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 僕たちのチーム『エンシェント・レイ』の鮮烈なデビューは、アカデミア中に大きな衝撃を与えたらしい。

 翌日、僕が教室に入ると、そこには昨日までとは全く違う空気が流れていた。

 生徒たちの視線には、あからさまな尊敬や、畏敬の念が混じっている。

 教室の隅では、昨日僕たちに負けたバートンたちが、しょんぼりとした様子で遠くからこちらを見ていた。

 目が合うと、気まずそうにサッと逸らされる。


「昨日はすごかったねー! あの後、色んな子からロイのサインねだられちゃった! もちろん断っておいたけどね」

 

 隣の席で、ニコが自分のことのように嬉しそうに話してくれる。

 シャルロッテさんは、自分の席で優雅に紅茶を飲みながらも、「当然の結果ですわ。わたくしがいたのですから」とツンとしている。

 でも、その口元が昨日からずっと、ほんの少しだけ緩んでいるのを僕は知っていた。


 その日の授業が終わった後、ニコがパンッと手を叩いて言った。


「ねえねえ、今日の放課後、初戦突破のお祝いしない? 祝勝会だよ、祝勝会!」

「……まあ、次の試合に向けての作戦会議も兼ねるというのなら、特別に付き合ってさしあげなくもありませんわ」


 乗り気なのを隠そうともしないシャルロッテさんの言葉に、僕たちは三人でアカデミアのカフェテリアに向かうことになった。


 

***


 

 アカデミアのカフェテリアは、いつも生徒たちで賑わっている。

 僕たちは、少し奮発してケーキセットを注文した。

 不思議なことに、僕たちの座るテーブルの周りだけ、他の生徒たちが少し距離を置いていて、まるで神聖な領域のようになっている。


「初戦突破おめでとー! かんぱーい!」


 ニコがジュースのグラスを高く掲げる。

 僕とシャルロッテさんも、それに合わせてグラスを軽く合わせた。

 和やかな雰囲気の中、シャルロッテさんが一口だけケーキを食べると、持っていたフォークをカチャリと置き、真剣な表情で僕に向き直った。


「単刀直入にお聞きしますわ、ロイ・アンデシウス。昨日の幻惑魔法……あなた、一体どうやって見破ったのですか? あの索敵能力は、ただの勘や偶然では決して説明がつきませんわ」

「そうだよ! 私も気になってた! まるで全部見えてるみたいだったもん!」


 ニコも身を乗り出して、僕の答えを待っている。

 二人の真剣な視線。

 彼女たちはもう、ただのクラスメイトじゃない。

 共に戦う、僕の大切な仲間だ。

 僕は、正直に話すことに決めた。


「……実は、あの地下の魔道具に触れてから、少しだけ変わったみたいなんです。魔力の流れが……色や形を持って、直接“見える”ようになりました」

 

 僕は、グレイワイズ学長から聞いた『星見の才』という言葉も、小さな声で二人に伝える。


「せいけんのさい……? なんだかすごい名前! やっぱりロイはすごかったんだ!」


 ニコは、目をキラキラと輝かせている。

 一方、シャルロッテさんは「……ありえませんわ。そんな御伽噺のような能力……」と眉をひそめ、信じられないという様子を見せた。

 だけど、昨日の試合での僕の的確すぎる指示を思い出したのだろう。

 彼女は小さくため息をつくと、観念したように言った。


「……なるほど。それでわたくしの魔力の癖まで見抜いて、あの小生意気なアドバイスをしてきた、というわけですわね」

 

 彼女は僕をじっと見つめる。


「……その“目”、次の試合でも頼りにさせていただきますわ。わたくしの力を最大限に引き出すのが、あなたの司令塔としての役目ですもの」

 

 そのツンとした言い方の中には、明確な信頼の色が宿っていた。


 

***

 


 僕たちがそんな話をしていると、カフェテリアの壁に設置された魔法掲示板が淡い光を放ち、トーナメントの二回戦の組み合わせが更新された。

 周囲の生徒たちが「おおっ!」「次はどこが当たるんだ?」と騒ぎ出す。


「あ、見て! 私たち『エンシェント・レイ』の次の相手、決まったみたい!」


 ニコが指さす先には、僕たちの次の対戦相手の名前が表示されていた。

 相手は、召喚魔法を専門とする2年生チーム『幻影旅団ファントム』。

 大会の常連チームらしい。


「召喚術師……。一度に多数の敵を相手にするのは、面倒ですわね」

 

 シャルロッテさんが、眉をひそめる。

 彼らは、一体一体はそれほど強くない複数の召喚獣ゴブリンやウルフなどを同時に操り、数で押しつぶす戦術を得意とするチームだそうだ。

 祝勝会の雰囲気は、一気に作戦会議モードへと切り替わる。

 シャルロッテさんは、僕に向かって挑戦的に微笑んだ。

 それは、敵意ではなく、チームメイトへの期待を込めた笑みだった。


「わたくしの雷は範囲攻撃も得意ですが、数が多いと魔力消費が激しくなり、一体ずつ仕留めるのではキリがありませんわ。それに、召喚獣を盾にされては、術者本体に攻撃が届きにくい。これは厄介ですわよ」

 

 彼女は、僕を試すように続ける。


「ロイ・アンデシウス。あなたのその古代魔法と、その妙な“目”で、何か効率的にこの状況を打開する策を考えてきなさい。それが、このチームの司令塔である、あなたの“宿題”ですわよ」


 上から目線な物言い。

 だけど、それは僕の能力を認めた上で投げかけられた、的確な課題だった。


 

***


 

 僕は、シャルロッテさんから初めて明確な期待と課題を与えられ、戸惑うのではなく、その挑戦に静かな闘志を燃やしていた。


「……分かりました。考えてみます」


 僕は、真剣な表情で力強く頷く。

 僕の頭の中では、グレイワイズ学長から貰った、あの黒い革の古文書のページが、すでにパラパラとめくられていた。


(数で押してくる相手……。一体ずつ相手にするのは非効率だ。もっと広範囲に、そして持続的に影響を与える魔法……。そうだ、あの本に、確か……地形そのものを変化させて敵の進軍を妨害する魔法陣や、敵味方を識別して自動で迎撃するゴーレムを生成する術式の記述があったはずだ……)


 僕の真剣な横顔を、隣でニコとシャルロッテさんが、期待と少しの心配を込めて見つめている。

 僕たちのチーム『エンシェント・レイ』が、本当の意味で一つのチームとして動き出した。

 その確かな手応えを、僕は感じていた。


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