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制服少女  作者: ゴキブリ
2/2

〜1〜

 がたんごとん。がたんごとん。耳障りな地響きに苛立ちながら、僕はじーっと耐えていた。僕が頼んだミルクティーも、ゆらゆら陽炎とにらみ合っている。

 もう30分は経ったんじゃないだろうか。彼女は他愛もない話を退廃的に続けている。

 「そうそう。このずーんと沈んだ空の下で、一際鮮やかな色をしてるこの物静かなコーヒーが大好きなの。特別じゃないの。似たり寄ったりな味の薄いコーヒーで、いいとこなんてひとつもないはずなんだけど。なんだか好きなの。なんだかね。好きなんだよ。ふふっ。」

 彼女らしい優しい話し方だ。どんなときでもするする抜けていくような、彼女の言葉。おもむろに掴もうとしても、さらっと僕を笑い、ふっと消えるんだろうなぁ。

 「そういえば、私がコーヒーを飲み始めたのっていつ頃だったっけ?なんだかずいぶんと昔のような気もするし、2,3回目のような気もする。うん。記憶ってすごく曖昧よ。いろんな形に変化して、いっつも私を困らせるの。」

 僕もそう思う。夢の世界は夢のまた夢なのかもしれない。

 「そうだなー・・・。私にとってコーヒーはこんな感じかな。」

 おっ。始まる。今日はまだ2回目だ。

 「暗くて何にも見えないような部屋を見つけて、物色してるの。そう、私が。特に変わった様子もなければ、違和感のかけらもなくって、もっともっとよく見るためにライトを付けようとする。ポチっとね。でもスイッチを入れてしまえば、誰かに見つかるような気もするの。で、嫌な汗をじわーっと体中から吹き出しながら、バっと後ろを振り返る!」

 小柄な少女とは似ても似つかない、いきなりの大声で一瞬彼女は世界を置いてけぼりにしてしまったが、当の本人はまったく気にする気配もなかった(気付いてすらいないのかもしれない・・・。)。というか、僕の方が椅子上5cm強も飛び上がってしまったせいで、みんな彼女より僕に興味を示していた。とても恥ずかしかったけど、あの子を救えたような気がして、嬉しかった。えへへへ。

 「だってね、さっき確かめたことなんて、いつさらわれるかわからないよ。別に誰も私のことなんか気にしてないのは知ってるけど。」

 なんだって!?僕がさらってやろうか!?んっふー!!

 「我に返るために、ふーっとため息をつけば、もやもやと一緒にさっきまでの自分が別人になって目の前に現れるの。ライトをつけた覚えはないのに、薄い光の煙をまとっているような感じのもう一人の私。うん。そして、意識と無意識の狭間の私は彼女を罵倒するんだ。たかだか18の小娘が思いつく限りの薄っぺらい言葉を並べて。」

 がたんごとん。がたんごとん。

 「「大人」と名乗る人たちにとったら、大分と馬鹿馬鹿しく見えるんだろうなぁ、なんて考えながら。そんな私もいつ馬鹿にされるかわかったもんじゃないのに。人間って勝手だと思わない?」

 

 彼女は例え話が好きだ。僕らが誰かを愛するかのように、彼女は例え話と手を繋いで世界の果てまで旅をしてるのだ。出発の合図は鼻、だ。

 鼻に手をやると、彼女は軽くはにかみ、遠くを見る。まるで自分の考えが馬鹿馬鹿しく突飛で、くだらないが故に誇り高いのだ!と、まるでどっかのお偉いさんの政見放送かのように。意気揚々と胸を張る。そしてまた軽く膨らんだその胸はエベレストより気高く、万里の長城より怪奇なのである!

 

 次の瞬間僕はわざと耳を濁し、澄まされるの待った。そして、それにあわせるかのように彼女もそっと声を張った。

 「そう。やがて彼らは、ライトに照らされちゃかなわん、と、あれよあれよと逃げ惑うの。不平不満の波は淵に押し寄せ、波音は静かに、でもどこか激情的に反り返る。未知がそんなに怖いのかな?異常とも言えるその行動は、どこででも見るような1滴が、どこにでもいるような少女の、どこにでもあるような制服にくっついて離れないこと。いや、しがみついて離さないこと。とも言えるかな。そんな彼を見て私は、「困った」顔をするの。」

 僕はまだじーっと耐えていた。がたんごとん。がたんごとん。

 「待って。別にこれぐらいのことで、誰かに助けてもらいたいなんて思ってる訳じゃないの。誰かがそんな私の顔を覗いて、不滅の連想を繰り広げるのがおもしろいの。すごく。だって制服にシミよ。ナニを想像するの?ほら、私が女子高生でいる為に女子高生は私を装うことで誰かの為になるなんて、素晴らしいと思わない?」

 コーヒーショップという名とは似ても似つかない古びた喫茶店の大きすぎるガラスの向こう側は、行き交う人々で溢れていた。平凡な人生に負けた帰り道のおばさんたちや、毎日のように待ち焦がれることを、退屈と感じたくて仕方のないサラリーマン達。

 そんなにせかせか歩いて、いったいどこへ行くんだろう?ふと思う。

 

 ゆっくりゆっくり時間はほどけていくだけなのに。

 

 「うん。じゃあ、そろそろ行くね。ありがとう。はぁい。ばいばーい」

 彼女はおもむろにそれを鞄にしまい、立ち上がった。どうやらもう帰ってしまうらしい。

 ななめ向かい側の僕の席に来てくれないかなー。なんて考えながら、僕は青ざめた春が通り過ぎていくのを肌で感じた。

 そして、せかせか歩いているように見えぬよう、注意しながら足早にトイレに行った。

 僕は僕でいたいだけなんだ。怖いわけじゃないんだよ。ただ・・・・・。

 ・・・・・・。

 うまく言えないけど、僕は何かをしなきゃいけない気がするんだ。


 このとき僕はまだ知らない。まだ。


 なんにも知らない。

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