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星くずの船  作者: 菊川噤
5/6

5 揺らぐ船 怒れる君

 ●■◆▲▼★


 博士はついに宇宙へ踏み入れました。

 星屑に向かって飛び立つ博士は、隕石の宇宙船で徐々に地球を離れていきます。

 博士は……地球を一瞥しました。そこには……暗く落ち込んだ地球が、青黒い海が、あるだけでした。

 博士は星屑を持ち帰るまではもう帰らない、そう心を決めました。もう博士の目には、光り輝く星屑しか、映っていませんでした。

 ぐんぐんと空を飛ぶ隕石宇宙船。遠く、遠く宇宙を飛びます。真っ直ぐに、目の前のあの光に向かって。

 

………。

 宇宙船が飛び立ち、数日が過ぎました。

 相変わらず煌々と光る星が、進行方向に有り続けます。

 博士はすっかり不安になってしまいました。

「どうしてこんなに飛んでいるのに、こんなにしっかりと見えているのに、あの星には届かないのだろう。地球にいた頃は、まるでつかめるようにそこにある気がしたのに」

 博士の体はすっかり老けてしまいました。とても細く、シワの多い体になり……手をつかないと歩くこともままならない、そう言った感じでした。

「あんなにたくさんあるのに、ひとつも手が届かないなんて」

 博士はとうとう泣き出してしまいました。

 博士はそのまま一日中、泣き続けました。そんな時でした。

 コツン、こんこん。

 宇宙船を誰かがノックするじゃありませんか。こんな広い宇宙で、一体誰が……。

 博士は、窓からそっとノックするものを見ました。

「……明るい……あ、明るい?」

 窓から差し込む明り、博士はいつもの家のように気にも止めていませんでした。しかしここは宇宙。太陽の光が降り注ぐ距離ではありません。じゃあこの光は……。

「星……屑……! ほ、星屑じゃ! 星屑じゃあ!」

 そう、ノックするモノの正体は、ぶつかった星くず達だったのです。光まばゆく、目の霞むような明り。

 博士は早速それらを集めて積み込みました。

「この星屑……よく見るとこれ……」

 ぴったりとその分かれ目がくっつく事がわかりました。博士は何かに気づいたようです。

 博士は散らばった星屑が少しづつ、道標のように辿ってどこかに向かっていました。

「これを辿っていくしかないな……」


 ○□◇△▽☆


「おいガキ。お前、あいつの娘だろ。あいつにどこか連れて行かれただろ? それを俺に教えてくんねぇかな?」

 黒服の一人、マーブロスが少女を座らせて、何かの居場所を答えさせようとしている。

 だが少女は口を開かない。開けない。彼女は父親の話も知らないし、あのロケットでどこかに連れて行かれたこともない。ロケットはDUSTで見つけたものだ。

「……スコタビ、こいつ本当に宇宙船から出てきたんだよな?」

 もうひとりが返す。

「そうだぁ、俺は確かに見たぞぉ? 小僧とこのガキ以外には出てこなかったがなぁ」

「ふん。どうせ落ちると察した瞬間、脱出装置かなんか使ったんだろ。そんなことはいい、俺たちはアレのありかさえ分かればそれでいい。さっさと吐け、隠したからってお前がどうにかなるもんでもない。言っちまえよ」

 少女はただ知らないと首を振ることしかできない。

「……手荒な真似はしたくないんだがな……、スコタビあれ持って来い」

「分かったぁ」

 注射器。中身が一体なんなのか、少女は知らない。ただそれから感じるのは恐怖と不穏な雰囲気だけだ。

 彼女は初めて、喋ることができない自分を恨んだ。

(怖い……)

"おいおい、心配されるほど弱ってねーよ! お前は本読んでろ、な”

(怖いよ……)

"あくまで最悪、だよ。俺を信じろってんだ”

(あなたに救われていたなんて、私、知らなかった)

(あなたに支えられているなんて、私……知らなかった)

(助けて!)


 がくっ!


「!? どうした、なんで減速した!?」

「違うぜぇ!? 俺は操縦桿に一ミリたりとも触ってないんだからぁ」

 少しづつ減速する。というか……どこか引っ張られているようだ、エンポリオに。

「早く上げろって! 原因は!?」

「操作を受け付けないぞぉ……。どうやら、重力子を全量一気に開放してるっぽいなぁ。もう加速しても圏外には脱出できない」

 落ち始める、ロケット。

 摩擦で少しずつ明るくなっていくロケットの周り。

「くそ!! あのクソ中年やろうが!」


「……流れ星……。あっちは、確か宇宙船が飛んでった方向だ。落ちて来る……ってのか?」

 ロケットが着陸する。豪風・轟音がピダリオを吹き抜けるのも二度目だ。騒ぎも小さくなる中、青年は人をすり抜けロケットを見る。摩擦で赤熱するロケットを覗く。この程度の熱ならDUSTの灼熱に慣れた青年には多少の苦痛でしかない。強引に乗り込んで、無理にロケットのドアを押し開ける。何かが外れ、開いた中をみれば……もぬけの殻だった。

