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最後の贖罪 -the last suicide-  作者: 佐久聖
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もう一度やり直せるかもしれない   第7章

第7章  約束




2024年1月27日




12時を過ぎても、彼女は、来なかった。





物理的に助けるのではなく、普通に楽しく話したら、

彼女自身もう少し生きようと、思ったのだろう。



私は、偽善者だった。


でも、最後に気づけることができた。




いつのまにか、夕暮れになっていた。

そろそろ準備をしよう。




スマホに保存した家族写真を見ながら

手紙を書いた。


「正真、もっと強くなれよ。」

「玲菜、お母さんを助けてな。」

「マヤ、子供たちを頼んだよ。」




意外と死ぬ前は、冷静なものだ


靴を脱ぎ、靴の中に手紙を入れた。





下に人がいないことを確認して、


飛び降りる覚悟を決めた。





私は、震えていた。


怖い。



でも、もう戻れる場所はない。



生きる勇気もない。




こんなにも死ぬことが、大変なのか・・・



松尾君は、この恐怖に勝った。

しかし、私が助けてしまった。








「恵介!」



振り返ると、マヤがいた。



私は、足から崩れ落ちた。

いつのまにか震えていた。


マヤは、不思議な表情をしていた。

見たことのない表情をしていた。




30分後、私は、落ち着きを取り戻し


恵介「マヤありがとう。もう大丈夫。」

マヤ「うん・・・」


すると、玲菜と正真と昨日の少女が、来た。


正真と少女は、同級生だった。

少女が正真に話し、正真がマヤに

伝えたのだろう。



恵介「正真ありがとう。」

正真「本田さんのおかげだよ。」

恵介「本田さんっていうんだ。ありがとうね

   君は命の恩人だよ。」

本田さんは、笑顔で笑っていた。


私は、本田さんに小声で、

恵介「昨日のことは、二人の秘密にしておこうね。」

本田「うん」


玲菜は、泣いていた。



玲菜「パパもう迷惑かけないでね。」

玲菜を抱きしめた。



本田さんを家まで送り、4人で歩いて家に帰った。






家に戻ると、家財道具が、全て元通りになっていた。

2か月ぶりの我が家だ。

もう、戻ってくることは、ないと思っていたので、

私は、隅々まで家を歩いた。



そして、風呂に入り、家の居心地の良さを再認識した。

もう一度やり直せるかもしれない。


明日から仕事を探そう。


風呂場で私は、泣いた。

家族の暖かさに改めて感謝した。




久しぶりの家族団らんの食事だ。

私の好きな生姜焼きだ。

マヤの作った生姜焼きは、最高だ。

私の誕生日や感謝状をもらった時は、必ず出してくれた。



子供たちが寝付いたあと、妻と久しぶりの会話をした。


恵介「今日はありがとう。明日、本田さんのご両親に

   お礼を言わないとね。」


マヤ「うん・・そうね。」


恵介「やっぱり家族がいればもう何もいらないかな

   すぐに新しい仕事探すよ。」


マヤ「そっか、がんばってね。」


私は、この2か月間に起こった事をマヤに話した。


恵介「マヤ、本当にごめん。ノートは、捨てる」


私は、ノートをゴミ箱に捨てた。



マヤは、あまり表情を変えなかった。


恵介「どうしたの?何かあった?」



マヤは、視線を下に向け、


マヤ「これ書いてくれないかな?」


口座や離婚届、保険、すべての名義変更

弁護士の書類なども

含めるとたくさんの書類があった。


マヤ「全部、書いてほしい。

   そして、死なないで欲しい。」

恵介「え?やり直せないのかな?」

マヤ「ごめん・・・」

恵介「且行か?アイツに変なこと吹き込まれたのか?」

マヤ「やめて・・・」

恵介「じゃあ、なんで俺を助けた!!!」

マヤ「子供が起きちゃう。あなただって、

   色んな人を助けたでしょ?」


数分、静寂が流れた。


恵介「こんなみじめな仕打ちないだろ」

マヤ「・・・・」

恵介「玲菜と正真は?」

マヤ「後で話す。私が育てるから大丈夫」

恵介「理由だけ聞かせてくれ。役所を辞めたからか?」

マヤ「そういうことじゃない」

恵介「この先、無職の俺と住むんじゃ、

   お前のプライドが、許さないからか?」

マヤ「お前とか、最低ね」

恵介「どっちが最低だよ。且行に乗り換えるのか?」

マヤ「馬鹿じゃないの?」

恵介「ふざけるな!こんなもん書かないぞ」



マヤ「冷めたのよ」

恵介「冷めた?」

マヤ「ノートを捨てなかった時点で、冷めたの」

恵介「今、捨てただろ!」



マヤ「もう、遅いよ。全部、遅いよ」



私は、マヤが、ため息まじりに言った、「遅いよ」で、

全て思い出した。

私とマヤが、7年付き合って結婚を決めた日、

3つの約束をしたんだ。


1,マヤに対して、「お前」と呼ばないこと

2,マヤが、本当にお願いした場合は、

  必ず、受け入れること

3,結婚記念日(11月27日)は、

  必ず、楽しく食事をすること


恵介「マヤ、ごめん。結婚記念日ごめん。」

マヤ「それだけじゃないよ」

恵介「今、約束事を思い出した。本当にごめん」

マヤ「全部、遅いよ。遅すぎだよ。」


私は、うつむいた。


付き合ってから、37年も一緒に居たマヤのことを、

理解してなかった。

玲菜が言っていたのは、ママを困らせないでって、

ことだったのか・・・



玲菜も正真も、気付いているのだろう。

食事の時、屋上の話に触れて来なかった。



もう、これ以上、嫌われたくない。



私は、全ての書類にサインをした。

玲菜と正真のために、全ての財産を渡すと、サインした。






マヤ「30万あればいいでしょ?アパート借りてね。

   足りなかったら、連絡ちょうだい。

   あと、死んだらダメだからね。」

恵介「ああ。」

マヤ「子供たちが起きる前に出て行ってね。」

恵介「わかった・・・最後に子供たちの寝顔が見たい。」

マヤ「わかったわ。」



二人を起こしたい。

もしかしたら、子供たちは、守ってくれるかもしれない。


それでも、私は、声を押し殺し二人の寝顔を見た。

そして、泣いた。


続く

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