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最後の贖罪 -the last suicide-  作者: 佐久聖
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本当に正しかったのだろうか?  第5章

第5章 決意




2023年11月29日



その日の夜、妻に話した。

恵介「仕事辞めたよ。」

マヤ「そう。」


マヤは、素っ気なかった。

昨日の喧嘩のせいなのか、

愛想を尽かしたのかは、わからない。



ノートのことも何も言ってこない。




翌日、マヤは、玲菜と正真を連れ、

ほとぼりが冷めるまで中野区の実家にいると、

言い残した。



それから、戻ってくることはなかった。




なんとなく予想は、できたので、ショックはなかった。

48歳の無職と30年以上、この先一緒に住むのは、

彼女のプライド的に、許せないのだろう。





35歳の時に買ったマイホーム。

ローンは、退職金で払えそうだ。

離婚になるのだろうか?

もう、子供には会えないのだろうか?




ただ、今の私には、やることがある。

私は、ノートを全部調べまとめた。



全部調べたら19人の自殺を止めていた。

32年で19人は異常だ。


残り15人のその後を調べる決意をした。

私は、正しかったのか?間違っていたのか?


もう自分で、確かめるしかない。



答え合わせの時間だ。





15人の名前を検索すると、5人ほど確認が取れた。

3人は、結局その後、自殺していた。

この中に、谷津さんに救われたと言っていた少女もいた。


1人は、殺人で逮捕されている名前と同姓同名だった。

北爪さとる46歳。保険金殺人で逮捕されていた。

助けた当時は、彼は、17歳だった。

あまり覚えていないが、橋から飛び降りた彼を私が、

泳いで助けたと記されている。

北爪が32歳の時、立ち上げた会社が、軌道に乗らずに、

従業員3人を殺害し、保険金を騙し取ったと書いてある。

彼は、求刑死刑も控訴せず、

2021年5月24日に死刑を執行されている。



本人かどうかは、わからないが、おそらくそうだろう。

彼が、死刑を控訴しなかったのは、

死ぬことへの恐怖が少なかったのだろう。

もしかしたら、死にたかったんじゃないのか・・・


それなら、あまりにも従業員3人が不憫だ。

北爪に会うことは、もうできない。

私は、忘れることにした。




もう一人は、占部圭一郎。

所謂、youtuberをやっていた。

正義を振りかざし、私人逮捕動画をUPしている。

登録者も43万人と成功していた。



内容は、褒められたものじゃないが、

生きているだけ、私は、うれしかった。

みんなにチヤホヤされるのが、楽しいのだろう。


私は、ふと思った。




私もじゃないか?

感謝状もらってたよな?

偉そうに、講演会で講釈を垂れていたよな?

松尾君が、植物人間になるかもしれないと、

聞いておきながら、感謝状をもらっていたよな?


私の行動は、間違っていない。

ただ、あまりにも自分に酔い過ぎていたのかもしれない。



「うああああああああああああああ」




誰もいない家で、私は、叫んだ。



そして、感謝状を全部破り、ゴミ箱に捨てた。







残りの10人は、自分の足で、探す決意をした。

それが、私の禊だ。





まず、先日助けた女子大生の家に向かった。


私が、講演会の依頼を受けた福井にいた時に、彼女を救った。

その時、講演会前に、名所でもある東尋坊に、向かった。

命の電話など、自殺対策が、しっかりされていた。

崖の前に女性が立っていた。彼女は、ロープを跨いだ。

その足には、靴は履いてなかった。


それを見た瞬間、私は、走った。

間一髪のところで、彼女の腕を掴み救出した。



彼女は、千葉県の船橋市在住だ。

住所を頼りに、電車で向かった。



インターホンを鳴らすと、母親は、快く家に招いてくれた。



そこには、女子大生の仏壇があった。


「先日は、ありがとうございました。

 最後に陽子とたくさん話せて私は幸せでした。」


恵介「なぜ、陽子さんは、亡くなったのですか?」

母親「すぐに退院したんですが、

   6日後に家で、自殺しました。」


私は、息を呑んだ。


恵介「差し使いなければ、理由は、なんですか?」

母親「おそらく失恋だと思います。

   陽子は強くなかったから。

   でも、本当に最後陽子と向き合えて話せたこと、

   本当に谷津さんに感謝しています。」



20日前に助けた彼女は、亡くなっていた。

両親は、喜んでくれたのだが、

彼女は、助けた日から死ぬまでの数日間、

楽しかったとは思えない。


私は、胸が苦しくなった。



その後、ノートを頼りに浜名湖・尼崎・鳴門に行くも

助けた人とは、会えなかった。

インターホンを鳴らしても、

出てくれる人は、いなかった。

そもそも、もうそこに住んでいないかもしれない。


私のメモ帳は、残り3人になった。




2024年1月16日




私が、久しぶりに家に帰ると、家が、もぬけの殻だった。

離婚届がおいてあり、弁護士の名刺もあった。


「岩崎且行」


岩崎の2歳下の弟だ。

岩崎且行をなぜ、マヤが、知っているのだろうか?

