第2話 「走馬灯と夢花火」を満喫しようと思います
(なんかうるさいな...人の声?銃声?)
アバウトはようやく意識を取り戻した。仰向けの状態で、戦地のど真ん中で。
その瞬間。
ドカーーン!
鼓膜の破れるほどの大きな地響きが一帯の空気を震わせ、音源を中心に爆風が瞬時に広がった。直感的に爆発が起きたことがわかったそのとき、とっくに日の沈んだ辺り一帯が途端に眩しくなった。こちらに近づいてくるその速度は音速を超えているはずなのに、やけにゆっくりに見えた。
そうか、これが走馬灯か。
まだ朦朧とした意識の中、頭に映し出されたのはフォロの顔だった。彼女と最初に出会ったときのことが思い出された。
アバウトは魔王になる前、一生を添い遂げる主を求めていたフォロに出会った。もしアバウトが勝てば主となることを条件に手合わせを行ったのだが、結果はフォロの圧勝。しかしその後も生活を共にし、やがてフォロは彼の持つ強さでない別のものに魅了され、アバウトに仕えるメイドとなったのである。
そんな事を思い出している間に、爆風は間もなくアバウトに到達する。魔王を辞めてまで夢見た輝かしい青春の日々への道も、この爆風でどこかへ飛んでいってしまうのだろうか。16歳の若さで魔王にまでなれたのだから、まあそれの対価であろう。悪くない生涯であったと、ゆっくり目を閉じた。
そしてアバウトの身体は宙を舞って...
(あれ?)
身体に浮遊感こそ感じたものの、何かと接触している感覚ははっきりとしている。すごくやわらかいものに包まれているような...。
誰かにお姫様だっこされているのに気づいたのは、ドーンという体の芯から響く轟音が聞こえてきた時だった。
(これは...)
そっと目をあけると美しい銀髪の女性...の胸が視界いっぱいに広がっていた。とてもいい匂いだと無意識に思いつつ、横目で音の正体を探る。狭い視界から目に入ったのは...。
夜空を飾る特大の花火であった。次々とその花は開いていく。そして先ほどと同じように、再びドーンドーンという轟音が聞こえてきた。今度のものは連続的に鳴り響いてくる。
(花火大会?でもここは、戦場...)
アバウトは身体を包まれる優しい感触と体中にこだまする音の心地よさからか、強烈な眠気に襲われ、やがて意識は遠のいていった。
満喫小噺
浴衣姿のこの女性はいったい・・・?