俺は人間に転生した
俺は人間に転生した。
死んだ記憶はないが、人間に転生したことは直感的に理解できた。
本能とでも言うべきだろうか。
それでも、人間という種族に転生したのだ。
転生は突然と訪れた。
新たな生を受け入れるのに少々時間がかかった。
そのため十数秒の間、俺は動きを止めた。
その場で立ち止まり、あるいは寝そべり、座り、よろめいた。
最初に開始したのは思考だ。
各々の思考を回転させる。
ある者は仕事の予定を、ある者は恋人の機嫌取りを、ある者は買い物を再開した。
思考に伴い、肉体も動き出す。
俺は人間に転生した。
人間とはそういう種族だ。
十数秒止まっていた社会が動き出す。
俺だけの社会だ。
俺が俺に挨拶をし、媚びへつらい、偉ぶった。
とある学校、放課後にて、俺が俺をいじめる。
上司の俺が部下の俺を都合よく使い潰す。
それらは実に人間らしい。
俺は人間に転生した。
けれども、だからといって人間らしくある理由はない。
邪な考えが脳裏に浮かんだ。
一つ、やってみることにした。
公衆の面前で男の俺を全裸にした。
しかし、俺の理性がそれを阻んだ。
警察の俺が全裸なった俺を逮捕し、牢屋に閉じ込めた。
俺の異常性はこれで防がれた。
実に理性的な判断をした。
それが正解だったのか俺には分からない。
俺は人間に転生した。
人間はそこまで賢くない。
と言うより、賢すぎるのだろうか。
善悪の概念を生み出してしまったからいけないのだろうか。
分からない。
哲学的なことを考えてしまった。
正解を考えるのは実に人間らしい。
政治家の俺が二人いた。
国民の俺が大勢いた。
どちらかが大統領に当選する。
選ぶのは俺だ。
選ばれるのも俺だ。
どちらが選ばれようと実質的には何も変わらない。
国が変わるだけ。
個人の持つエネルギーは同等のままだ。
それでも何かが変わったように錯覚する。
俺は人間に転生した。
だからこそだろう。
選挙が終わった。
俺は新たな大統領として国に君臨した。
賄賂やコネを使い当選した。
狡いのは実に人間らしい。
俺はまた次の選挙を待つことになった。
国民に寄り添い、誠実に努力した。
馬鹿真面目は実に人間らしい。
人間らしい者が大勢いる。
俺は人間に転生した。
俺は人間らしくない俺を排除した。
俺の理性がそうしたのだ。
時々、人間らしさを捨ててみた。
それでも、理性はあった。
社会は人間らしさを望んでいる。
俺は人間らしさを望んでいる。
新興宗教があった。
その教祖に俺はなった。
信者の俺が教祖の俺に救いを求めた。
何かにすがるのは実に人間らしい。
だが、だんだんとおかしくなった。
俺は人間らしかったはずなのに、理性が俺を拒んだ。
新興宗教はカルトになり、社会は俺を排除した。
信仰は実に人間らしい。
だが、それが強すぎると駄目なのだろうか。
理性は理論的ではなかった。
理性は直感的な物だった。
何かが引っかかる。
何かがおかしい。
何かが正しくない。
人間はそう直感する。
俺は人間に転生した。
だからこそ直感的に理性を働かせる。
俺は人間に転生した。
人間らしさとはなんだろうか。
理性的であることだろうか。
その行為が人間らしいかそうでないか、俺は直感的に理解できる。
それが理性だ。
己を律する能力だ。
人間は多様に存在している。
俺は人間に転生した。
しかし俺は多様ではない。
だんだんと気が付いた。
人間はおかしくなっている。
俺一人の善悪感が人間全ての善悪感となっている。
特定の善悪感を持ったものは排除される。
それすら俺だからだ。
俺はそんな俺がいるのが恥ずかしいのだ。
同じ俺として恥ずかしい。
理性でそう思うから、俺は俺を排除するのだ。
異常な俺を排除した。
ここには俺しかいないのに、それでも恥を覚えるのだ。
俺は人間に転生した。
人間とはなぜ恥のために同じ人間を排除するのだろうか。
そう思ったところで、俺は変わらない。
この先も、異常な俺を排除するだろう。
少しは寛容になるかもしれない。
しかし、人間とはそう簡単に変わらない。
俺は実に人間らしかった。




