表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた  作者: 夕景あき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/8

1

 7歳のあの日、たった一言で、俺の人生は決定的に歪んだ。


「母上が今夜お会いする騎士様が、僕の本当のお父さんなんですか」

 

 高熱を出した7歳の夜から急に聞こえるようになった母上の心の声が、外面と全く違うことに混乱し朦朧としながらも、つい口に出してしまった。

 その瞬間、母上の心の奥から、冷たい憎悪の「声」が響いた。


「(この秘密が露見すれば、私の地位は崩壊する。この子は、危険だ)」

 

 母の外面は一瞬で崩れ、母は衝動のままに病み上がりでフラフラしていた俺を暖炉へ突き飛ばした。火傷の熱は、一瞬ののち、猛烈な痛みとなって右半身を襲ったが、俺を打ちのめしたのは、その痛みよりも母親が保身のために俺を切り捨てるという、無慈悲な現実だった。

 この出来事は側仕えから国王に報告され、第三王妃である母は不貞と虐待の罪で、王宮の奥に幽閉され、二度と会えなくなった。

 俺の出自は母の不貞によって疑われたが、王族特有の金髪金目という外見的特徴によって、その疑いは一応は晴らされていた。

 俺が心の声を聞いてしまったせいで、母は目の前からいなくなってしまった。この事件を経て、俺は心の声が聞こえることを、誰にも二度と口にしないことにした。

 火傷の治療中も、医師や側仕えの『(醜い傷跡だ)』という心の声が絶え間なく聞こえていた。右半身の火傷の後遺症と、母に殺されそうになるトラウマに苦しむ日々が続いた。俺は自分こそが世界で最も不幸な存在だと嘆き、周囲の人の心の雑音に耐えられず、自室に引きこもった。昼夜の区別なく、ただ静かな闇の中に身を潜め、死に焦がれるほどに孤独を深めた。一年が経過しても、その生活は変わらなかった。そんな暗闇に囚われていた俺に、手を差し伸べたのが、八歳年上の異母兄である第一王子だった。

 ある日、自室の扉が静かに開いた。そこに立っていたのは、留学から戻ってきたばかりの第一王子だった。

 兄上は、火傷を負ってから一年、誰とも会話を拒否してきた俺に、そっと歩み寄り穏やかに話しかけた。


「カイル。君が、誰にも理解されない痛みを抱え、深く孤立しているのは分かっているつもりだ。周囲の心ない噂や言葉が、君の心をどれほど深く傷つけているか――その痛みはずっと深く痛むものだろうな⋯ただ、君がもし、もう一度誰かを信じたいと思った時、頼れる人間でありたい。君の心の壁が、いつか少しでも低くなることを待っている」

 

 兄上は、決して軽々しい同情の言葉を口にしなかった。その姿勢は、飾り気がなく、ひたすらに真摯で、俺の孤独を真正面から受け止めていることが伝わってきた。兄上の心の声は、外面の言葉と同じ、「(カイルの苦痛を和らげたい)」という純粋な願いだった。俺は、その無骨な優しさに、初めて安らぎを感じた。

 それから毎日兄上は、時間を見つけては通ってきて、心からの心配と温かい言葉をくれた。実の父親であるはずの国王にも母親にも見捨てられた俺に、異母兄弟である兄上はどうして、こんなに優しいのか。俺もあんな母親でなければ兄上のような真っ直ぐな心でいられたのか。どうしてこんな温かい心でいられるのか。兄上のことを知りたくなり、ある日俺は願い出たのだった。


「兄上。もしよろしければ、どうか、貴方様の傍で仕えさせてください」


 兄上は俺の願いを笑って受け入れてくれた。俺は能力の秘密を隠したまま、兄上の傍で勉学に励み公務を学び、書類整理や情報収集の補佐にあたった。

 王宮の雑音は相変わらず絶え間なかった。「(傷物の第三王子が、第一王子に取り入った)」

「(所詮は王妃の不貞の子)」――そうした心の声に、俺の心は何度も深く傷つけられた。だが、周りの言葉に傷つくたび、兄上は温かい言葉と、心の声の一致した真摯な思いで俺を癒やしてくれた。


「カイルの持つ冷静な眼差しと、深い洞察力はこの国の未来に必要なものだ。私は、カイルの才能を信じている」


 兄上の心の声は、外面の言葉と違わず「(カイルの深い洞察力は、きっとこの国の力になる。自信を持ってほしい。周囲の人間にもカイルの良さが伝わってほしい)」という優しい願いだった。兄上の心のなかには民や臣下達、そして俺も笑顔でいる光景が心の映像で映し出されていた。その人の思いが強いと心の声だけでなく映像で見える場合もあるのだ。いつしかそんな兄上の役に立ちたいと、俺は心から願うようになっていた。そうして月日は流れ俺は18歳になった。

 夫婦円満の家庭を築いた兄上から、結婚をせっつかれるようになった。だが、年頃の令嬢たちの心は、俺にとって相変わらず絶望的な雑音で満ちていた。

「(片側だけ見れば見目麗しいのに、火傷の跡が醜くて見るに堪えないわ)」

「(ひきつれた火傷の跡が、気持ち悪いわ)」

 俺は彼女たちへの嫌悪感と、拭い難い容姿へのコンプレックスを深め、社交の場から遠ざかった。結婚とは、俺にとって心の雑音を永続的に聞くための、地獄の契約でしかなかった。

 ある日、兄上に国内に気に入る令嬢がいないのならば、外交デビューがてらビブリ国で今度開催される三国交流会で婚約者探しをしてはどうかと言われた。

 俺が住むレギオス国は圧倒的な軍事大国だが、隣接する小国ヴァロア国とビブリ国の関係がきな臭くなっていた。俺は容姿を理由に外交の表舞台を避けてきたが、この三国交流会は、婚約者探しという名目で両国の動向を探る絶好の機会だ。外交というよりも、情報収集が真の目的だったが、俺は交流会が行われるビブリ国の王城へと向かうことにしたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