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 僕とシャルロッテさんの決闘の噂は、あっという間にアカデミア中に広まったらしい。

 決闘の舞台となった公式決闘場には、大勢の生徒たちが野次馬として集まっていた。


「本当にやるのか?」「フランソワ様が勝つに決まってる」「いや、あのアンデシウスだぞ、何が起こるか分からん」

 

 そんな期待と興奮で、決闘場は騒がしい雰囲気に包まれている。

 審判役として、なぜかグラン教官が渋々ながらも立ち会ってくれていた。


「いいか、二人とも。これはあくまで模擬戦闘だ。相手を再起不能にするような攻撃は禁ずる。分かったな?」

「当然ですわ。わたくしの魔法は、威力も精度も完璧にコントロールできますもの」

 

 シャルロッテさんは、自信に満ち溢れた表情で、最新モデルの高級そうな魔法の杖を構えている。

 僕はいつもの地味な杖を手に、少しだけ高鳴る心臓を落ち着かせようと深呼吸した。

 観客席の最前列で、ニコが僕の名前を書いた手作りのうちわを振りながら、大声で応援してくれているのが見えた。


「ロイ、頑張ってー!」


 僕はその声に、小さく頷いて応えた。

 グラン教官が、僕とシャルロッテさんを交互に見つめ、そして大きく腕を振り下ろす。


「――始め!」


 その合図と同時だった。

 シャルロッテさんが、一気に勝負を決めるべく速攻を仕掛けてくる。


「ご覧なさい! これが最先端の現代魔法ですのよ! 《ライトニング・アロー》!」


 詠唱も短く、彼女の杖先から無数の雷の矢が、鋭い音を立てて放たれる。

 その速度と弾数は、並の生徒では反応すらできないレベルだ。

 僕は、派手な防御魔法を使うでもなく、ひたすら走り、転がり、紙一重でその攻撃を避け続ける。

 その動きは決してスマートとは言えないけど、なぜか全ての攻撃が、僕の服を掠めるだけで直撃はしない。


「なんだ、逃げてるだけか?」「やっぱりフランソワ様が圧倒的だな」

 

 野次馬からは、そんな声が上がっていた。

 シャルロッテさんは、攻撃を避け続ける僕に、徐々に焦りを感じ始めたようだった。


「どうしたのかしら!? 逃げてばかりでは勝てませんわよ! それとも、わたくしの魔法が恐ろしくて、足がすくんでしまったのかしら? おーほっほっほ!」


 彼女はさらに強力な雷魔法――《サンダー・ランス》や《チェイン・ライトニング》――を次々と繰り出す。

 攻撃が派手になればなるほど、彼女の意識は「僕を攻撃すること」だけに集中していく。

 僕が、逃げ回るその軌跡で、そして杖の先で地面に触れる一瞬の動きで、何かを描いていることには、まだ誰も気づいていない。


 

***

 


 そして、ついにその時が来た。

 僕は、決闘場の広範囲にわたって、薄く目に見えないほどの魔力インクで、巨大な魔法陣を描き終えた。

 僕は、これまでとは違い、わざとシャルロッテさんの攻撃範囲に一瞬だけ足を踏み入れ、大きな隙を見せる。


「そこですわ!」


 好機と見たシャルロッテさんが、最大威力の雷魔法を放つべく、特定の場所に一気に踏み込んできた。

 その場所こそ、僕が描いた魔法陣の、ちょうど中心。


(――かかった)


 僕は杖で地面をトン、と軽く突いた。

 その瞬間、シャルロッテさんの足元を中心に、巨大な魔法陣が眩い光を放って起動する。


「なっ……これは!?」


 地面から光の柱が何本も立ち上り、それらが複雑に絡み合って、シャルロッテさんを鳥かごのようなドーム状の「魔法の檻」に閉じ込めてしまった。

 シャルロッテさんは檻の中から必死に雷魔法を放つが、全ての攻撃は光の格子に静かに吸収され、ビクともしない。

 野次馬たちも、グラン教官も、この突然の逆転劇に言葉を失っている。


「いつの間に、あんなものを……!?」


 

***

 


 檻に閉じ込められ、身動きが取れなくなったシャルロッテさん。

 僕は、そんな彼女に向かって、今度はゆっくりと、目に見える形で、別の小さな攻撃用の魔法陣を描き始めた。


「あなた……! いったい、いつの間にこんなものを……!」

「逃げながら、ずっと描いてました。これが一番、お互いに怪我をせず、確実に勝てる方法だと思ったので」

 

 僕がそう言うと、シャルロッテさんは、自分が完全に僕の掌の上で踊らされていたことを悟り、悔しさに顔を真っ赤にした。

 僕が、相手を気絶させる程度の威力の攻撃魔法を発動させようとした、その瞬間だった。


「そこまで! 勝者、ロイ・アンデシウス!」


 グラン教官の、少しだけ感心したような声が、決闘場に響き渡った。


 決着後。

 僕が魔法の檻を解くと、シャルロッテさんは悔しそうに唇を噛みしめながら、僕を睨みつけてきた。


「……ひ、ひきょうですわ! 逃げ回って罠を仕掛けるなんて、正々堂々としていませんわ!」

「卑怯、ですか? でも、これも戦術の一つでは……? それに、シャルロッテさんの魔法、すごく速くて強かったので、正面から戦ったら僕に勝ち目はありませんでしたし」

 

 僕が悪びれもなく、彼女の強さを素直に認めると、シャルロッテさんは一瞬、毒気を抜かれたような顔になった。

 そこへ、ニコが駆け寄ってくる。


「やったねロイ! それで、シャルロッテさん! 約束、覚えてますよね?」


 ニコがニヤリと笑いながら言うと、シャルロッテさんは「うっ……!」と顔を真っ赤にした。


「わ、わたくしは、貴族として約束は守りますわ!」

 

 彼女はツンと顔をそむけて、腕を組む。


「ただし、勘違いしないでくださいまし! あなたの実力を認めたわけではありませんのよ! あなたのそのふざけた戦い方を、もっと近くで監視して、弱点を見つけて差し上げるだけですわ!」


 その言葉が、彼女なりの降参宣言らしい。

 こうして、少し……いや、かなり癖のある三人目の仲間が、僕たちのチームに加わった。

 

 大会のエントリー用紙を手に、僕と、嬉しそうなニコと、不満そうだけどどこかまんざらでもなさそうなシャルロッテさんが並ぶ。

 僕たちのチームの前途は、どうなることやら。

 

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