ドキドキ初体験
とある中学校の一室でチャイムが鳴った。担任の先生が職員室に戻ろうとすると同時に皆が慌ただしく帰り支度をしている中、秋月瑞樹がプリントをカバンに入れていると結城愛子が近づいてきた。
「みずきちゃん!一緒に帰ろ?」
瑞樹はギャルと言う感じではない。が、おしとやかという感じでもない。活発で今どきのオシャレも好きな女子中学生で学校でもそれなりに男子には人気がある。愛子はどちらかと言うとおしとやかで見た目もお嬢様系。いわゆる幼馴染だ。
二人は学校を出て住宅街を並んで歩いている。
「やっと夏休みだね!みずきちゃん、夏休みは家族でどこかに行くの?」
「うん。2泊3日でキャンプ。お父さん毎年キャンプが楽しみみたいで。まぁ特上ハラミを食べられるのは魅力的なんだけどね」
いまいち乗り気でない瑞樹に愛子は言った。
「い~なぁ~!みずきちゃんちの焼肉って美味しいもんね~。わたしもそっちのがいいな~」
「何言ってるのよ、あたしはあいこのが羨ましいよ。ステキなパパとママと一緒に南の島なんて!うちなんて焼肉屋よ!おまけにお兄ちゃんはオタクよ!オ・タ・ク!!」
「昔は仲良かったじゃない、わたし将太お兄ちゃん好きよ。優しいし。前はみずきちゃんもアニメを一緒に見てたし、いつからそんなに嫌いになったの?」
「ん~、別に嫌いになったわけじゃないのよ。アニメも嫌いなワケじゃないし。ただ世間的に自分のお兄ちゃんがオタクっていうのがちょっとね・・・。」
「あはは・・・。それは確かに・・・・」
実は本当の理由がある。昔、兄と一緒に見ていた
魔法少女まじかるマカロン
を兄が見ていた。たまたま兄の部屋のドアから音が漏れていたので懐かしくなり一緒に見たのだが、これがテレビ版ではなく、OVA版だった為に変身する少女が丸裸になったのである。兄もさすがに気まずそうな感じではあったが、これを見て萌え~とか言ってると思うと、思春期の女子にとってはオタクは嫌悪の対象になってしまったのだが、親友には言えず・・・。
苦笑いをする愛子に瑞樹は提案してみた。
「ねえ、良かったらうちのキャンプ、あいこも来ない?親友と一緒の方があたしも楽しいし」
満面の笑みで頷く愛子に瑞樹は手を振りながら
「あ!あたしこっちだから!また電話するね!」
瑞樹の自宅は築15年のごく普通の一軒家で特別大きくもなく、それなりに使い込まれた感じである。
「ただいまぁ」
両親は焼肉屋の仕込みの為に家には居ない。
玄関を入って廊下のすぐ左がリビング、その奥がキッチンになっている。廊下の右がトイレ、お風呂場になっていて、階段を上がって正面が両親の寝室、左を向くと将太、瑞樹の部屋が並んでいる。兄の将太もまだ帰宅してなかった。
瑞樹は自分の部屋に入ってすぐにベッドに寝転んだ。うつぶせになった状態から両肘を立てて携帯をいじっていたが、思い出したように着替えだした。スカートもクリーニングに出すのでハンガーに掛けるわけでもなく、下着姿のままベッドに放った。その時、隣の部屋のドアが開いた音がした。将太が帰って来た。瑞樹は先ほどの愛子との話を思い出して一瞬ムッとした。
夏休みになって5日が経った。今日から家族でキャンプである。瑞樹の枕元にある目覚まし時計が午前7時ちょうどに激しく金属を打ち付け、ピンクと白のボーダー柄のサロペットを着た瑞樹が寝ぼけながらそれを止めた。
