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 シャルロッテさんとの決闘から数日後。

 僕たちは、三人でアカデミアの教務課窓口に、大会のエントリー用紙を提出しに来ていた。

 分厚い魔導書を読んでいた受付の職員さんが、僕たちの顔を見て少し驚いたように眉を上げる。

 僕が最近、アカデミアで一番の有名人(良くも悪くも)であることは、どうやら職員さんたちの間でも周知の事実らしい。

 そして、僕たちは早々に最初の問題にぶち当たっていた。

 チーム名だ。


「ですから、わたくしがリーダーなのですから、チーム名は『シャルロッテ&グロリアス・サンダーズ』以外ありえませんわ! 栄光の雷鳴、ですのよ? 素晴らしい響きではありませんか!」

「えー、やだー! そんな強そうな名前! もっと可愛いのがいいなー! 『マジカル・クローバー』とかどうかな?」

「いや、チーム名は目的と構成を明確にすべきだと思う。合理性を考えると、各々の役割を示唆するような……例えば『古代魔法陣による後方支援と現代魔法による前衛攻撃の連携戦術チーム』とか……」

「「長すぎる(ますわ)!!」」


 ニコとシャルロッテさんの声が、カウンター越しに困り顔で見ている職員さんの前で、綺麗にハモった。

 その後も議論は紛糾し、結局、僕の古代魔法(Ancient)とシャルロッテさんの雷光(Ray)を合わせて、『エンシェント・レイ』という、なんとも無難なところに落ち着いた。

 その足でラウンジに移動して開いた作戦会議でも、シャルロッテさんが「作戦など不要ですわ! わたくしの雷で、全ての相手を一瞬で塵にしてさしあげます!」と主張して、僕の「魔法陣を基軸に、敵を誘導して罠にかける」という戦術案と真っ向から衝突する。

 僕たちのチームは、始まる前から前途多難だった。


 

***

 


 チームの合同練習が始まった。

 場所は、因縁の……というほどでもないけど、僕が何かと騒ぎを起こしている実技場だ。


「シャルロッテさんの魔力は、流れが少し直線的すぎるようです」


 練習中、僕は自分の目に映る魔力の流れを元に、感じたままを口にした。

 僕の新たな能力――魔力がより繊細に“見える”ようになったこの目で捉えると、彼女の魔力は、まるで硬直した槍のように、ただ真っ直ぐに放たれているように見えた。


「その槍の穂先に、少し“渦”を作るように意識して魔力を練れば、貫通力と持続力が上がるはずですが……」

「なっ……! な、なんですの、その訳の分からないアドバイスは! 落ちこぼれのあなたに、わたくしの完璧な魔力制御を指図される筋合いはありませんわ!」


 シャルロッテさんは顔を真っ赤にして反発する。


 

 

 

 でも、その夜。

 彼女は一人で訓練場に残り、僕のアドバイスをこっそり試していた。

 (あんなやつの言うこと、聞く必要なんて……でも、悔しいけれど、わたくしの魔法が最近伸び悩んでいたのも事実……)

 彼女が、プライドを押し殺して、言われた通りに魔力の渦を意識して雷の魔法を放つ。

 すると、今までとは比べ物にならないほど鋭く、そして安定した雷の槍が生まれ、訓練用の的をいとも簡単に貫いた。

 彼女自身が、その威力に一番驚いていた。


「な……なぜ……あいつに、わたくしの魔法の核心が……。まさか、本当に魔力の流れが“見えて”いるとでもいうの……?」



 

 

 翌日の練習。

 シャルロッテさんはまだツンケンした態度だったけど、以前よりは僕の指示を聞いてくれるようになっていた。

 僕は、彼女の足元に「魔力循環補助魔法陣」を描く。

 古代魔法による、仲間へのサポートだ。


「これは……!?」


 魔法陣の上で雷魔法を放ったシャルロッテさんが、驚きの声を上げる。

 まるで、自分の体の中から無限に魔力が湧き上がってくるような感覚。

 普段なら数発で息が上がるような大技を、いとも簡単に、しかも連続で放てている。


「なんですの、この溢れる力は……!? これなら、わたくしの最強魔法、《サンダー・エンプレス》も詠唱時間を短縮して放てるかもしれない……!」

「僕の古代魔法は、仲間を強化するサポートも得意なんです。シャルロッテさんの強力な攻撃魔法と組み合わせれば、僕たちのチームはもっと強くなれるはずです」


 僕がそう言うと、シャルロッテさんは複雑な表情で僕を見つめていた。

 彼女が、僕の古代魔法の有用性を、そしてチームで戦うことの意味を、認め始めた最初の瞬間だった。


 

***

 


 そして、大会当日。

 開会式が行われる大講堂は、出場選手と観客の生徒たちの熱気に包まれていた。

 壇上に立った学長が、開会の辞を述べる。

 その中で、学長は一瞬だけ、僕の方に視線を送り、こう言った。


「――既存の常識に囚われず、己が信じる道を突き進み、新たな可能性を示す者にこそ、栄光は輝くだろう。諸君の健闘を祈る」


 開会式が終わると、ステージ上の巨大な魔法掲示板に、トーナメントの組み合わせが発表された。

 僕たちのチーム『エンシェント・レイ』は、ノーシードからの出場だ。


「うわー、やっぱりすごいチームばっかりだね、ロイ」

 

 ニコが、組み合わせ表を見ながら解説してくれる。

 優勝候補筆頭は、三年生の生徒会長が率いる、鉄壁の防御と完璧な連携を誇るエリートチーム『イージス・オーダー』。彼らは一分の隙もない動きで整列し、王者としての威圧感を放っている。

 もう一方の優勝候補は、圧倒的な攻撃魔法で全てを破壊する、個人技のエースがいるチーム『カタストロフ』。そのエースは、既に闘志をむき出しにして、遠くから僕を睨みつけている気がする。


「まあ、シャルロッテ様。あなたが、なぜあのような落ちこぼれの方たちとチームを組まれたのか、わたくしたちには理解に苦しみますわ」


 シャルロッテさんの元に、他の貴族の生徒が嫌味を言いに来た。

 彼女は、その生徒を冷たく一瞥すると、ふんと扇子で口元を隠して言い放つ。


「見てなさいな。わたくしたちが優勝しますわ。あなたたちのような凡人に、わたくしたちの本当の実力が分かって?」


 

***

 


 そして、僕たちの初戦の相手が発表された。

 その名前を見て、僕は少しだけ目を見開く。

 相手は、かつて僕のことを「線香花火」と馬鹿にしていたクラスメイトのリーダー格、バートンが率いるチームだった。

 バートンは、僕たちを見つけると、取り巻きを引き連れてわざとらしく近づいてきて、嫌味な笑みを浮かべた。


「運がなかったな、アンデシウス。お前がアカデミアを救ったなんて噂、誰も信じちゃいねえよ。どうせ学長に取り入ったか、何かインチキ魔法を使っただけだろ?」

 

 彼は、僕が英雄扱いされているのが、よほど気に入らないらしい。


「お前みたいなのがちやほやされて、虫唾が走るんだよ! そのインチキ魔法の秘密、この俺がみんなの前で暴いてやるぜ」


 僕は、そのあからさまな挑発に、きょとんとして答えた。


「インチキ……? 古代魔法はとても合理的ですが……。合理的でない手法を、人はそう呼ぶのでしょうか?」


 その悪意のない僕の返答が、バートンをさらに苛立たせたらしい。

 彼は「覚えてやがれ!」と捨て台詞を吐いて去っていった。

 因縁の相手との初戦。

 波乱に満ちた、僕たちの大会が、今、始まろうとしていた。



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