしはないっ!」
卓司の本気の力には勝てなかった。
強引に腕を引っ張られて、卓司の家に引きずりこまれた。
二階にある卓司の部屋に入ると、ようやく手を離してくれた。
「なんなのよっ。」
「ももが避けるからだろ。謝りたいのに。」
「避けるようなことしたのそっちでしょ。」
「だから謝りたいって。」
「今さら何を?卓司はあたしをからかって楽しんでるんでしょ。ホントは、先輩に振られて喜んでるんじゃないの?」
「あぁ、喜んでるよ。」
「じゃぁ・・・なんで励ましてくれたのよ。・・・ざまーみろって・・・笑えばよかったじゃない。」
涙が溢れて、言葉が途切れ途切れになっちゃう。
「変なとこで優しさみせないでよ・・・勘違いするじゃない・・・」
「勘違い?」
「卓司が優しいから・・・好きになっちゃったのよ。今までとは違うの・・・苦しいの。」
言っちゃった・・・とうとう言っちゃった。
卓司はきっと笑う。
ばっかじゃないの?って・・・・。
「勘違いなんかじゃないよ・・・」
「え?」
卓司が急にあたしの腕を引っ張って引き寄せた。
なっ・・・・?
卓司の腕の中にすっぽり。
「勘違いなんかじゃない。ももが振られて喜んでるのも、絶対無理だって言われたこの高校に入ったのも、ももが好きだからだよ。」
「うそだぁ・・・。」
「なんで嘘言うんだよ。」
「だって、桜木さん・・・・」
「ももを追いかけようとして引きとめられたよ。」
夏祭りの日。
「ももっ!」
「タクくん?」
「なんで行くの?」
「なんでって!」
「だって幼馴染なんでしょ?ちょっと言われた冗談で拗ねて帰っただけよ。」
「それが問題なんだよ。今までももは拗ねて帰ったことないんだ。」
「あたしたちにヤキモチ妬いたのよ。あたしはタクくんと二人がよかったからちょうどよかったけど。ねぇ、行こうよ。」
「だったらなおのこともものとこ行かなきゃ。」
「なんで?あたしのことどうするの?」
「悪いけど、他の奴探してくれるか?」
「ちょっと待ってよ。もも、ももって。あたしと付き合ってくれるんでしょ?」
「いつからそんなことになったんだ?」
「あたしのお願いなんでも聞いてくれたじゃない。」
「委員会の仕事なら手伝わないわけにはいかないだろ?」
「あたしと付き合えるのよ?」
「お前どんだけ自惚れてんだよ。今時いるんだな。」
「なななななな・・」
「時間の無駄。行くわ。」
こんな会話をしてからあたしを追いかけたということになるよね。
浴衣着てるのに追いつかれなかった理由がわかった。
あたしって卓司より足速かったんだって、それこそ自惚れるとこだったよ。
「でもさ、桜木さんにカキ氷食べさせてあげてたじゃない。桜木さんだってその気があるって思ってもおかしくないよ。」
「そっか・・・それはまずかったな。ごめん。」
「あたしに謝られても。」
「違うよ、ももに嫌な思いさせたから謝ってるんだ。だから帰ったんだろ?」
「今までは平気だったのよ。卓司に何言われても。でも、今は違ったの。ツラかったの・・・・桜木さんがいたことも、カキ氷食べさせたことも、タクって呼ばれてたことも、タクにかわいくないから男ができないんだって言われたことも。」
「ごめん・・・ももに男ができちゃ困るから言ったんだ。でも、その続きあったんだぜ。」
「続き?」
「だからももには・・・俺っていう物好きしかお前のこと好きでいらんないって。」
「物好きはかなり余計じゃない?」
「俺だって恥ずかしいんだよ。素直に好きですなんて言えなかった。っていうか言わせてもらえなかった。つか、言う前にいなくなってた。」
「ハハハ。」
「ようやく笑ったな。」
「ごめん・・・」
「何で謝るんだよ?」
「あたしなんかより、タクのほうが辛かったんじゃない?」
「そうだなぁ。幼稚園の頃からももが好きだったからな。でも、今回の先輩は正直焦った。」
「そうなの?」
「うん。ももが手引っ張って先輩連れ出したとき、やばいって思った。だから追っかけたんだ。」
だから、あそこにいたのね。
「振られたとわかって安心したと。」
「安心したけど、またももが傷ついたって思った。いつも言うだろ?傷つく前にやめろって。傷つくももみたくないんだ。でも、ももが傷つく前に俺の女になれって言う勇気もなかった。からかってもものそばにいることしかできなかったんだよな。いや、そばにいれることに甘えてたんだ。いつか言えばいいって。」
あたしは、卓司がいつもいるのが当たり前だった。
桜木さんが現れて、教室から卓司がいなくなることに不安を覚えた。
そばにいるのが当たり前で、好きなのにそれが恋愛感情であることに気づいてなかった。
嫌いじゃないって部類で。
「もも?」
「ん?」
「これからも好きでていい?」
「困る。」
「え・・・ダメなの?」
「好きでいてもらわないと困る。」
「そういうことか。」
卓司は笑って、あたしの顔にゆっくり近づいてきて唇と唇を重ねた。
あたしのファーストキスの相手が卓司だったとは・・・。
「あたしのファーストキス。」
「俺じゃ嫌だった?」
「ううん。」
「でも、もうとっくにもものファーストキスはないんだぜ。」
「え?」
「幼稚園のとき、すでに俺がもらってる。」
「えぇ!」
「ももの親父さんに、俺だってまだしたことないのにぃ!って言われたのよく覚えてる。」
「何それ。」
「もも一筋16年。そういえば、ももどこに行くつもりだった?でかけを引き止めたからな。」
「あぁ、図書館。宿題しに。」
「なら、ここで一緒にやろうぜ。ももがシカトすっから俺まったく手につかなかった。」
「あたしのせいなの?あたしだってタクのせいで手につかなかった。」
「じゃぁ、あいこだ。」
テーブルに向かい合って、宿題を始めた。
狭いテーブルに二人でノートに向いてやってると、時々オデコがぶつかる。
いつもなら喧嘩になるのに、今日はちょっと照れくさい。
いつものあたしたちに、これからは甘酸っぱい苺ジャムがプラスされた。
これからも喧嘩は絶えないだろうけどね(笑