13
僕たちのチーム『エンシェント・レイ』の鮮烈なデビューは、アカデミア中に大きな衝撃を与えたらしい。
翌日、僕が教室に入ると、そこには昨日までとは全く違う空気が流れていた。
生徒たちの視線には、あからさまな尊敬や、畏敬の念が混じっている。
教室の隅では、昨日僕たちに負けたバートンたちが、しょんぼりとした様子で遠くからこちらを見ていた。
目が合うと、気まずそうにサッと逸らされる。
「昨日はすごかったねー! あの後、色んな子からロイのサインねだられちゃった! もちろん断っておいたけどね」
隣の席で、ニコが自分のことのように嬉しそうに話してくれる。
シャルロッテさんは、自分の席で優雅に紅茶を飲みながらも、「当然の結果ですわ。わたくしがいたのですから」とツンとしている。
でも、その口元が昨日からずっと、ほんの少しだけ緩んでいるのを僕は知っていた。
その日の授業が終わった後、ニコがパンッと手を叩いて言った。
「ねえねえ、今日の放課後、初戦突破のお祝いしない? 祝勝会だよ、祝勝会!」
「……まあ、次の試合に向けての作戦会議も兼ねるというのなら、特別に付き合ってさしあげなくもありませんわ」
乗り気なのを隠そうともしないシャルロッテさんの言葉に、僕たちは三人でアカデミアのカフェテリアに向かうことになった。
***
アカデミアのカフェテリアは、いつも生徒たちで賑わっている。
僕たちは、少し奮発してケーキセットを注文した。
不思議なことに、僕たちの座るテーブルの周りだけ、他の生徒たちが少し距離を置いていて、まるで神聖な領域のようになっている。
「初戦突破おめでとー! かんぱーい!」
ニコがジュースのグラスを高く掲げる。
僕とシャルロッテさんも、それに合わせてグラスを軽く合わせた。
和やかな雰囲気の中、シャルロッテさんが一口だけケーキを食べると、持っていたフォークをカチャリと置き、真剣な表情で僕に向き直った。
「単刀直入にお聞きしますわ、ロイ・アンデシウス。昨日の幻惑魔法……あなた、一体どうやって見破ったのですか? あの索敵能力は、ただの勘や偶然では決して説明がつきませんわ」
「そうだよ! 私も気になってた! まるで全部見えてるみたいだったもん!」
ニコも身を乗り出して、僕の答えを待っている。
二人の真剣な視線。
彼女たちはもう、ただのクラスメイトじゃない。
共に戦う、僕の大切な仲間だ。
僕は、正直に話すことに決めた。
「……実は、あの地下の魔道具に触れてから、少しだけ変わったみたいなんです。魔力の流れが……色や形を持って、直接“見える”ようになりました」
僕は、グレイワイズ学長から聞いた『星見の才』という言葉も、小さな声で二人に伝える。
「せいけんのさい……? なんだかすごい名前! やっぱりロイはすごかったんだ!」
ニコは、目をキラキラと輝かせている。
一方、シャルロッテさんは「……ありえませんわ。そんな御伽噺のような能力……」と眉をひそめ、信じられないという様子を見せた。
だけど、昨日の試合での僕の的確すぎる指示を思い出したのだろう。
彼女は小さくため息をつくと、観念したように言った。
「……なるほど。それでわたくしの魔力の癖まで見抜いて、あの小生意気なアドバイスをしてきた、というわけですわね」
彼女は僕をじっと見つめる。
「……その“目”、次の試合でも頼りにさせていただきますわ。わたくしの力を最大限に引き出すのが、あなたの司令塔としての役目ですもの」
そのツンとした言い方の中には、明確な信頼の色が宿っていた。
***
僕たちがそんな話をしていると、カフェテリアの壁に設置された魔法掲示板が淡い光を放ち、トーナメントの二回戦の組み合わせが更新された。
周囲の生徒たちが「おおっ!」「次はどこが当たるんだ?」と騒ぎ出す。
「あ、見て! 私たち『エンシェント・レイ』の次の相手、決まったみたい!」
ニコが指さす先には、僕たちの次の対戦相手の名前が表示されていた。
相手は、召喚魔法を専門とする2年生チーム『幻影旅団』。
大会の常連チームらしい。
「召喚術師……。一度に多数の敵を相手にするのは、面倒ですわね」
シャルロッテさんが、眉をひそめる。
彼らは、一体一体はそれほど強くない複数の召喚獣を同時に操り、数で押しつぶす戦術を得意とするチームだそうだ。
祝勝会の雰囲気は、一気に作戦会議モードへと切り替わる。
シャルロッテさんは、僕に向かって挑戦的に微笑んだ。
それは、敵意ではなく、チームメイトへの期待を込めた笑みだった。
「わたくしの雷は範囲攻撃も得意ですが、数が多いと魔力消費が激しくなり、一体ずつ仕留めるのではキリがありませんわ。それに、召喚獣を盾にされては、術者本体に攻撃が届きにくい。これは厄介ですわよ」
彼女は、僕を試すように続ける。
「ロイ・アンデシウス。あなたのその古代魔法と、その妙な“目”で、何か効率的にこの状況を打開する策を考えてきなさい。それが、このチームの司令塔である、あなたの“宿題”ですわよ」
上から目線な物言い。
だけど、それは僕の能力を認めた上で投げかけられた、的確な課題だった。
***
僕は、シャルロッテさんから初めて明確な期待と課題を与えられ、戸惑うのではなく、その挑戦に静かな闘志を燃やしていた。
「……分かりました。考えてみます」
僕は、真剣な表情で力強く頷く。
僕の頭の中では、グレイワイズ学長から貰った、あの黒い革の古文書のページが、すでにパラパラとめくられていた。
(数で押してくる相手……。一体ずつ相手にするのは非効率だ。もっと広範囲に、そして持続的に影響を与える魔法……。そうだ、あの本に、確か……地形そのものを変化させて敵の進軍を妨害する魔法陣や、敵味方を識別して自動で迎撃するゴーレムを生成する術式の記述があったはずだ……)
僕の真剣な横顔を、隣でニコとシャルロッテさんが、期待と少しの心配を込めて見つめている。
僕たちのチーム『エンシェント・レイ』が、本当の意味で一つのチームとして動き出した。
その確かな手応えを、僕は感じていた。