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星くずの船  作者: 菊川噤
2/6

2 見える光 気付く二人

 膨張が止まり、外気によって少しずつ冷却され始めた燃えカスが、そのガスで音を立てる頃、青年は愚痴っていた。

「足りない……足りない足りない、全ッ然足りない。燃料はないわ機体はないわ、その上それを造る宛すらないわ。情報も足りてないことが多すぎるし……さっぱりダメだな……はぁ」

 少女の前では、なんでもないような顔をして、余裕ぶっていた彼だが……内心心底焦っていたことがわかる。自分の不甲斐ない現状に肩を落とし、また一つ機械的に資源となるゴミを拾った。

 彼女も、ほかと違わずゴミを黙々と拾い上げている。青年はその彼女を見て、ぐっと下唇を噛む。その表情は、助けるといった自分がこれでどうすると戒め、気合を押し上げる保護者……いや、兄の表情だった。

ふとした瞬間、ゴミに落ちる影の色が濃くなる。つまり、フレアからDUSTを守る惑星が変わり別の惑星にかわったことを示す。

 何もCDUの惑星探査機が無事に報告を行えたのは運だけの賜物ではない。同じクアステの銀河系に属する惑星が、灼熱の猛威を振るうフレアを遮ってくれているのだ。偶然の産物か、一直線上にDUSTとクアステの隙間に。

 それが何かと言えば、この星での時間に当たる。この巨大なゴミ箱では、それを区切りにこの労働に励んでいる。惑星は六つ、それらの名前をとって時間を表す中で、切り替わった今は「パーゴマ」に当たる。それが示すのは束の間の休息時間だ。

だが……青年は自らに休むことを許可しなかった。青年は自分の中で必死に自分を奮わせて「これが今ある中で最も地道な、最も近い夢への道」だ、と言い聞かせる。ゴミを拾え、それを売れ、これがいつか金になる、金ができれば宇宙にぐっと近づく。青年は、その一心で労働に意欲を表し続けた。

 惑星『コロマ』の時間入り、待ちに待った休憩に入る。集まった鉄くずやら合成炭素系のものやらを持ち寄る。今日はゴミ袋に8個分、比較的大量といったところ。彼らはこれをDUSTの地面をほって、そこに型を作って中に放り込む。すると地面である程度弱まった熱がそれらを溶かし、型に沿って出来上がるという算段だ。地面の中のため、低速で凝固するため、互いの結合が強くなり硬い物になるため、雑にものを扱う無法者には好評である。

今日も青年と少女は、その一連の動作を終えた後シエルターに戻ろうと踵返した。めぐる惑星も『エーリオ』、星を焦がす獄炎もすぐそこだ。

 しかしながら、大きすぎる振動とその音が彼らの足を止めることになった。そう、それはどんなに漠然としたものであろうとも、紛れもなくゴミの音ではなかったのだ。

「! 何だ今の音!」

 青年は思わず少女に問いかけてしまう。少女は思わず困惑して、眉間に皺寄せ眉毛が八の字な顔を、上目遣いで青年に向けた。それを見て、やっと動揺の解けた青年はすぐさま頭を下げた。それもそうだ。同じ状況で音を聞いた青年がわからなかったのに、少女がわかるわけもないだろう。

「すまん……。とりあえず探してみよう」

 青年と少女は分かれてその音源を探す。と……いえどもだ。青年が、その姿の大きさから見つけることは難くはなかった。

「う、宇宙船? しかもこれ……分離式の旧型の『ロケット』じゃねーか。重力発生装置も回転式の遠心重力かよ……なんでこんなもんがここに来たんだ?」

 説明口調の青年の言うことに間違いはない。液体水素ロケットのポンプ方式、分離式とは大気圏、重力圏脱出に使う水素燃料タンクを脱出点で分離し、積載量ペイロードを軽減し、必要な性能と技術との釣り合い、そして燃料をより多く重量比に残すために分離する形式のものだ。そして回転式遠心重力とは文字通り船体を回転させることにより遠心力を発生させ、そこに擬似重力を発生させるのだ。重力がないと人体組織が虚弱化するため義務付けられた後のもので、重力子グラビトンを発見する前の発明品だ。これらは皆まとめて、人間の拠点が『地球』または『火星』、要するに『太陽銀河系』に属する天体だった時の話だ。現在では圧縮製固体推進剤と半永久装置を使用し、また単一サイクル式を採用しているため、宇宙デブリ(宙に浮くゴミのこと)を無意味に発生させる分離式を見直された。重力も重力子を発生させるGジェネレーターを搭載しているため回転するためのエナジーロスもない。説明諸々合わせた上で言うなら、このロケットはゴミでしかないのだ。

 だがしかし、青年は太陽銀河系時代の産物にはあるはずのそれがなかったのだ。それは……

「宇宙飛行許可印がないな、まさか自家製ロケットか!? 古代のブルジョアのすることはわからん……。ん?それにしては外鋼殻がガッツリしてんな……太陽にでも突っ込むつもりだったのか?」

 青年はその瞬間、気づいた。

「……しかし、この装甲なら宇宙船の外鋼殻にも使用できんじゃ……」

 !

