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第6話 「出会い」を満喫しようと思います


 太陽が沈み始めたころ、2人は「エリシアの灯」へ到着した。セレナやノーティたちの家兼カフェのことで、希望を照らす光のようなお店になるようにと、セレナたちのおじいさんが名付けたらしい。


 2階へ行くと、ノーティと1人の女性のお客さんがいた。夜が近いこの時間帯は1階のバーのみ営業しており、2階のカフェは閉まっているはずだ。何やら2人は楽しそうに話しており、彼と同年代くらいのその子はやけにテンションが高い。


「おー、アバウト!こっち来いよ」


 こちらに気付いた彼はアバウトを呼んだ。セレナは先に戻ってるね、と言い階段を上がっていった。


「おー?ノノのふれんどくん?やっほー!」

 ノーティの向かいに座ってケーキをほおばっていた女子は、アバウトに話しかけた。


「あたしエレナっていうのー!初めまして、よろしく~!」

「オレはアバウト。こちらこそよろしくな」

とアバウトが言ったそのとき、目の前に来た彼女はアバウトを抱きしめた。


(んっ...!!)


 アバウトの体温は急上昇したが、彼女はまんざらでもない様子である。

「どうしたのー?真っ赤な顔して」


 いたずらっぽく笑う彼女の前で、アバウトは全力で平静を貫く。それを少しの間面白がったあと、

「これは初対面の挨拶だよ。あたしの故郷の街の文化。ごめんね!意地悪しちゃって」

と言った。挨拶代わりにハグをするというのか。アバウトはそのような文化があることを初めて知ったが、そのあとの彼女の言葉でさらに驚いた。


「まぁ~、あたしとノノはこれ毎日やってるけどね!」


 ところで、はじめは店内の照明のせいかと思ったが、やはり先ほどから少しノーティの顔は赤くなっている。


(はは~ん。さてはこの男、“恋”してるな~??)


 営業時間外のカフェでの密会と毎日のハグ。これこそアバウトが夢見た青春といった感じだ。


「ところでー、セレナさんとのおデートはどうだった?アビー」


 ...アビー!?初めてそう呼ばれたが、悪くないとアバウトは感じた。そして彼女のノリに乗ってみた。


「いい質問だエリー。最高だったぞ~?セレナさん、オレにプレゼントもくれたしな!」

 そう言ってアバウトは、セレナからもらった、本当は暴漢どもの手に渡るはずだった上着を見せた。


「良かったじゃ~ん!セレナお姉さんからのプレゼントあたしも欲しいぃ~」

「なら、セレナさんと一緒に出掛けて、暴漢どもに襲撃されることだな」

とアドバイスをした。それ以上エレナと仲良くしゃべるなと言いたげな、ノーティの刺すような視線を感じたそのとき、

「たっだいまー!」

という、はつらつとした、女の子の声が1階から聞こえた。セレナが言っていたミアちゃんとやらが帰って来たのだろう。間もなく階段を駆け上がる音が聞こえ、12歳くらいの女の子が現れた。人生の3分の2は外にいます!というような、健康的に日に焼けた腕が半袖から伸びている。


「あ、お兄さんはじめまして!私ミア!兄ちゃんのお友達?」


 ミアはアバウトの前で立ち止まり、彼を見上げてそう言った。人懐っこい印象だ。誰にでも話しかけて友達になる感じ。これは本当にずっと外にいるタイプの子かもしれない。


「こんにちは、ミアちゃん。ノーティのお友達のアバウトだよ」

とアバウトは言い、聞きたいことがあるんだけど、と続けた。


「エリシアの軍に入隊したくて、そのやり方を教えてほしいんだけど...」


 これにはノーティやエレナも驚いた。

「おまっ、まじか!一体今日何があったんだよアバウト」

「すごいよアビー、あたし全力で応援する!」


 ミアはコホンと咳ばらいをし、入隊試験の受け方を教えてくれた。

 入隊試験はエリシアの都市の1つ、エノ領にある城の敷地内で行われるという。次の試験は1か月後で、それまでに入隊できるレベルの戦力を保有する必要があるようだ。


「それじゃあアバウト兄、明日の朝一でスタン爺のとこ行くよ」

「スタン爺?」

「アバウト兄、スタン爺も知らないの!?いったいどこからやってきたのよ」


 魔王城からやってきました、元魔王です!などとは言えないアバウトは返答に困った。


「まあいいけど。この街では超有名な武具職人よ?技術半端ないし超優しいし。そこでアバウト兄にぴったりな武具を作ってもらったらいいよ」


(そうか、まずは武具を準備するのか。魔力さえ使えればそんなの要らないのに...!まあ、スタン爺のことも気になるし、明日行ってみよう)


「あ、やば!もうこんな時間。早く行かなきゃ、じゃあねアバウト兄!」

 そう言ってミアは準備するべく、階段を駆け上がっていった。アバウトは彼女にまだ聞きたいことがいろいろあったが、忙しそうだったのでまた今度にした。その代わりに、超重要なことをノーティに伝えた。


「それでね、ノーティ。今晩もお泊りしたいなぁ...なんちって」

「まあ構わないが———」

「さんきゅ!風呂借りるぜ!じゃあねエレナ」


 ノーティが言い終わらないうちにアバウトはそう言い、ミアと同様に階段を駆け上がっていった。そしてカフェに残されたのは、ノワールの守護者になると宣言したアバウトに尊敬の眼差しを向けるエレナと、彼女と仲良くするアバウトに嫉妬心を隠し切れないノーティだけだった。


満喫小噺

 スタン爺は伝説級の武具職人です。ノワール守護者の使用する武具はほとんどスタン爺お手製のものです。武具製作の技術は魔王封印前から300年以上も受け継がれてきました。


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