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天使を追っかけ学舎へ

「お~い、飯できたぞ」


 少し薄暗い居間から返事が来ることはなかった。

 それでも俺は一応と、自分に言い聞かせ二人前皿を出した。


「なんだよこれ」


 俺が一番お気に入りの、猫ちゃんの愛らしい顔が描かれた茶碗に、天使専用と小さくマジックで書かれている。気がつけば俺がいつも愛用している猫ちゃんのイラストが入った箸にまで、天使専用と書かれていた。


「いつのまにこんなことしたのだか」


 口からは無意識にため息がこぼれた。


 それから三十分ほど、つまらぬお笑い番組を無心で見ていた。普段はもっと声を上げながら見ていたものだが、今日ばかりはそんな気分になれない。

 飯も、あいつがひょっこり顔を出すんじゃないかと思うと、一人で食べることができなかった。


 ふと時計を見ると、短針がまさに八をさすところだった。

 しかたない、先に食べるか、などと思い立ったその時。


「これは確かあのときのものか」


 ひらひらと美しい白色の羽が天から下へ降下していく。

 俺はなんとかそれを手に納めようと試みたが、けっきょく俺の手に入ったのはそれが地面についてからのことだった。

 よく見かけるカラスの羽とよく似ているが、それよりもいっそう色鮮やかだ。

 あいつの香りがほのかにするのを感じ、不意に振り返った。だがもちろんそこには誰の姿もなく、軽い明かりに少し照らされた台所があるだけだ。

 そんな時、ふと明の「迎えに行ってやれ」という言葉が脳裏をよぎり


「ああ、もうわかりましたよ。探しに行けばいいんだろ」


 こんな事を自分でも意識せずに口走っていた。

 俺はすぐさま春先の寒さを防げるだけの格好をして家を飛び出した。


「よお、なかなかに遅かったじゃないか。こないかと思って冷や冷やしてたぜ」

「あ、明!? お前いったいどうして」


 玄関のドアを開けた瞬間、視界に入ってきたのは缶コーヒーを片手に持った明だった。


「お前のことだから、どうせ当てもなく探し回るんだろうなと思ったんだよ」


 お前のことなどお見通しだと言わんばかりに、明が口角を少し上げた。


「なんつうか、お前は本当に俺の天敵だな」

「当たり前だろ」

「それよりも、ここに来たって事は、天使が今どこにいるのかを知ってるのか?」

「学校だ」

「学校!?」

「まず間違いない。俺の情報は、天気予報よりも正確だぜ」


 どうやってそんな情報を得たのか、聞きたいところではあったが、今はと俺はぐっとこらえて、


「よし、お前を信じる。ちょっとそこで待ってろ」

「えっ!? お前なんで家戻るの!?」


 ドアノブにまで手をかけたところで、明のすっとんきょんな声が耳に届いた。


「決まってんだろ。学校だったら制服着ないとまずいだろ」

「まったく、変なところで律儀なんだから」


 そして出発前、けっきょく明も俺の冬用の制服を身に着けた後に出発した。



「意外と夜の校舎って明るいんだな」


 ちなみに誰も返事をしてはくれなかった。

 それは明は一階を、俺は自分たちの教室がある二階を調査しているため、俺が一人でいるからだ。

 それにしても、すんなりと学校にはいれたもんだと、自分でも驚きだ。鍵なんてものはまだ掛かってもいなかったし、校庭では未だに熱心に部活動に従事する若者たちが声を張り上げている。

 おかげで怖さなどというものは、とうに吹っ飛んでしまっていた。


 本当に天使は学校にいるのだろうか、もしかしたら奴は元いた場所に帰ったのでは、などと疑問が膨らみかけたところで、俺の教室へとたどり着いた。

 居るとしたら、ここが一番確立が高い。そう思い、恐る恐る、ドアの窓から中をのぞくと、そこには天使の姿があった。教室の明かりはついていなかったが、校庭から漏れる明かりが教室も照らしてくれていた。

 俺はほっと、一息ついた後、扉をゆっくりと開け、


「お、お前そこ俺の席なんだが」

「まず最初に言うことはそれですか!?」

「それ以外に何もないだろ」


 俺の冷静な言い返しに、天使は少し慌てたような感じで


「そ、その、俺が悪かったとか、戻ってきてくれぇぇぇぇ、とか泣いて懇願したりとか」

「誰がんなことするか。俺はただ、忘れ物を取りに………………」


 そう天使に言いながら、自分の机に近づき、前から机を引いて引き出しに手を入れたところまではよかった。

 中身がなかった。

 しまったぁぁぁぁぁぁ! 

 そういえば放課後ここでなんかの試験をやるとかで、引き出しの中の物を空にしていたんだった。

 そんな俺の心を完全に読みきったかのように、天使は薄気味悪く微笑んでいる。

 どうしたんですか、なんとおっしゃいたいんですか、と言いたそうにしているのが、態度だけで伝わってくる。


「とりあえずだな、お前にはまだ聞きたいことがたくさんあるんだよ。急にいなくなられると、困るんだよ。そう好奇心は抑えがたいんだ」

「そうですか、そうですか。誠一さんは私と一緒でないと、もはや生活ができないからだになっていると、そうおっしゃいたいんですね?」

「全然ちゃうわ!」


 それから数分だけ、たわいもない会話が妙に弾んだ。

 なんだかあんなに思いつめていたのが嘘のようだ。


「よし、そろそろ帰るか。とりあえず明にメール送信っと」


 天使捕獲。とだけメールを明に送ってやった。

 それから明からは『wwwww。先に帰ってるぞ』とだけ返信が来た。

 この借りはいつか返さなきゃいけないな。


「そうだ誠一さん。学校から出る前にひとつだけいいですか?」

「ああ、手短にな」

「恋占いしてあげますよ。目をつぶってください」


 ええ!? これってあれだろ、俺一昨日あたりに小説で読んだよ。この台詞の後に、口唇に柔らかいなにかが当たったりするんだよな!?


「ちょ、ちょいまち、俺まだ心の準備………………はい? ちみはいったい何をしているんだい?」


 気がつけば天使は俺の椅子から消えていて、代わりに隣の名前が思い出せない女子の、机に何やら落書きのようなものをしている。

 それを恐る恐るのずくと…………


「お、お前なにしてんの!?」


 机の上に描かれているのは、上にハートマークがのっけてある傘の絵だ。そしてその下に俺の名前と、その机の持ち主であると思しき名前が書かれている。


「これで相手の反応をうかがいましょう」

「ちょっと待て。このマジック消えないぞ。もしかしてこれ油性か!?」

「あっ、間違って油性で書いてしまいました。テヘッ」


 可愛らしく、舌を出すが、そんなもので俺はなびくわけもなく。


「このバカ天使ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」


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