青年は何かを思いつき、急いでそのロケットの入出口を開けた。

「これが動くなら……!」

 操縦桿へ一直線に向い、一気に電源の確認をする青年、電源を左右を見て探し、それらしきスイッチを押す。古めかしいLEDの光が目前の画面に明かりを灯す。三秒ほどで起動し、スピーカーから感情のない機械の声が流れ始めた。

『宇宙へようこそ。こちらは『ロカ』。操縦士オペレーター命令オーダーをどうぞ』

 青年は、よぎった二度目の疑惑を頭の隅に、最重要事項を集音性の悪そうなスタンドマイクに問いかけた。

『燃料の残量確認』

『認証しました、現在測定中です……確認終了いたしました。燃料『カフシーマー』残量2Lです』

 青年は驚愕を隠せない。旧型のロケットになぜ燃料にカフシーマが積載していたこと、そしてそれがたった2Lしか残ってないことに。2Lじゃどんな宙泳機体でも30分と持ったものではない。ということはつまりこれは『ここに向けてカフシーマを使用して飛ばした』ということだ。おそらく、意図的に。疑問が三つに増える。

 本当に最悪の場合カフシーマを持って逃げようという決意を青年は固め、次の質問に移る。

 『この船体と、SHIの型、スペックの表示』

 SHIとは、サブヒューマンインテリジェンス、直訳して亜人的知能。人工知能よりもさらに人間的な動作を実現した知能プログラムのことだ。ただしこう言った正確性重視の場合、人間の性能にのみ特化した構造になっているため、忘れるおちゃらけるごまかす照れるあきれるこまるなどの感情的、現実的人間思考は排除されている。

 『画面を参照下さい』

 目の前のゴミに埋もれたフロントヴィジュアルカメラから切り替わり、黒い画面に緑の文字が刻まれていく。しかしそれは地球の言語のため、青年には理解できない。そうすると、なぜこの機械音声はこの宇宙で通用するものに差し替えられているのか。誰かが……使っていた? だとすれば緊急脱出の線も否めなくなってくる。異常が起き脱出、推進力は消えずこの星に偶然突撃、これならあのやたらと分厚い外鋼殻の厚さも説明がつく。

 青年は出終わった文字列に対し読み上げリーディングを命令する。

『LSからLFまで読み上げ実行』

 『この宇宙探索型旅行機、SS―M374は分離式遠心重力型宇宙遊泳機です。

 最高速度は8.25c/h 燃費は2.75c/L……』

 青年は愕然とした。なぜかというのは彼本人の口から教えていただこう。

「はぁ!? 8.25c/hだって!? 一年で7万光年超かよおい! 国交製の救助宇宙船か、軍事宇宙船、レース用の機体でもそんな最高でないぞ! 一時間で3Lしかカフシーマ消費しないって馬鹿な話だな、限界理論値でも7Lだったってのに……エコロジーの枠超えてんだろ」

『そして私 SHI『シゼィデシィ』は2433型の瞬間計算最高10の12乗桁のDーVOICEプログラムです』

「SHI は宇宙船の作られた世代とかわりない……。相互関係が一致してる。この宇宙船は拾われたもんだったのか? それで言語プログラムとエンジンだけ組み替えたのか、もしくはジャンクか何かの合わせものか……どれであろうが、イマイチ解せないな。なんでこんな古臭い機体を……」

 熟考に入ろうとした青年を現実に引き戻したのは、外殻を叩く金属音だった。その物音から、青年は少女のことを思い出す。慌てて外に飛び出せば、そこにはいじけた少女の姿があった。明らかに不満を訴えるふくれっ面。青年の言葉はひとつのみに絞られた。

「ご、ごめんなさい」

 頭を深く下げ、そこを本でボンっと叩かれた。少女は致し方ない、これで許そうと雄弁にも目で語り、それはともかく置いといて、とダブルチョップを正面に一回、右に一回。少女はゆっくりとその赤みを見せる空を指差してみせた。

 青年は数秒ほど理解に困り、すぐさま理解する。つまりそれはそしてその直後思わず少女に怒鳴った。

「どうして間に合ううちにシェルターに入っておかなかったんだ! 俺なんか放っておけばよかっただろう!」

 少女は、思い切りよく首を振った。拒絶し、真っ直ぐに彼の目を見つめた。

「……嘘をつくなってか。お前は本当に……。そんなこと言ってる場合じゃねぇ。しょうがねぇ、宇宙船に乗ってくれ」

 彼は再び、勢い良くそのロケットに飛び込んだ。

「一応そこにあるボンベスーツ着込んどけ、それは、馬鹿みたいに丈夫にできてるから、一回くらいならあのフレアに耐えられる。もし爆発かなんかして宇宙に放られても、それ来てりゃ二ヶ月は死なずに済む。二ヶ月と立たずにごみ捨てに来る奴はいる。そいつに頼め」