岩崎に頼んだのかもしれない。



ある程度覚悟していた私は、


すべての財産を妻と子供に渡すと書いた。




この家で寝るのは、最後になるだろう。

何もないので、フローリングで横になった。


フローリングでも意外と、寝つけた。


スマホに保存していた家族の写真を見て、

私は、泣いた。


疲れていた私は、すぐに眠りについた。




目が覚めると、外は、明るかった。

10時間は、寝たかもしれない。

それだけ疲れていたのだろう。




私は、もうこの家に戻ることはないと決め、

次に向かった。あと3人会って終わりだ。



15年前、女子中学生2人の電車での心中自殺を止めた。

私は、ノートを頼りに埼玉県川口市に向かった。


役所の仲間で、BBQに行ったときに、助けたのだが、

今でも、鮮明に覚えている。

電車の踏切で、抱き合っていた二人を見つけ

危険を顧みず、電車が見えた中でも二人を

踏切から押し出した。



生きていれば、30歳ぐらい。

親友関係も続いていれば、最高だ。



家を訪れ、勇気を振り絞りインターホンを鳴らす

女性は、出てきた。

「はい、どちら様ですか?」


恵介「突然すみません。兵頭アヤさんって方いらっしゃいますか?」

アヤ「私ですが?」

恵介「すみません、15年前に電車で自殺を図っていたのを助けた谷津と申します。」

アヤ「あ~あの時は、ありがとうございます。」

恵介「元気でよかったです。助けた方のその後を知りたくて今全国行脚してるんです。」

アヤ「来年、結婚することになったんです。」


よかった。

本当によかった。


しかし、もう一人の子は、翌年、自殺したと・・・


それでも、私は1人、助けたんだ。

子供ができれば実質2人、3人助けたことになる。

そう自分に言い聞かせた。




私は、帰りの電車の中で、15年前の記事を探した。

すると、二人の女性の自殺未遂を助けたという記事が、

ヒットした。

少し心に余裕が、でき始めた。




さらに、その記事を開くと、

都内に住む30代が、電車で佇む二人を助けたことが、

書いてあったが、

その結果、電車が急ブレーキを掛け、

その反動で20代の妊娠女性、80代男性、

90代女性の3人が重体になり、

数日後、3人とも亡くなったことが、書いてあった。


私が、助けた結果、3人が、亡くなった。

いや、4人だ、いや、結局1人自殺したんだから5人だ。


1人助けて、結局5人亡くなった。


私が、助けなくてもブレーキはかけたはずだ。

だから仕方ないんだ・・・



何が正しかったのだろうか?

見殺しにするのが正しいのか?


絶対に私の行為は、正しいはずだなのに・・・




自分では、受け止められなくなり、


私は、親友の岩崎と会い、全てを話した。


岩崎「覚えてるよ。二人が佇んでいた時、お前は、すぐに

   助けに行った。お前は、間違ってないよ。」

恵介「間違ってはないけど、間違っていたんだよ。」

岩崎「そんなの結果論だ。」

恵介「俺は、それで仕事も家族も失った。」

岩崎「俺が、いるじゃん。」

恵介「そうだなw」

岩崎「え?家族もって?」

恵介「家を出て行かれたよ。」



岩崎「まじかよ・・・死ぬなよ。」

恵介「わからないなw」


岩崎は、マヤのことを知っているはずなのに、

三文芝居を打ってきた。



岩崎「いつでも連絡くれよ」


岩崎は、新しい名刺を渡した。

そこには、企画部部長になった岩崎の名前があった。


会話の中で、お前が、辞めたおかげで、

俺が、部長になったわサンキュー!ぐらい言ってほしかった。


彼は、そういうキャラだ。

なんだか彼が、遠い存在に思えてきた。


振り返れば、最初自宅謹慎になった時も、

すぐに岩崎が、噂が広まってると言っていた。

出社前に果たして噂になるのだろうか?



もしかしたら・・・



私は、考えるのを辞めた。



続く

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