両親、兄、愛子と共に本栖湖から道路を挟んだ林の中にあるキャンプ場に到着した。RV車から両親と将太がクーラーボックスやテーブルを降ろしている時、瑞樹は伸びをしながら景色を眺めた。目の端にキャンプ場に似つかわしくない20代半ばくらいの小太りの男が独りトボトボと歩いてるのを見かけた。「変な人」と思ったつかの間、母親から「みずき~!ちょっと手伝ってぇ~」と言われすぐに顔を背けたのでそれきりになった。
「ふぅ~、食べた食べたぁ~!ねぇ、あいこ!お散歩しようよ」
二人で林の中の小道を歩いていた。
「みずきちゃん、ホント良く食べたよね~、あれだけ食べて太らないなんてズルイわ・・・・・」
「ん~、気にした事ないなぁ、っていうか、太らない体質みたい」
「くっ、ダイエット戦士の敵だわ・・・・」
恨みがましく瑞樹を見る愛子。
「ん?あいこ!これって何?」
「祠ね。きっとこの辺りを守ってくれる土地神様か何かじゃないかな。」
杉の木の横にひっそりと板を合わせただけのとても小さなものでお供え物も特にない寂しいほこらだった。
「そっか・・・。なんか寂しいね・・・・。
せっかくだしお参りしとこ」
瑞樹は手を合わせた後、再び愛子とお喋りをしながら散歩を続けた。
翌日も雲ひとつない晴天、午前中は皆で西湖までサイクリングしたり泳いだりして15時頃に遅めの昼食を摂った。汗をかいたので、独りバンガローに戻り着替えた。デニムのショートパンツにピンクのキャミソールと言う、いかにも夏らしい服装だった。再び愛子と散歩しようとしたのだが、満腹で動けないから少し休ませてと言われ、仕方なく一人で林の中の小道を散策をしていると、昨日の小太りの男を見つけた。何か様子がおかしい。怖いと言うか暗いというか・・・・。気になった瑞樹は彼を凝視していた。すると、どこからか何か聞こえてきた。
(・・・てあげて・・・)
「ん?」
空耳だと思い、気にもとめなかったが、その声は再び聞こえてきた。
(たすけてあげて)
夏だと言うのに鳥肌が立ってきた。知らない土地で寂しい場所。そこに気味の悪い声が聞こえてきたのだから当然だ。
「誰?っていうかどこ?」
声が聞こえると言うより瑞樹の頭に直接入ってくる感じなのだが、習性として辺りを見回す。
(あの人を助けてあげて)
「こわっ!っていうか、あたしを誰か助けて!」
頭を抱えながら辺りを見回したりうつむいたりしている。
(あの人は自殺しようとしてるんだ)
「え?・・・・・・・だからあんた誰?っていうか、なんであたし?」
(お願い!早く助けないと、あの人が自殺しちゃう!)
「いやいやいやいや!ムリ言わないでよ!知らないわよ!誰か他の人に頼んでよ!そんな重たい話いきなり持ってこられても女子中学生に何が出来るって言うのよ!っていうか、あんたがやればいいじゃない!」
(ボクにはまだ実体がないんだ。そしてここには君しか居ない)
(彼が死んだら・・・・・・君のせいだ)
「ちょっと何よそれ!理不尽にも程があるわよ!いきなり頭の中で誰かが喋ってきただけでもテンパってるのに自殺するかしないかも分からない人を助けろって言われたって信じられるわけないじゃない!」
「あんたジャイアン?ジャイアンでしょ!ジャイアンね!じゃなかったらブタゴリラ?」
(・・・・と・とにかく!今彼を助けられるのは君だけなんだ!)
「ちょっとカンベンしてよ!友達でもないのに何で私がそんな事しなきゃいけないわけ?あたし旅行中なんだけど!」
(お願いだ!君しか居ないんだ)
「っていうか、ホントにあんた誰?どこから話しかけてるの?天使だとか言うつもり?それともあれ?どっか異世界から来たとか電波な事言うつもりじゃないでしょうね?」
(昨日、君は祠にお参りしてたよね?)