 少女は、青年はどうするのかと心配するように見つめた。青年は頭を撫でてやる。少し荒っぽいながらも、包み込むように。

「あくまで最悪、だよ。俺を信じろってんだ」

 青年の表情には、一瞬の陰りを見せる。だが……気合を引き締める。

『重力に対し、BCOGTを垂直になるようにコレクション』

『命令を再度入力してください』

「っく!『重力に対し基本重心点を垂直になるように船体修正』だ!」

『認識しました』

 足場の悪いゴミの上でロケットが上を向けて修正される。

『現在地確認』

 たった一秒の沈黙。これは青年が渇望する一秒でもある。青年は苦痛に拳を握る、歯を噛む。

『確認できません』

「なんと! じゃあ座標指定移動もできないってのか!? 冗談じゃない!」

 残り時間が減っていく、明るさが刻一刻と増していく。

「クソッ、なら『手動操縦起動』『ナビーげーションを切断』『ブースト起動』!」

『認識しました』『スターライターは起動しますか?』

「スターライター……確かカメラ認識した星を地図上に認識するソフトだったか、処理が間に合わなくなって死んだら笑い種だ、『拒否』!」

 青年は席の周りをまさぐり始める。

「手動の操縦桿はどこに行った!? あれがなきゃ手も足も出ない!」

 操作台の下にはない。奥の収納も左右も同じく。上を見上げようが何やらヤバそうなスイッチ一択である。残りはといえば……。青年は自らの椅子のサイドにあったバーを倒し、椅子を引くとそこには小さくたたまれた操縦桿が。それと同時に異変が起こる。その猛烈な熱量から起きた、空気膨張による風。ロケットを微かでないほどに揺らした。時間もあと一時間もない。

て飛ばねぇと……!」

 まっすぐに直した操縦桿を引き上げるように力を込める青年。だが存外固かったそれは前傾した状態で何かがハマる音がする。

『エンジンにハーフロック(速度固定)がかかりました』

「かけんな! 時間ねぇんだよ! さっさと飛べよくそったれがぁあああああああ!!」」

エンジンレバーを半分だけ引いたため、狙いと違うことが起きる。青年は、もはや態など解せず、いらだちを叫んだ。

力任せにそれを引き込……青年はそっと親指でレバーの先端のボタンを押し……引き込んだ。

『ブースト開始十秒前』

 クアステの光量から影が薄くなり、とうとう無くなりかける。周囲から内外殻を通過するほどわかりやすくゴミが融解をはじめる音がする。時間はもはや、ない。

『五秒前』

 温度計が目に見えるスピードでその数値を上げていく。自転すらも悪魔と化し、ロケットが隠れる部分が見え隠れするほどになる。嫌な音が聞こえようとした。

『三、二、一』

「死んでたまるかぁああああああああああああああああ!!!」

 青年の死を拒否する慟哭とともに、プラズマになりかけの超高温が、プラズマの混じる極熱が、カティキアの半球を赤く包み込んだ。


 ●■◆▲▼★


博士が隕石を見つけて、その次の日になりました。

博士は今日も喜んでいるかと思えば、何やら悩んでいるようでした。どうしてでしょうか? その理由を、博士はおもむろに言いました。

「硬いものが見つかったのはいいのだが……どうやって加工すればいいのだ!?」

 博士が困っていたのは、隕石の加工についてでした。それはそうです、今まで探してきたどんなものよりも硬いと博士が感じたのだから、並大抵のものが隕石を加工処理できるはずがありません。

博士は再び行き詰ってしまいました。

こんな時に、博士は空を見ていることにしました。いいアイデアが空から降ってくるかもしれないからなんだとか。隕石のように降ってこなくても、何か思い付けるかもしれない、そんなわけで博士はずっと、そしてボーっと、空の色を目に映していました。

目に映る空が黒くなっても、博士は何も思いつきません。しょうがありません、博士は家でご飯を食べて、明日考えることにしました。

キッチンです。博士はそういえば今日はハロウィンだと気づき、すこし洒落て、ランタンでも作ろうと思いました。しかしかぼちゃは硬いもの、包丁がうまく入っていきません。博士は仕方なしに、工房のノミを使うことにしました。飲みの方が包丁よりも良く切れていきます。

「……ふぅん! できた! これで完成だ!」

 博士のキッチリとした四角い形の目を持つ、ジャックオランタンが出来上がりました。博士はとても自慢げです。……と、その時でした。

「 ……はっ! もしかして、これを使えば……!」

 博士は何かに気がついたようです。あっという間に研究所に行って、何かを作り始めてしまいました。

次の日の朝早くのことです。博士は目の下のクマをこすりながら、完成したものを持ってきました。

「やっとできた! スーパードリルじゃ!」

 博士の手には普通よりも大きなサイズのドリルを作っていました。

「これであの隕石を宇宙船にするぞ!」

 ガリガリという音が聞こえる庭先、それは博士が隕石を削っている音でした。


~数時間後~


「で、できた! 宇宙船の完成だ!」

博士はとうとう宇宙船を作り上げ、宇宙に行く術を手に入れました。

博士の乗ったロケットが、発射するまでのカウントダウンは、もう数えるまでもありません。

いままで諦めずに研究を続けてきた博士の、その夢は着実にその歩みを進め始めていました。


 ○□◇△▽☆

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