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銀盤奮闘記  作者: 左藤
プロローグ
1/7

プロローグ:2012年、秋

 シャアァッ!



 鋭い音がすぐ脇をすり抜ける。続けてジャッ、ガッという大きな音が響いた。僕はその音を目で追いかけ、何とも言えない、嫉妬と、憧憬と、少しの虚しさを混ぜ合わせたような思いに囚われる。それは僕にはまだ手の届かないものを見た、一種の羨望でもある。


「集中しろ」


 声をかけられ、僕ははっと我に返った。


「大事な試合なんだぞ。そんなことでどうする」

「はい」

「いいか、今度こそ、あの野郎に一泡吹かせるんだ」

「はい」


 何てこと言うんだこの人はと内心つっこむが、場内に流れたアナウンスに会話は途切れた。六分間の練習の終了を告げる。


『18番、紀野原亮平(キノハラ リョウヘイ)さん、北城大学』


 続いたアナウンスに、僕の気持ちは引き締まる。緊張。張り詰めた糸。最後までもたせなければならない。


「よし、行ってこい。暴れまくれ」


 コーチの言葉に頷き、中央へ。リンクの中央。冷たい空気。静かな集中。足元から伝わる氷の感触。



 今日は東日本フィギュアスケート選手権の最終日、男子フリースケーティング。その名のとおり東日本全域のトップスケーターが集まる大会であり、今やスケート大国となった日本の最強のスケーターが集合する全日本フィギュアスケート選手権への参加が掛かった、大事な試合だ。


 そして今日の僕にとっては、その全日本選手権に初出場できるかどうか、そして、ある『挑戦』を達成できるかという、特別な日である。



 一息深呼吸し、スタートのポーズをとる。一瞬の間。音楽が流れる。


 『ワルシャワ・コンチェルト』。


 とある映画のために書き下ろされたこの曲は、重厚なオーケストラとピアノによる協奏曲。管弦楽とピアノが折り重なるような冒頭部は特に有名で、何となく知っている、という人も多い。ただ僕がこの曲を選んだのは、単に憧れのスケーターが昔使っていたからだったりする。


 すぐにジャンプが来る。


 最初のジャンプ。トリプルルッツ。左足バックアウトサイドエッジの助走。タイミングを計り右のトウを――



 ――突く!



 すぐさま腕と脚を畳む。空中で三回転。刹那流れる風景。

 着氷。右足に衝撃。心地よい流れの感触がブレードから伝わる。やっぱりジャンプは最高!


 もう一つジャンプが続く。軽くステップを踏む。再び加速。

 トリプルトウループ。軽やかに降り、そのままダブルトウループのコンビネーション。観客の拍手が聞こえる。


 一瞬安心するも、すぐに気持ちを切り替える。


 次の要素はチェンジフットシットスピン。

 バックアウトで回転に入り、すぐさまシットポジションへ。回転を数え、フォアインサイドにチェンジエッジ。脚を代える。上半身を抱え込むポジションから、上体を捻るポジションへ。

 これも良い流れ。このまま行ければ――


 繋ぎにイーグルを入れ、そのままリンクの外周を使ってバッククロスでスピードを出す。勢いと、それを殺さないタイミング。それだけを念じながら、助走に入る。



 右足のバックアウトサイド。タイミング、タイミング…。


 意を決して左足フォアアウトに足を代える。タイミング。極限まで張り詰める糸。つま先に体重を乗せジャッ、という音と共にそのまま跳び上がる。



 ――しまった!



 跳び上がってから、僕は全てが手遅れだと知る。わずかにずれたタイミング。必死に体を締めて回転するも、徐々に歪んでいく回転軸…。緊張の糸が――切れた。



 回転、仕切れない。



 不完全な横向きで着氷した僕は、ジャンプの勢いそのままに氷に弾かれ、無様に倒れこんだ。混乱する僕は、眼前に迫ったリンクサイドのボードに手を付き立ち上がるも、次にどちらに滑り出せばいいのかも分からない。それでもプログラムを途切れさせるわけにはいかず、どうにか滑り出す。


 すぐに次のジャンプが待っている。そんなわずかな時間の中で、しかし僕が考えていたことは一つだけだった。



 僕が自分に課した『挑戦』。それは、今のジャンプを決めることだった。


 トリプルアクセル。


 誰もが聞いたことがあるはずだ。世界を狙うには必須の技であり、これを跳べるか跳べないかだけでもキャリアが分かれてしまうほどの高難度ジャンプ。そして、スケーターを目指す子供たちには憧れであり、一度は跳んでみたいジャンプでもある。もちろん小さい頃の僕も例外ではなく、長年の練習の末、今年の夏ようやく、跳べるようになった。


 何としてもこの大会でトリプルアクセルを成功させ、全日本選手権に出たかった。しかし、転倒。



 ごちゃごちゃになった頭のままで滑り出した僕は、もう何も出来なくなっていた。その後のジャンプはすっぽ抜け、転倒の連続。



 今年の東日本選手権の結果は13位。キス&クライで僕は乾いた笑いを漏らした。


 これを笑わずにいられるか。



 なんといっても、何度目か分からないくらいの挑戦である全日本選手権の初出場を、今年もまた見事逃してしまったのだから。

えせスケオタのくせに勢いで書き始めてしまいました。

需要あるか不明ですが楽しんでいただければ幸いです。


ルールとかいまいち良く分かって無い中で書いてますので、ところどころ変かもしれません。


また今後の展開をあまり考えていない&私生活が忙しくなったりするので、更新が滞るかもしれませんが、ご了承ください…。


<追記>早速微修正…。


<さらに追記>思いっきり勘違いしてた部分を修正…。

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