「もう脱出したあとか……。くそっ!」

 思わず蹴っ飛ばす。鋼鉄製のロケット内には小さなくぼみができる。それと同時に、何かが落ちる音がする。

「……?」

 黒い小さな塊。

 それはあの黒服からもらったタブだった。

「……待てよ……。これ、あいつらのだよな……」

 素早くそれを起動する。GPS機能で、対象が四つ。二つは範囲圏外だ。だが、もう二つは……それぞれが近く、動いている。

「みぃつけた!」

 青年は憤怒と喜びを両立させて、そのアイコンの指す場所へ、素早く向かい始めた。


「全く……あのロケットが使えないし、ここに来るまでの足は今燃料補給中か……。まぁいい、あの小僧が俺たちの場所にまで来れるとは思えん。大した驚異でもないし」

「そうだなぁ。だから諦めて吐かないかぁ?……いいかげんにしろよぉ。薬も使えないしぃ、手を出させてもらうことになるぞぉ?」

 凶悪な眼差しが、今にも飛びかかりそうな獣の瞳が、少女の目に涙を溜めさせていた。

「泣いたってダメだぞ、あいつのロケットに載ってたんだから知らないとは言わせない……」

 スコビタは最終手段に手を出すことを匂わせながらも、ふとあることに気づく。

「……なぁ」

「何?」

「こいつもしかして、本当に何も知らないんじゃないのかぁ?」

「……何を馬鹿なことを」

「だってよぉ。いくら奴の子供とは言え、ガキはガキだろぅ? こんな危険になるまで耐えるだろうかぁ?」

「……今更あとにも引けんだろうがよ!」

ドーン!

「……」

「……」

 互の顔を見合わせる。

「今なんかSE入らなかったか?」

「入ったねぇ」

「出てこぉぉぉぉおおい誘拐犯!!」

「「……やべぇ」」

 彼らがいる場所は、補給中の宇宙船だ。音が外にもれないように高電圧高電流の電磁力ドアをしっかり閉じてきたはずだった。

 じゃあ、あの音は。

 この迫り来る足音は。

 言わずもがな。

「ガキ!? なんでここがわかった!」

「あんたのおかげさ。大マヌケ」

 そう言ってタブを振ってみせた。そこには浮かぶ二つのアイコンと、現在地を示すポイント。

「……やけに頭の働くガキだな。どうやってドア破ったんだか知らねぇが、俺たちは奴が見つけた宝のありかがわかるまでこいつを返すわけには行かない。それともお前が言ってくれるのか?」

 青年は、怒っていた。

「それは、そいつが『喋れないこと』を知っててさらったのか? だとしたら……救えねぇぞ」

 どっ

 青年の手は、よく見れば掠れたり擦ったりした傷が無数についていた。それは、どういうことか。

 宇宙を駆けずり回る、ほかの宇宙船よりはよっぽど堅牢に作られているはずの鋼殻が……青年の、たった一発の拳だけで、もろくもひしゃげる。

 思い出して欲しい。彼は、青年というまだ成長も仕切らない体で、メタボリックな中年を、星の外周を回って(丸一周したわけではないが)シェルターまで担いできたのだ。弱い重力といえども並大抵の体力と力でできたことではない。

 そして操縦桿、無理やりハーフロックにした、まるで笑いもののように思えただろうか? しかし、誤操作を避けるためあれはちっとやそっとじゃ動かないようにできている。それを馬鹿力で動かしたのは『誇りも積もっていなかった』ような、たとえそれがロケットだったとしても、よっぽどの力でなければ無茶だ。

 つまり……彼は、並々ならぬ剛力の持ち主であるという証なのだ。


 ゆっくりと二人に歩み寄る青年。

「彼女を返せ」

 でなければ。その先は青年が壊したその鋼殻が全てを物語っていた。

「は、はははは。そそそそんなこと、知っていたら拐うわけがないでしょう? 馬鹿だな、やめてくださいよぉ~……それじゃ!」

 二人は疾風のごときスピードで、逃げ去っていった。

「……お待たせ。怪我はないか?」

 少女は、自分と青年の置かれた状況を憎んだ。少女は、青年の胸元に名前を読んで飛び込むことができないことを恨んだ。

 そして少女は、青年に再び出会えたことを、歓喜した。

 初めて、声を上げて、泣いた。

「……。悪かったよ」

 到底声というには汚らしく、聞けるものじゃなかった。吸い込んだ空気の掠れる音、啜る鼻水の音。それでも青年は……初めて聞いた彼女の口から発せられる音が、愛おしく感じられていた。

 泣き続ける宇宙船の中、青年はただ、少女の頭に抱いていた。


 数十分と時が経つ。

 少女がふっと目を覚ますと、宇宙を飛ぶロケットの中にいた。

「おはよう、お嬢様。本はお前の枕だ」

 少女は、ばっ、とその本をいつものポジションである腕の中に。

 その数秒後、

「?」

 少しばかりニヤニヤする青年に不信感を覚えながら、なぜ宇宙にいるのかを疑問を持った。

「ん? なんで飛んでるんだって顔だな」

 うんうんと少女は頷く。

「……確信があるわけじゃないけど、この宇宙船の作り手に会いにいくのさ」

 少女は、疑問を深めるばかりだ。

「……これの持ち主に俺はちょっと文句を言いに行かないとな、気がすまねぇんだよ。たとえそれが俺の不注意だったとしても」

 これは、青年の、青年自身のけじめなのだ。少女はすぐにそう悟った。

 立ち入れない何かを感じ、少女はそっと手にとった本に目を通し始めるのだった。

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