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[長編版] え? まだ現代魔法使ってるの? 古代魔法のほうが最強なんだが? ~魔導アカデミアの落ちこぼれは、禁断の知識で成り上がる~  作者: みんと


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 僕たちの初戦勝利は、想像以上の波紋をアカデミア内に広げていた。

 僕が廊下を歩くだけで、生徒たちがモーセの十戒のようにサッと道を開ける。

 そして、遠巻きにヒソヒソと噂を交わすのだ。


「おい、あれが『静かなる支配者』、ロイ・アンデシウスだ……」

「彼の“目”からは、どんな幻惑魔法も逃れられないらしいぞ」

「古代魔法って、実はとんでもなく強いんじゃないか……?」


 そんな、少しばかり尾ひれがついた大げさな二つ名で呼ばれている。

 でも、僕の頭の中は、ニコから渡された次の対戦相手『幻影旅団』の対策を考えることでいっぱいだった。

 その僕の没頭ぶりが、周りの生徒たちからは「何を考えているか分からない大物」のように見え、さらに噂を加速させていることなど、このときは知る由もなかった。


 

***

 


 放課後、僕はグラン教官に呼び出された。

 教官室に入ると、彼の表情は以前のような困惑ではなく、一人の指導者として僕の才能と真剣に向き合うものに変わっていた。


「見事な試合だった。特にあの幻術師を見破った手腕、常人のできることではない」

 

 彼は初戦の勝利を素直に称えてくれた。

 そして、ふと声のトーンを落とし、真剣な目で僕に忠告する。


「だが、アンデシウス。お前のその“目”……グレイワイズ学長は『星見の才』と言っていたか。その力のことは、軽々しく他言するな。過ぎた力は、嫉妬や、ろくでもない連中を引き寄せる。これは、お前の身を案じての、俺からの忠告だ」


 その言葉には、何か過去の経験を匂わせるような、ずっしりとした重みがあった。

 僕はただ、黙って頷くことしかできなかった。


 グラン教官との話の後、僕は次の対戦相手の対策を練るために、ニコとシャルロッテさんと一緒に図書館へ向かっていた。

 柔らかな日差しが降り注ぐ、アカデミアの中庭を歩いていた時だった。

 僕たちの前を、一人の男子生徒が、まるで風のように静かに横切った。


 陽の光を反射するような、美しい銀髪。

 一切の無駄がない、優雅な立ち振る舞い。

 誰にでも分け隔てなく向けられる、完璧な笑み。

 アカデミアの制服を、非の打ち所なく着こなしている。

 彼こそが、現生徒会長にして、大会の優勝候補筆頭チーム『イージス・オーダー』のリーダー、アレクシス・フォン・シルフォードだった。

 彼が僕たちの前で立ち止まり、穏やかに微笑む。

 その瞬間、周囲の生徒たちのざわめきがピタリと止み、誰もが畏敬の念を持って彼を遠巻きに見守った。


「!」


 隣を歩いていたシャルロッテさんが、一瞬、緊張で背筋を伸ばすのが分かった。

 同じ高位貴族として、彼女は、彼が放つ存在感の大きさを誰よりも理解しているのだろう。


 

***

 


「やあ、君がロイ・アンデシウス君だね」


 アレクシス先輩は、敵意など微塵も感じさせない友好的な態度で、僕に話しかけてきた。


「初戦、見事だったと聞いているよ。君の戦術は非常に興味深い。古代魔法、そしてその卓越した索敵能力……素晴らしい才能だ」


 その言葉で、僕は理解した。

 この人は、僕の能力の正体を、ある程度まで見抜いている。

 彼は、完璧な笑みを崩さないまま続けた。


「ぜひ、決勝で相まみえたいものだ。君たちの“古代の光”が、我々の“無敵の盾”を貫けるのか……今から楽しみだよ」


 それは、どこまでも友好的な言葉。

 だけど、その裏には絶対的な王者の余裕と、挑戦者を試すような、肌がピリつくほどのプレッシャーが込められていた。

 僕は、ただ彼の言葉を、その澄んだ瞳をじっと見つめながら、静かに聞いていた。


「では、失礼するよ」


 アレクシス先輩が、優雅に一礼して去っていく。

 彼が遠ざかった後も、その場にはまだ、圧倒的な存在感の余韻が残っていた。

 シャルロッテさんが、こわばった表情で呟く。


「……今の、分かりました? あの人の周りだけ、魔力が完全に“凪いで”いた……。あれは、自身の魔力を完璧に制御し、周囲の魔力さえも支配下に置いている証拠。……とてつもない魔力制御ですわ。今のわたくしたちでは、おそらく手も足も出ない……」


 いつも自信満々な彼女が、初めて見せる弱気な一面だった。

 ニコも、アレクシス先輩の放つオーラに圧倒されたのか、ゴクリと唾を飲んでいる。

 最強の敵の存在が、僕たちのチームに、現実的な緊張感をもたらしていた。


 

***

 


 シャルロッテさんとニコが、アレクシス先輩の圧倒的な力の前に少し気圧されている中、僕だけは、違った。

 僕も、自分の「魔力視」で、彼の力の正体を正確に見ていた。

 それは、まるで静かで、どこまでも深い海のようでありながら、その奥に凄まじい嵐を秘めているような、規格外の魔力。

 そして、その膨大な魔力が、髪の毛一本一本に至るまで、完璧にコントロールされている、美しいまでの様を。


(すごい……。これが、このアカデミアの頂点……。僕が今まで見てきた誰よりも、美しくて、完成されている……)


 絶望するのではない。

 恐怖するのでもない。

 僕の目には、最高の研究対象を見つけたかのような、知的な好奇心と、そして闘志の光が宿っていた。

 僕は、アレクシス先輩が去った方向を見つめながら、静かに、しかしはっきりと呟いた。


「……すごい人です。でも、だからこそ……どうやってあの完璧な魔力制御を崩すか、考えるのが楽しくなりますね」


 その僕の口元には、今まで誰も見たことのないような、挑戦者としての不敵な笑みが、確かに浮かんでいた。



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