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 学長室からの帰り道。

 僕は、これから始まるであろう新たな試練に、少しだけ頭を悩ませていた。

 隣を歩くニコは、僕とは対照的にウキウキしている。


「すごいよロイ! 学内ランキング選抜大会だよ! アカデミアで一番大きなイベントなんだから!」

「う、うん……。でも、人前で戦うなんて、僕にできるかな……」


 そんな話をしながら、僕たちは次の日の朝を迎えた。

 僕は気持ちを切り替えて、一つの決意を固めていた。


「それじゃあニコ、僕は学長に言われた通り、大会のエントリーをしてくるよ」


 寮からアカデミアへ向かう通学路。

 僕がそう言うと、ニコはきょとんとした顔で僕を見つめた。


「うん! ……って、え? ロイ、まさか一人で行くつもり?」

「え? うん。大会に出るのは僕だから……」


 僕が当たり前のように答えると、ニコは呆れたように、そして少し面白そうに腰に手を当てた。


「もしかして、ロイ……知らないの?」

「え?」

「学内ランキング選抜大会は、昔から三人一組のチームで戦う団体戦だよ?」

「え…………ええええええええええ!? そ、そうなの!?」


 僕は人生で最大級かもしれない驚きの声を上げた。

 団体戦……。

 それは、友達が一人もいない僕にとって、あまりにも高すぎるハードルだった。


 

***

 


 すっかり意気消沈してしまった僕は、教室の自席で机に突っ伏していた。


「どうしよう……チームなんて、組んでくれる人、いるわけないよ……」

「何言ってるの!」


 僕の弱音を、ニコが元気な声で一蹴する。


「私がいるでしょ、私が! チームメンバーの一人目は、この私、ニコです!」


 彼女は、ビシッと自分の胸を指さしてウインクまでして見せた。


「え、でもニコは……」

「私だって、これでも中級クラスの魔法は使えるんだからね! それに、ロイのサポートは誰にも負けない自信あるし!」


 その言葉は、すごく、すごく嬉しかった。

 でも、問題は解決していない。


「ありがとう、ニコ。……でも、あと一人、どうしよう……」


 僕が頭を抱えていると、ニコは「うーん……」と考え込んだ後、楽観的に笑った。


「まあ、エントリーの締め切りまではまだ少し時間があるし、ゆっくり探そうよ! きっと、ロイとチームを組みたいって人が現れるって!」


 そんな人が、本当にいるんだろうか……。

 

 その日の授業は、地下倉庫の事件以来、久しぶりにまともに教室で受けるものだった。

 担当の教師は、僕の顔を見るなり、チクリと嫌味を言ってくる。


「おや、アンデシウス君。最近は学長のお気に入りだそうだが、基礎的な授業も疎かにしないでもらいたいものですな。例えば、この防御魔法の術式変換効率だが……」


 教師が教科書通りの説明をする。

 でも、僕は悪気なく、つい口を挟んでしまった。


「先生、その術式だと魔力障壁の表面張力が均一になりません。古代魔法の『多層結界理論』を応用すれば、同じ魔力量でも三倍以上の防御効果が期待できますが……」


 僕がスラスラと高度な理論を語り始めると、教師は顔を赤くして言葉に詰まってしまった。


「……ま、まあ、君は特別だ! とにかく、授業は静かに聞きたまえ!」


 クラスメイトたちは(またか……)という顔と、(やっぱりすげえ……)という尊敬の眼差しが入り混じった、複雑な表情で僕を見ていた。


 

***

 


 授業が終わった後だった。

 僕がニコと「あと一人のメンバー、どうしよう……」なんて話をしていた時だった。

 一人の女子生徒が、取り巻きを数人引き連れて、ツカツカと僕の前にやってきた。


 豪華な縦ロールの金髪に、気の強そうな整った顔立ち。

 いかにも高位貴族のお嬢様といったその出で立ちは、教室の中でもひときわ目立っていた。


「ごきげんよう。あなたが、最近何かと話題のロイ・アンデシウスさんですわね?」

 

 彼女は、持っていた扇子を優雅に広げ、僕を値踏みするように見つめてくる。


「え……と、はい。そうですけど……どちら様で……?」

「わたくしはシャルロッテ・マリアンヌ・フランソワ。この学年で最も優れた現代魔法の使い手ですわ」


 シャルロッテと名乗った彼女は、僕に隠そうともしない敵意を向けてきた。


「最近、あなたの奇妙な魔法の噂ばかり耳に入ってきて、大変不愉快ですの。落ちこぼれだったはずのあなたが、なぜ皆に注目されているのかしら?」


 

***

 


 周囲の生徒たちが、面白いことになったと野次馬根性丸出しで僕たちを遠巻きに囲んでいる。

 シャルロッテは、そんな視線を浴びて、さらに挑戦的な笑みを浮かべた。


「口で言っていても始まりませんわね。どちらがこのアカデミアにふさわしい実力者か、はっきりさせましょう。……わたくしと決闘なさい!」


 彼女は僕に、ビシッと扇子を突きつける。


「そして、条件ですわ。もしわたくしが勝ったら、金輪際その気味の悪い古代魔法は使いませんと、ここで皆さんの前で誓っていただきますわ!」

「えー……。そんな勝手な……」


 僕は突然の無茶な条件に、素直に困惑した。

 古代魔法が使えなくなるのは、絶対に嫌だ。

 でも、どうすれば……。

 僕は少し考え込んだ後、何かを思いついて顔を上げた。


「分かりました。その条件、飲みます。でも、それならもし僕が勝ったら……シャルロッテさん、僕たちのチームに入って、一緒に大会に出てくれませんか?」


 シン……。

 僕の言葉に、シャルロッテも、取り巻きも、野次馬たちも、そして隣にいたニコさえも、一瞬、何を言われたか分からずに固まった。


「はぁぁ!? あなた、今、何と……? わたくしを誰だと思っているのですの!? ふざけるのも大概になさい!」


 我に返ったシャルロッテが、顔を真っ赤にして激昂する。

 でも、僕はきょとんとした顔で首を傾げた。


「え、ふざけてなんかいませんよ? だって、ご自分で『この学年で最も優れた現代魔法の使い手』だって言いましたよね? 僕たち、あと一人メンバーが足りなくて困ってたんです。強い人が仲間になってくれたら、すごく頼もしいじゃないですか」


 悪意なく、ただ事実として自分の実力を評価され、勧誘までされたシャルロッテは、怒りを通り越して唖然としている。

 そして、その提案は、彼女のプライドを最高に刺激したようだった。

 ここで断れば、僕との勝負から逃げたと思われるかもしれない。

 彼女は、わなわなと震えながら、叫んだ。


「……いいでしょう! そのふざけた申し出、受けて立ちますわ!」


 そして、扇子をバッと広げ、高らかに笑う。


「あなたがわたくしに土下座をして、その汚らわしい古代魔法の封印を誓う、輝かしい未来を見せてさしあげますわ! おーほっほっほ!」


 周囲の野次馬は「決闘だ!」「アンデシウスとフランソワ様が!」と最高潮に盛り上がっている。

 こうして、僕たちのチームの三人目のメンバーと、僕の古代魔法の未来を賭けた決闘が、唐突に決定してしまうのだった。

 

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