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天使が転校生としてやってきた2

「部活を作りましょう」


 昼休み教室で明と昼食をとっていたところ、突然天使が口をはさんだ。


「お前まだ転校初日じゃんか」

「転校初日だろうと部活くらい作れるだろ」


 などと余計なことを明は言った。

 そしてそんなことを聞いて、お調子ものというか常識知らずの天使は黙っているわけもなく、


「ではさっそくこの部活動申請書にサインをください」


 と、部活動設立申請書と書かれた書類を机の上に置いた。すでに役職部長と書かれた場所には、天使と綺麗な字で書かれている。


「お前これどこで手に入れてきたんだよ」

「親切な方が相談に乗ってくれました」


 誰がこんな馬鹿げた相談を聞いたんだか、と心の中で小さくため息をつき、


「もう少し平凡というものを理解してはくれまいか。普通はな、部活に入ってくれと言われて、わかりましたと二つ返事で返答がもらえることなどまずないんだ」

「しかしここに名前を書くだけの簡単なお仕事ですよ?」

「本当に名前を書くだけでいいのか?」

「はい、名前だけ書いてもらったら、一緒に部活動をしてもらうだけです」

「そうかお前と話していると疲れる。残念だが名前は書かん」


 それから二言三言、天使は机の傍らで何かをつぶやいたり、何度か机を叩いたりしていたが、何事もないかのように、俺は腹を満たしていった。そして何度も部活動申請書なるものもちらつかせてくるが、それも茶をすすりながら見過ごす。

 そしてそんな俺たちの様子をコーヒー牛乳を飲みながら見ていた明は、


「お前って天使ちゃんと仲いいけどどうして?」


 きょとんとした顔が俺の視界に入ってくる。

 俺は即座に置かれた状況について言おうとしたが何とか踏みとどまった。

 第一始めから説明したとしても納得しないだろう。俺がいまいち天使が来た理由を把握していないのだから。

 とりあえず丁寧に言葉を選び、それとなくはぐらかそうという意向で進めようとしたのだが、


「居候してますよ、誠一さんの家に」


 平然とした表情で、俺の茶を口に運びつつ天使がそう言い放った。


「待て待て待てい! 俺はまだ居候は許してないぞ!?」


 しまった、これでは天使が俺に家にいることを認めているようなものじゃないか。

 などと失言に気づき、思わず口を手で塞いだのだが、クラスには閑散とした雰囲気がすでに漂っていた。

 そしてそんな空気をかえるが如く突然


「なかなかにおもしろそうな話ですね」


 と、教室の扉を開け、メモ用紙を片手に持った女生徒が近づいてきた。

 おそらく上靴のラインの色からして三年生であろう。

 こんな状況にクラスの者はみな呆気に取られ、完全にみな生気を抜き取られたかのようである。

 しかし明はというと、何やら楽しそうな表情をしているように見える。


「どこがおもしろいものか」

「しかし、常人の置かれている日常とは常軌を逸しているように感じるがな」


 そう言われると返事ができず、俺はそっぽを向く。


「あなたが天使さんですよね、それにあなたはかの有名な永井誠一さんじゃありましんか?」


 天使がおしとやかそうに首を縦に振ったが、俺はというと仏頂面で、


「かの有名なってどういう意味だ」


 そう言ったところ先輩は何やら嬉しそうに、


「ここでは話がしにくいので、ぜひとも部室の方に来ていただけませんか?」

「嫌です。俺まだ弁当食い終わってませんし、昼休みももう十五分しか残ってないので」

「部室といっても、ここからそう遠い場所にあるわけではない。五分もあれば話は終わるよ」

「俺ですね、女性の五分ほど信用してないものはないんですよ。五分で飯ができると聞けば、いつだって十五分は待たされる」

「そんな私事ばかりおっしゃられても、時間はどんどん進んでいきますよ」


 にっこりとシニカルな笑みを浮かべる先輩。

 周囲を見渡すと、すでにクラスメイトは自分たちの世界に戻っている。


「放課後ではだめですか?」

「人の好奇心ほど抑えておくのに苦労するものはないと思いますよ。お互いにね」


 ちらりと先輩は天使の方に一瞬視線をそらした。

 それを見て俺も振り返ると、天使は何やら物思いにふけっているかのような態度をとっていた。


「ではご招待に預かります」


 と、いきなり天使が告げた時、俺はひどくおったまげた。

 そして当然の流れのように、俺も行くことになってしまった。


「じゃあこのからあげは俺がもらった!」

「ふざけんな」


 素早く箸を取り出した明にチョップをかまし、俺たちは教室を出た。


 教室を出て数十秒。走れば十秒かからないんじゃないかと思われる、近い位置に俺たちは招かれた。

 その教室の前には、新聞部と書かれた札がぶらさがっている。


「先輩は新聞部の方だったんですね」


 部室の奥のほうへと進み、茶でも出そうかなどと言う雰囲気を醸し出していたので、俺はわざと口を入

れた。


「新聞部員と言うと語弊があるかな」

 先輩は小さく微笑みながら、ポケットから小さな紙を取り出すとそれを俺たちに手渡した。


「私は裏新聞部部長、西嶋 葵です」


 一瞬頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなった。

 ……………………裏新聞部?

 あれ、どこかでキイタコトアルヨ。


「…………裏新聞部というと、あの裏新聞を発行している?」

「はい、いやあ本当に助かりましたよ前回は。誠一君のおかげで大ヒットいや、メガヒットでしたよ」

「それってもしかしてこれのことですか?」


 などとのんきな台詞をはきつつ、天使は新聞をどこかから取り出す。

 そこの一面には、よく見知っている人物が載っていて、顔には一本に線が、


「どこでこんなもの拾ったぁぁぁぁぁぁ!」


 叫びながら、半ば強引に天使から新聞を取り上げる。


「これには感謝していただきたいものです」


 と、得意げに西嶋先輩が口を挟みだしたので、「どうしてですか」と少々大人気ないような声でたずねる。


「逆にですよ。こうして注目を浴びたということは、女性の目にあなたが留まりやすくなったということです。つまり私は誠一君に彼女ができるお手伝いをしたとも取ることができませんかね?」

「………………えっ!? 先輩って天才ですか」

「だてに裏新聞部の部長なんてしてませんよ」


 ふっふっふと、時代劇にでも出てきそうな、代官と越後屋の如く、小さく俺と先輩は笑った。

 そしてふと、天使の存在を忘れてことに気がつき振り返ると、天使はなんだか気だるそうな表情をしている。

 そんな幼気な少女に俺は何を思ったか


「そういえば天使、お前も確か家に来た時似た様な台詞言ってたが、先輩の方が頼りになるかもな」


 と少々軽率に思える発言が口から飛び出た。

 天使の自分勝手な物事の行い。そして何よりまだ状況順応できていない、俺の未熟な心がその発言の引き金を引いてしまった。

 そして天使は何も言わず、物寂しそうな背中を見せて、部室を去っていった。



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