「え?・・・・・じゃあ何?あんた祠に祭られてる神様?」
(いや、ボクはたまたま通りかかってそれを見てただけだ)
「紛らわしい事言わないでよ!っていうか、祠関係ないじゃん!バカにしてるの?」
(いや・・そういう意味じゃなくって、その君の優しさに掛けたんだ)
一瞬、目を真ん丸くして少し照れる瑞樹。
「・・・・・分かったわよ!どうすればいいのよ!」
(彼を癒してあげるんだ。そのための力を君にあげよう)
「そんな力があるなら自分でやんなさいよ!」
(さっきも言ったけどボクには実体がないんだ。それにこの力は女の子じゃないと使えないんだ)
「・・・・・・何?この昔見た魔法少女のような展開は・・・・」
「まさかメタモルフォーゼしろ!とか言わないでしょうね?」
(・・・・・・・・・)
「するの?するのね!あんた女子中学生を裸にしようって言うのね!バカ!エロ!」
(・・・・・めたもるふぉーぜと言うのはよく分からないんだけど、その・・・・変身・・と言うか・・・)
「一緒よ!日本語なだけじゃない!あたし変身なんてしないから!」
(・・・・あぁ、ほんのちょっと肌が見えるのがイヤって言うだけで一人の命が奪われるなんて・・・)
「あんたねぇ~!」
(ボクが悪かったよ。君に頼んだボクが・・・。優しい女の子だと思ったのに・・・。)
(今にも死にそうなあなた!ごめんなさい。助けてあげられそうにありません)
「ちょっと!それじゃあたしが悪いみたいじゃないのよ!」
「ったく、死ぬのが分かっていて知らん振りってのも夢見が悪いわ。いいわよ、どうせ今回だけなんだから。その代わり、あとでちゃんと説明してよね!」
「・・・で?どうすればいいの?」
(良かった!じゃあ、このまが玉を握ってこう言うんだ)
(我に宿りし神の力を解き放ちたまえ!)
空から水色のまが玉が降ってきて瑞樹の胸元で光を放ちながら留まっている。瑞樹はそれを握り締めて言った。
「我に宿りし神の力を解き放ちたまえ!」
まが玉が急に眩いばかりに光ったその瞬間、着ていた服は一瞬にして消え去った。と同時にまが玉から細い布があふれ出してきた。それが瑞樹にまとわり付いて服になった。巫女が着るような白い着物に真っ赤なミニスカート。白のニーハイソックスにポックリのような靴。手には御幣、木の棒に紙が付いたアレである。ショートヘアーのはずの髪の毛はロングヘアーになっている。
「・・・・ちょっと!何よこれ!あんたの趣味?っていうか、神様ってこういう格好許すわけ?ギリギリでアウトよこれ!」
(・・・・・・あ、彼の姿が見えなくなってる!早く後を追わないと!)
この苛立ちを向けるべき相手が見つからない瑞樹は露骨に表情に出しながら後を追った。
ようやく追いつき、瑞樹は話しかけた。
「ちょっとあんた!自殺なんてやめなさいよ!」
「え?なんでそれを?・・・それにしても・・・君可愛いね」
「っ!キモ!っていうかあんたホントに自殺する気あんの?」
瑞樹を見て緩んでいた顔がまた暗くなった。
「はぁ、やっぱり僕ってキモいんだ・・・・。やっぱり生きてちゃいけないんだ!」
「いやいやいや!ごめん!今のウソ!自殺しないで!それよりなんで自殺なんか考えたの?」
「僕は見ての通りオタクなんだ。でも、勤めてる会社に凄くステキな人が居て・・・。あんなに好きになったのは小学生の時以来だったんだ!それで勇気を振り絞って告白したら、やんわりと断られて、まずはお友達になりましょうって言われてさ。」
「それでもチャンスはまだあるって思ってたら、偶然彼女が他の同僚に僕の事をキモいって話してるのを聞いちゃったんだ。」
「それはまぁ、仕方ないわね」と心の中で呟いた。
「そんな事ないわよ!たまたま性格の悪い子を好きになっただけじゃない!すぐにまたいい子が現れるって!」
「大好きだったアニメのブルーレイもフィギュアも全部捨てたのに!もういいんだ!僕なんて!」
瑞樹は小声でまが玉を渡した誰かに言った。
「ねぇ・・・これ一体どうすればいいのよ?」
(手に持っている御幣を彼に向けて「浄化!」って言うんだ!)
