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第37話 「決意」を満喫しようと思います


 フォロは魔王先輩をおんぶしながらエレナをだっこして山を下りた。

 魔王先輩はフォロの最強治癒術で一命をとりとめたのだ。

 その後ろからアバウト、タゼル、ルベルも急いでついて行く。



「スタンさん、アバウトたちが来ましたよ」

 アバウトたちが守護の庭へ入ると、横たわるスタン爺とそれを見守るフィレがいた。


「おじいちゃん!」「スタンおじいちゃん!」

 タゼルとルベルは慌てて駆け寄る。

「スタン爺!」

 エレナも2人の後に続く。

「おぉ...君たちか」

 スタン爺の声は、今にも消えてしまいそうなほど弱くなっていた。


「フォロ。あなたのおかげで、さっき意識が戻ったわ。感謝する」

「この上ないお言葉です」


「アバウトよ、こっちへ来たまえ...」

 スタン爺に呼ばれ、アバウトはベッドへ歩み寄る。


「アバウト...お主にはここを継いでもらいたい...」

「えっ、でも...」

「安心せい。技術の継承は、フォロにすべて任せてある...」

「フォロに...?」

 アバウトがフォロに目を向けると、表情を変えずに彼女は言った。

「この1か月の間、私はスタン様から武具職人の極意をご指導いただいておりました」




 遡ること1か月前。

「フォロ、頼みたいことがある。お主にしか頼めんことがな」

「お受けします」

「ふぉっふぉっ、まだ何も言っておらん。じゃが、やはりお主は心強いのう」

 まっすぐフォロの目を見て言う。

「技術継承の手伝いをしてほしいのじゃ」


 それから今まで。

 フォロは日曜日や空いた時間に守護の庭へ足を運び、技術を会得していったのである。




(そうだったのか...だからよく1人で外出をしていたのか...)


「でも、オレにその役が務まるでしょうか...」

「なあに、お主は簡単にわしを超えるであろうよ」

「...え?」

「お主のもつ膨大な量の魔力...それを今の霊力と———」

 スタン爺は大きく咳き込んだ。

「スタン爺!」

 エレナはゆっくりとさすった。


「アバウト様の魔力と霊力を組み合わせれば、これまでのものとは比較にならないほどの武具ができるとのことです」


 話すのも辛そうなスタン爺に代わり、フォロが言った。

 そしてその言葉に、アバウトは意を決した。


「オレは...敵を圧倒する武器を作って———」

「ふぉっふぉっふぉ...アバウトよ、わしらが作るのは武具じゃ。武器ではない...。ノワールに必要なのは、兵器ではなく道具...。だからノワールでは、これを使って、命を狩ってはならんのじゃ...」


 アバウトはスタン爺の言葉で、フィレとエムの直接対決を思い出した。

(そうか。だからフィレさんは、エムに渾身の一撃を武具ではなくパンチで入れたのか)



 フィレはスタン爺の手をぎゅっと握った。スタン爺のもつ霊力の弱まりを感じ、その時が迫っていることを悟ったのだろう。


「スタン爺...今まで本当にありがとう。楽しかったよ、1カ月間」

 エレナの顔は涙でぐしょぐしょになっている。

 タゼルとルベルも激しく嗚咽している。


「スタンさん。あなたの閃華武具のおかげで私はここまで来ることができました。本当にありがとうございました」

 フィレも感謝の意を述べた。


「礼など必要ない...わしの人生に色を付けてくれたのは、お主らのほうじゃ」


 そしてスタン爺はみんなに見守られながら、静かに、穏やかに息を引き取った。




「スタン爺、朝まであんなに元気だったのに」

 時間が経ち、落ち着いた後でエレナは小さくつぶやいた。


「私が今まで、霊力をかけ続けていたのです」

「霊力を...スタン爺に?」


 エレナは驚いていた。アバウトの同様の表情を浮かべてる。

「でも、だったら———」

 フォロはエレナの言葉を遮り、ただ、と少しだけ寂しそうに言った。

「どんなに洗練された霊力でも、やはり時間の流れにはかなわないのです」




「ところでアバウト様」


 フォロは声のトーンを戻し、主の名を呼んだ。


「武具の注文がどっさり入っております。武具を作らないで、何が武具職人ですか」


 アバウトは相変わらずな最強メイドに少しだけ呆れつつも、その声に安心した。

「そうだな、フォロ。いっぱい教えてくれよ、いろんなこと」

「お任せください、ご主人様」


 その日から、アバウトのノワール守護者&武具職人としての生活が始まった。



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