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第11話 「新しい武具」を満喫しようと思います


 練習開始から1週間。

 エレナの霊力のコントロールは安定し、下級武具を持たせてもらえるようになった。アバウトも少しずつであるが霊力が回り始めている。そしてこの頃には、まだ小さいタゼルとルベルも練習に参加していた。


「教えて、ボスの先輩!」「私もー!」


 2人の中ではアバウトがボス、エレナがボスの先輩、そしてフォロがボスのボスである。フォロはアバウトに、エレナはタゼルとルベルに教えつつ練習するというシステムが完成した。


「2人もとうとう武具に興味を持ってしまったようじゃな、ふぉっふぉ」


 スタン爺は嬉しそうに笑ったが、「じゃが」と少し険しい顔をして続けた。

「山だけは気を付けなければならん。ノワールの南東に位置する、シャドウピークという山じゃ」


 エレナたちの練習を見ながら隣で話を聞いていたアバウトは、その山の名を聞いたことがなかった。

「迷いの森、呪われた遺跡、並外れた闇の魔力を持つ生物。挙げだしたらきりがない。すべて300年前の魔王の仕業じゃ」


 逆に気になる存在ではあるが、フォロがいれば大丈夫だろうか?ただ、このおじいさんのまじめに言うことを軽く考えてはいけないことを、この1週間ほどで学んでいる。

(なら、しばらくはその山から距離を置くとしよう)



 次の日。

「アバウトよ、こっちへ来たまえ」

 フォロとの特訓中、アバウトはスタン爺に呼ばれた。


「新しい武具が完成したぞい」

「ほんとですか!?見ます!」


 守護の庭の裏口から中へ入るスタン爺に、アバウトとフォロが続く。

 木製のテーブルに置かれていたのは、見たことのない形の閃華武具であった。


「閃華砲じゃ。とはいっても、もともとあった閃華砲をまだ初心者のお主でも使えるようにしたリメイク版じゃがな」

「うわー、すごいです!早速使ってみたいです」

「そうじゃな、なら右足につけてみると良い」

「右足、ですか?」

「武具のパワーの源は霊力じゃからのう」

 今のアバウトの霊力は右足に集中しているので、もっともその効果が得やすいというスタン爺の助言だった。


 早速アバウトは広い庭に出て、武具を右足に装着した。

「足を振りぬく瞬間に霊力を込めるんじゃ」


 にこやかに言うスタン爺に見守られながら、30mほど先にある木をめがけて右足を振りぬいた。

 ところが。


「あ、やべ!!」


 狙っていた方向とは大きくずれ、増幅されたアバウトの霊力は塊となってエレナたちのいる方向へ高速で飛んでいった!


「エレナ危ない!」

「あわわわわ...」


 エレナは突然の攻撃にあたふたしている。当たってしまう!と思ったそのとき、すかさずフォロがエレナの前に立ちはだかり、片手でそれを受けた。霊力の塊とフォロの手のひらの両者は、どちらも譲らず拮抗している。そしてフォロは少し口角をあげ、やがて霊力を手に収めた。それに見とれていたアバウトは、思い出したように彼女たちの元へ駆けつけた。


「ありがとうフォロ~!」

「お気になさらずです、アバウト様。みなさん無事のようです。それより今の威力、悪くなかったですよ」

「そ、そうか!?まあ、フォロが言うならそうなのかもな!サンキュ!」


 そしてアバウトは「驚かせてごめんなエレナ」と残し、スタン爺のところへ戻っていった。

 そんなアバウトを見送り、エレナはフォロに問う。


「ねえねえフォロ。フォロの力だったら、さっきのもっと簡単に止められたんじゃないの?」

「アバウト様は今、とても楽しそうなのです。新しい世界を見つけて、初めての友達ができて、自分専用の武具を手に入れて。その武具で放った最初の一撃を簡単に止めてしまうのは、少し嫌だったのです」


 そしてこう付け足した。

「まあ実際、止めるのは簡単でしたが。とっさに出たのも片手だけでしたし」

「あはー、やっぱり...。そういえばあたし、アバウトが魔王だった時のことまったく知らない。もっと知りたいな、アバウトのこと...」

「私にもお手伝いできることがあれば協力いたしますね!」

「フォロちゃん...」

 尊敬と感謝のあまりフォロを「ちゃん」づけで呼んだことに、エレナ自身は気付かなかった。


「さあー、練習開始しますかい!」


 エレナは気持ちを切り替え、タゼルやルベルと共に練習を再開した。

 もう一度アバウトの右足から霊力の塊が飛んでくることを、彼女たちはまだ知らない。


満喫小噺11

 ノワールの守護者が使う武具のほとんどはスタン爺お手製のものです。武具を使うときは、霊力を一点に集中させて流し込むことで、それがエネルギー源となります。

 アバウトはどうも武具のコントロールが難しいようですが、今後どうなるのでしょう...

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