「・・・・そんだけ?そんなに簡単なもんなの?前にテレビで自殺を止める人のドキュメントやってたけど、そんな簡単なもんじゃなかったわよ?崖の上で一生懸命、何時間も説得してた元警察官のおじいちゃんがバカみたいじゃない!そもそも、あたし変身する必要なかったんじゃないの?」
(・・・・いや・・・神の力だから・・・・)
「・・・いまいち納得いかないんだけど・・・・まぁいいわ。さっさと終わらせましょ」
瑞樹は御幣を彼に向けて言った。
「浄化!」
御幣が光り、彼から黒いモヤのようなものが出てきてそれが御幣に吸い込まれた。かなりの圧力があるみたいで、受け止めるのに両手で拳銃を撃つような姿勢で受け止めた。
「あれ、僕はいったい何をこんなに悩んでたんだろう・・・。」
時計を見る男。
「あ!6時から始るアニメに間に合わなくなっちゃう!帰らなきゃ!」
「あ、ちょっと!お礼ぐらい言いなさいよ!」
「・・・君・・誰・・・・?」
「可愛いコスプレだね・・・写メ撮ってもいいかな!」
イラっとする瑞樹はとっさに言った。
「うせろ!キモオタ!」
慌てて逃げていく小太りの男。意外と足が速いことに驚く瑞樹だった。
「はぁ~、やっと終わった。早くこの格好を元に戻してよ」
すると一瞬にして元の服装に戻った。
瑞樹はどこの誰か分からない声の主に聞いた。
「これって結局なんだったの?あんたは誰?なんで自殺するって分かったの?」
(ボクに名前はないんだ。誰か?と聞かれると困るんだけど、強いて言うならボクは君たち人間が生み出した空想。昔から人々は何かを夢想し、それは未だに続いてる。神様だってそうした空想のひとつなんだ)
(その「想い」に対して外部から邪な念が影響して彼は自殺を試みた。昔はボクにも実体があったんだけど、今はそうした邪念が多くて実体も消え、動く事も出来なくなったのさ)
「ふぅ~ん・・・ま、なんにしても良かったわ。これで元の生活に戻れる。これであんたともお別れね」
それからキャンプ場に戻り友達や家族と楽しく過ごして
無事に?旅行は終わった。
次の日
愛子と買い物に行く約束をしていた瑞樹はいつもの目覚ましの金属音に10時前くらいに起こされた。
上半身だけ起こして少しボーっとする瑞樹。
「ん~」
もう少し寝ていたいと思いながらも約束の為に起きようとすると見た事も無い動物かぬいぐるみのようなものが、チョコンとベッドの足元に居る。
「・・・・・!?」
ガバッと上半身を起こすと猫ともウサギとも思えるような思えないような・・・・・生き物・・・・・・?
「何これ!っていうか、何この生き物!!」
「おはよう!」
「え?!・・・・・・夢?これって夢?」
「っていうか、聞きたくもない聞き覚えのある声なんだけど!」
「君が彼を浄化してくれた時に少しだけど力が戻ったんだ。おかげでこれからは行動範囲を広げて浄化出来る。あの力はもう君に渡してしまって他の人には使えないんだ。だから、その・・・・・これからもよろしくね!」
「・・・・・・・えぇぇぇぇぇぇぇ~!!!!」
この小説を読んで面白いと思ってもらえれば幸いです。良いご意見も悪いご意見もよろしくお願いします。




