最後の贖罪
第8章 葛藤
2024年1月28日
朝の4時に家を出た。
私には、もう行く場所がない。
早朝、新幹線で群馬に向かい、松尾君の病院に向かった。
新幹線の中で、途方に暮れた。
私は、部長の器じゃなかった。
それは、自分でもわかっていたつもりだった。
感謝状を、たくさんもらっただけだ。
能力でも、何でもない。
それに胡坐をかき、調子に乗っていた。
だからこそ、辞めた後、2か月経っても、
誰一人として、連絡がないんだ。
親友と思っていた岩崎すら連絡がない。
それが、答えだ。
家族のことを蔑ろにする人のことを
好きになる人なんていない。
正義のヒーロー部長と言われても、
気付かないまぬけ野郎だったんだ・・・
伊勢崎駅に着き、私は、足早に永井病院に向かった。
受付を済ませ、松尾君の病室に向かった。
恵介「昨日、屋上で自殺しようか悩んでいたら、
元嫁が助けてくれたんだ。
てっきりまた戻れると思ったんだよ。
そしたら、色々書類を書いてと言われたよ。
死んだら色々面倒だもんね。」
皮肉なものだ。こんな話ができるのは、
もう、松尾君しかいなかった。
1時間かけて彼は、PCに返事を書いた。
松尾「貴方には、死ねる体がある。私にはない
最後の願いだ、人工呼吸器の線を切ってくれ」
私は、泣いた。
葛藤した。
これは殺人なのか?贖罪なのか?
いいことなのか?悪いことなのか?
2時間後
私は、彼の希望を叶えた。
彼の手から、PCのマウスが落ちた。
その瞬間、PCの画面が切り替わった。
「ありがとう。私は貴方を挑発して、なんとか
私を殺してもらおうと努力した。
私の願いは達成されたありがとう。
貴方もちゃんと今日自分自身を仕留めるんだ
仕留められなかったら本当の地獄が待っている」
私は、PC画面を見ながら
松尾君に言った。
「あー絶対に失敗しないよ。」
彼は、息ができないはずなのに、
苦しまずに、眠るように、息を引き取った。
そして、私は、病院を出た。
時刻は、13時10分を指していた。
私は、最後に両親のお墓参りをすることにした。
永井病院からは、タクシーで30分程度、
伊勢崎駅にいるタクシーに乗った。
恵介「加賀谷墓地まで、お願いします。」
墓地に着いた。
恵介「メーターつけっぱなしでいいので、
少し待っていてもらっていいですか?」
私は、タクシーに待ってもらうことにした。
私は、去年の8月以来、両親のお墓参りをした。
「恵介だよ。親不孝でごめん。
でも、お父さんも、お母さんも、
お姉ちゃんも、もういないから誰も悲しまないよね。」
姉は、14歳で自殺した。理由は、わからない。
父は、2年前に、ガンで75歳で、亡くなった。
母は、父が、亡くなり生きる希望がなくなったのだろう。
父の後を追うように、昨年亡くなった。
「俺も、もうすぐ行くから。
伊勢崎・地元で死ぬことに決めたから。
お父さんと、お母さんの葬式が、出来てよかった。
俺が、離婚する前に、死んでくれてよかったよ。
今思えば、結婚してくれたのは、お母さんが、マヤを、
気に入ってくれたことが、大きかったのかもな。
みんなに支えられていたのに、
今、俺の周り誰もいないや。
全部、俺が1人でぶち壊しちゃった。
そして、今は、殺人犯だよ。お母さんごめん。」
私は、お墓の前で泣きながら、手を合わせた。
私は、涙を拭き、タクシーに戻った。
恵介「ちょっと遠いですが、この住所まで行ってください」
目的地につくと、
「こ・ここで、いいんですか?」
恵介「はい、ここで降ります。おいくらですか?」
私は、14.000円を支払い、タクシーを降りた。
時刻は、15時20分
何もない道を、歩いた。10分ほど歩いただろうか、
私は、松尾君が3年前に、自殺を失敗した場所に着いた。
こんな雑木林に、人なんていない。
こんな場所、人が通るわけがない。
そんな場所だ。
地元の私でも、知らない場所だった。
本当に彼は、死ぬ覚悟があったのだろう。
私が、彼を見つけたことは不運でしかなかった。
夏だったから、カブトムシなどがいたから、
私らみたいな親子が、遭遇してしまったんだ。
彼の気持ちを知り私は、また泣いた。
マヤの連絡先を書いた紙を、ポケットに入れ、
最後にスマホに保存した写真を見た。
「マヤが、最初そんなの破り捨てなよって言ってくれた時、
なんで捨てなかったんだろうね。
あの時、捨ててれば今でも幸せな人生だった。
俺は、知る必要のないことを知ってしまったんだ。
全てを失い、その結果、家族を蔑ろにして、
最後は、殺人犯。
こんなの3か月前の自分に言っても信用しないよ」
私は、一人でしゃべり続けた。
「マヤ、言うこと聞かなくてごめんね。」
「玲菜、ずっとママの味方でいるんだよ。」
「正真、もっと強くなって2人を助けるんだよ。」
「3人とも、俺は愛してる。幸せになってくれ」
私は、もう殺人犯だ。
もうこの世に未練はない。
私は、辺りを見渡した。
誰もいないことを確認すると、
私は、椅子に乗り、太い木の枝に紐を括り付けた。
意外にも、恐怖はなかった。
私は、椅子を蹴っ飛ばした。
まるでショーシャンクのようだ・・・
私は、すぐに意識を失った。
そして、
私は、ベッドの上で目が覚めた。
第一部 完
一旦終わりです。
いいねや、コメントが多かったら、2部マヤの苦悩編UPします。