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 試合開始直前の待機場所は、決闘場から響いてくる歓声とは裏腹に、静かな緊張感に包まれていた。

 僕たちの二回戦。

 相手は、召喚魔法の使い手チーム『幻影旅団ファントム』。


「なんだか、ドキドキしてきた……。でも、やるしかないよね!」

 

 ニコが自分の頬をパンと叩いて、無理やり気合を入れている。


「ふん、当たり前ですわ。わたくしの全力を、アカデミア中の生徒に見せつけてさしあげる絶好の機会ですもの」

 

 自信満々にそう言うシャルロッテさんの指先が、ほんの少しだけ震えているのに、僕は気づいていた。

 僕は、そんな二人に静かに告げる。


「ニコ、シャルロッテさん。作戦の要は、ニコが稼いでくれる時間にかかっています。僕が魔法陣を完成させるまで、どうか……持ちこたえてください」


 僕の真剣な言葉に、二人は力強く頷いた。

 僕たちの間には、昨日までとは比べ物にならないくらい、強い信頼感が生まれていた。


「第二試合、チーム『エンシェント・レイ』対チーム『幻影旅団』! ……始め!」


 グラン教官のゴングが鳴り響く。

 対戦相手の、物静かな雰囲気のリーダーが、試合開始と同時に無詠唱で次々と召喚魔法陣を展開した。

 フィールド上に、十数体ものゴブリン・アーチャーや、影のような魔狼シャドウ・ウルフが出現する。

 数の暴力で、一気に僕たちを押しつぶすつもりだ。

 観客席から「うわ、もうこんなに!」「エンシェント・レイ、大丈夫か?」と声が上がる。


 その時、ニコが作戦通り、僕たちの前に躍り出た。


「行かせないんだから! 《グランド・ウォール》!」


 ニコの足元から、分厚い土の壁が何枚も、何枚も隆起する。

 それは、召喚獣たちの進路を阻む、巨大な砦となった。

 その背後で、僕はすぐさま床に魔法陣を描き始める。

 シャルロッテさんは杖を構え、壁を越えてくる敵に備えていた。


 召喚獣たちは、土の壁に一斉に襲い掛かる。

 爪で引き裂き、体当たりで砕き、ゴブリンたちの放つ無数の矢が、雨のように壁を削り取っていく。

 ニコは必死に魔力を注ぎ込んで壁を修復し続ける。

 彼女の額には大粒の汗が浮かび、呼吸がだんだんと荒くなっていた。


「小手先の防御で、いつまで持つかな?」


 幻影旅団のリーダーが、さらに強力な召喚獣――猪型の突進獣・ボアライダー――を召喚し、壁の一点に集中攻撃を仕掛けさせる。

 ドゴォン! と大きな音を立てて、壁の一部が大きく崩れた。


「くっ……! まだ……まだよ!」


 ニコは歯を食いしばり、必死に耐える。

 その姿は、僕の胸を強く打った。


 

***


 

 崩れた壁の隙間から、数体の魔狼がなだれ込んでくる。


「ニコ! ここはわたくしが!」


 シャルロッテさんが前に出て、鋭い雷撃で魔狼たちを撃退する。

 しかし、彼女が前線の敵を相手にしている間に、空から新たな脅威が迫っていた。

 翼を持つ召喚獣、ガーゴイルだ。


「シャルロッテさん、上!」

「なんですって!?」


 ニコとシャルロッテさんが、限界に近づいた、まさにその瞬間だった。


「――できました!」


 僕の声が、決闘場に響く。

 僕が描き上げた巨大で複雑な『思考同調・魔力精密制御補助魔法陣』が、淡い青白い光を放って起動した。


「シャルロッテさん、魔法陣の中へ! ニコは僕のそばに!」


 僕の指示に、シャルロッテさんは即座に魔法陣の中央へ移動する。

 ニコも、崩れかけた壁を放棄して僕の元へ下がった。

 魔法陣の中に立ったシャルロッテさんは、驚きに目を見開く。

 自分の身体に魔力が満ち溢れ、思考がクリアになり、世界の全てがスローモーションに見えるかのような、驚異的な集中力を得ていた。


「これが……ロイのサポート……!」



***


 

 シャルロッテさんは、今までとは比べ物にならないほどの自信を持って、杖を天に掲げた。

 僕が補助演算を開始し、敵の位置、数、そして最適な攻撃ルートを、彼女の意識に直接送り込む。


「わたくしの雷光に、ひれ伏しなさい! 《チェイン・ライトニング・テンペスト》!」


 最初に放たれた雷が、一体のガーゴイルに命中した。

 しかし、雷は消えない。

 青白い電光となって近くの魔狼に飛び火し、さらにその魔狼からゴブリンへ、ゴブリンからボアライダーへと……。

 まるで雷の嵐のように、電撃が次々と敵から敵へと連鎖していく。

 召喚獣たちは、悲鳴を上げる間もなく次々と感電し、光の粒子となって消滅していった。


 ほんの数十秒で、フィールド上の召喚獣は一掃された。

 為す術なく立ち尽くす『幻影旅団』のメンバーに、最後の雷撃が届き、彼らを戦闘不能にする。


「しょ、勝者、チーム『エンシェント・レイ』!」


 グラン教官が、驚きを隠せない様子で僕たちの勝利を宣言する。

 観客席は、その圧巻の逆転劇に一瞬静まり返り、その後、割れんばかりの大歓声に包まれた。


 ニコは魔力を使い果たして、その場にへたり込んでいる。

 シャルロッテさんも大技を使って消耗しているが、その表情は達成感に満ちていた。

 僕は、そんな二人に駆け寄る。


「やったね、二人とも! 作戦大成功だ!」


 ニコが、満面の笑みで言う。

 シャルロッテさんは、僕を見て、少しだけ頬を赤らめながら、ふんとそっぽを向いた。


「ええ……あなたの“宿題”、完璧にこなしてさしあげましたわ。……悪くない作戦でしたわよ、司令塔さん」

「はい、最高の魔法でした」


 僕たち三人は、顔を見合わせて笑い合った。

 その姿は、もうただの寄せ集めではない。

 本当のチームのものだった。

 二回戦突破の興奮と、深まった絆を胸に、僕たちは次なる戦いへと進む。



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