表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[長編版] え? まだ現代魔法使ってるの? 古代魔法のほうが最強なんだが? ~魔導アカデミアの落ちこぼれは、禁断の知識で成り上がる~  作者: みんと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

21


 準決勝の試合開始直前。

 待機場所にいる僕たち三人の間には、これまでにない緊張感が漂っていた。


「相手は、おそらくわたくしたちが知らない“何か”を隠していますわ。油断は禁物です」

「うん。でも、作戦はある」

「ええ。あなたのその突拍子もない作戦に、乗ってさしあげますわ。……決勝へ、行きますわよ」


 シャルロッテの力強い言葉に、僕とニコも頷く。

 僕たちは、それぞれの覚悟を胸に、決戦の舞台へと足を踏み入れた。


「準決勝第一試合、チーム『エンシェント・レイ』対チーム『クラフト・ガーデン』! ……始め!」


 グラン教官のゴングが鳴り響く。

 その瞬間、相手チームが動いた。

 リリアさんのチームメイト二人が、一斉に前に出る。

 彼らの構える杖は、リリアが作ったものと同じく、美しい装飾が施されたカスタム品だ。

 そして、信じられない光景が僕たちの目の前で繰り広げられた。


「《ライト・ジャベリン》!」「《ウィンド・カッター》!」


 ほとんど無詠唱に近いほどの短い詠唱。

 そこから放たれた光の槍と風の刃が、通常の現代魔法ではありえない速度で、弾幕のように僕たちに襲いかかってきた。


「速い!」「なんですの、この発動速度は!? なんて魔力伝導率ですの!」


 ニコの防御壁とシャルロッテの牽制の雷撃が、かろうじて弾幕を防ぐ。

 だけど、相手の手は止まらない。

 後方で冷静に戦況を分析するリリアさんが、さらに追加の魔道具を展開し、僕たちの逃げ場を塞いでいく。

 僕たちは、序盤から完全に防戦一方に追い込まれていた。


 

***

 


 圧倒的な劣勢。

 シャルロッテとニコが、敵の猛攻に歯を食いしばって耐えている。

 僕は、その中で静かに、リリアが作ってくれた新しい杖を構えた。

 そして、持ち手にはめ込まれた六角形の水晶を、カチャリ、と親指で回転させる。


 敵の光の槍が、僕の顔面に迫る。

 僕は水晶の魔法陣を《プリミティブ・シールド》に合わせ、杖先から瞬時に小さな防御壁を展開して攻撃を受け流す。

 続けざまに放たれる風の刃の弾幕。

 僕は水晶を回し、《ステップ・アーツ》でその隙間を縫うように回避。

 さらに《エア・ジャンプ》で高く跳躍し、空中で体勢を立て直しながら牽制の《ファイア・ショット》を放ち、敵の陣形をわずかに乱した。

 僕の臨機応変な動きに、リリアさんの目が初めて見開かれる。

 圧倒的な速度差を、僕は判断速度と対応速度で、必死に埋めていた。

 でも、これだけじゃ勝てない。

 戦況を打開するには、決定的な一撃が必要だ。


「ニコ、僕の前に最大の壁を! 3秒だけ持ちこたえて!」

「うん!」

「シャルロッテ、僕の魔法陣に集中して!」

「ええ!」


 ニコが最後の力を振り絞って巨大な土の壁を作り出し、一瞬だけ敵の猛攻を防ぐ。

 その隙に、僕はシャルロッテの足元に「魔力循環補助魔法陣」を即座に展開した。

 彼女は、僕のサポートを信じ、練習してきた新技の詠唱を始める。


「見せてさしあげますわ……わたくしたち三人の、本当の雷を! 《ライトニング・レールガン》!」


 極限まで圧縮された雷の魔力が、一本の閃光となって放たれる。

 それは、相手の一人が展開した防御魔法を紙のように貫き、彼を戦闘不能に追い込んだ。

 戦況に、ようやく風穴が開いた。


 

***

 


 敵が一人減ったことで、僕に時間が生まれる。

 僕はニコとシャルロッテに告げた。


「ここからは、僕の番です」


 僕は杖の《エア・ジャンプ》を連続で使い、一気に空高く跳躍した。

 そして、空中に留まりながら、魔法インクで巨大な魔法陣を描き始める。


「空中に魔法陣を……!? 馬鹿な、理論上だけの空想のはず……!」


 リリアさんが、初めて驚愕の声を上げた。

 彼女はすぐさま、残ったメンバーと共に、全力で空中の僕を狙う。


「ロイには指一本触れさせませんわ!」

「行かせないんだから!」


 地上で体勢を立て直したシャルロッテとニコが、必死にその攻撃を食い止めてくれる。

 二人が限界を迎えようとした、まさにその時だった。

 僕の、空中の魔法陣が完成する。

 それは、広範囲の魔道具を機能不全にする、古代の対魔術師用魔法。


「《アンチ・マジック・サーキット》」


 僕が静かにそう告げると、空中の魔法陣から、目に見えない波紋が広がった。

 その瞬間、リリアさんが展開していた全ての魔道具と、残ったメンバーの改造杖が、バチバチと火花を散らして機能を停止した。


「……見事です、ロイさん」


 為す術のなくなったリリアさんが、天を仰ぎ、静かに降参を宣言した。


「勝者、チーム『エンシェント・レイ』!」


 グラン教官の声が響く。

 試合後、僕たちは健闘を称え合い、リリアさんと固い握手を交わした。


「まさか、うちの杖の特性まで見抜いた上で、あの対応を……。あなたのその“目”と“頭脳”、恐れ入りました」


 彼女の言葉に、僕はただ、はにかんだ。

 その時、僕は観客席から向けられる、一つの鋭い視線に気づいた。

 生徒会長、アレクシス・フォン・シルフォード。

 彼は、僕の「空中魔法陣」を見て、初めてその穏やかな表情を崩し、まるで獲物を見るかのような目で、僕を見つめていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