表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の贖罪 -the last suicide-  作者: 佐久聖
2/6

全ての歯車が狂い始めた  第3章・第4章

第3章  忠告



2023年11月19日


家族と一緒に車で、遊園地に向かった。

車内では、正真が、歌っている。

玲菜は、ずっとインスタを見ている。

マヤは、助手席で寝ている。


こんな平凡な毎日が、ずっと続くものだと思っていた。



家族で遊園地に行っている間は、

全てを忘れることができた。

家族も楽しそうで何よりだった。

自暴自棄になりかけたが、家族と一緒なら

私は、何もいらないとまで思った。


玲菜は来年東大受験をする予定だ。

正真も高校は、名門高校に行かせようと思っている。


自慢の子供たちだ。


マヤは、子供思いでとにかく美人だ。料理もうまい。

私には、ちょっともったいない奥さんだ。



パレードも終わり、4人は、帰った。

帰りにファーストフードで、夜ご飯をテイクアウトし、

21時頃、自宅に戻った。



そして、テレビをつけると、

練馬一家4人殺人事件の速報が、流れていた。


犯人の泉田真央は、

「私を死刑にしてほしいもうこんな人生終わらせたい!」と

警察に話していると言ってる。


私は、すぐにテレビを消した。

彼女の自殺未遂後の15年を思うと


彼女に私は、何も言えない。




せっかくの楽しい1日だったのに


私は、罪悪感でいっぱいになった。



私は、駆け足で2階にあがり、書斎に入った。




すぐにPCを立ち上げ、また色々と検索した。


「谷津恵介」で検索すると、感謝状のことや

ニュース記事が、たくさんヒットした。


10ページぐらいは、進んだだろうか、





すると、あるブログに辿り着いてしまった。




そのブログには、




私は、自殺志願者の25歳S・M 男性


自殺志願者のために必ず死ぬよう警鐘を鳴らしたい

私は自殺を失敗し、絶望している

みんなは絶対に失敗するな




2020年年8月12日群馬県伊勢崎市の田舎で、

地元民すら寄り付かない場所、

そう、誰もいないはずの林で、縄を固定し、首吊りをした

そこまでの記憶はある

目が覚めると、ベットの上だった

俺は助かったようだ。



ただ、脳は大丈夫だが身体が全く動かない

痛くもないのになぜだ


私は、後遺症が残り




今もベットの上だ




やっとパソコンがなんとか打てるようになった



顔も見れないほど変わった

元からイケメンではないが、もう顔が顔じゃない


そして、医者には二度と歩けないとも言われた


医者に殺してくれと言っても、

それはできないと

自分で死ぬことすらできなくなった



俺は、許さない

アイツが自分の欲求のために助けた結果

俺は、前よりもひどくなった


そして、死ねなくなった


絶対に許さない




また感謝状もらったみたいだな







私は、震えながら全部読んだ・・・

ハッキリと覚えている。


3年前、群馬県伊勢崎市の私の実家に行き、

正真とカブトムシを取りに雑木林に行った。

正真が、秘密の場所を見つけたと言っていた場所だ。


正真が、あれ人じゃない?と遠くの彼を見つけたんだ。

私は、首吊り状態の彼を助けた。


すぐに人工呼吸をし、レスキューを待った。


2日後、見舞いに行ったが、本人とは会えなかった。

見舞いに来ていた両親からありがとうございます

と言われたが、


母親「助かっても植物人間かもしれません。」


私は、何も言えなかった。

その後、お見舞いに行くことはなかった。

確認するのが怖かったのかもしれない・・・



植物人間ではなかったようだが、

意識がある分もっと残酷かもしれない。



前のブログをみると、もう親は、見舞いに来ていないようだ。


彼は私が、この前、感謝状をもらったことを知っている。



SNSで拡散されるのは、時間の問題かもしれない。


私は、コメントを残した。


「私は、人が死ぬ現場を見たらほっとけない。

 ただ、それが迷惑だったことは、今知りました。

 本当に申し訳ない」


すぐに返事が、来た。


「え?植物人間になるかもしれないって聞いてたよね?

 谷津恵介だろ?マジで許さない 

 スクショしたから消しても無駄だ」




私は、急いでコメントを消した。


PCを閉じ、ノートを開き、3年前を調べた。


松尾周平22歳 SMだ間違いない。



もう終わりだ。

どうしたらいいんだ。

1人1人謝罪にいけばいいのか?

そもそも私が悪いのか?


人の気配がしたので、振り返ると、マヤが、立っていた。


マヤ「パソコンを開けて、そのブログを見せてくれない?」

恵介「え?」

マヤ「私ずっと後ろで見ていたの・・・」



マヤにブログを見せると、

マヤは、ショックのあまり無言で1階に降りた。




二人は、その後、会話自体がなくなった。





第4章  偽善





彼は、きっと体調がよくなれば、SNSで書くだろう。

そしたら、終わりだ・・・いや終わるのか?

私は、人として普通のことをしたまでだ・・・



私は、「谷津さん 感謝状」で、検索をした。



すると、感謝状をもらった記事や、またしても救出みたいな記事が出てきた。


そこに、8年前に助けた少女の感謝の言葉があった。


「中一の時にいじめにあって自殺しようとしたときに、

 谷津さんが助けてくれて、

 今は学校生活楽しくやっています。」


私は、ほんの少し心が和んだ。

やはり、大半が喜んでくれているはずだ・・・


自分に言い聞かせ、眠りについた。





2023年11月27日



10日程が経過し、私は、仕事に復帰した。


よそよそしい感じがするのは気のせいか?

すると、すぐに岩崎が来た。

「おい、まだ休んでろよ!なんで今日来るんだよ!」


岩崎は、怒っていた。

恵介「十分休んだからさ・・・」


岩崎は、スマホを取り出し私に見せた。




偽善者ヒーロー谷津恵介という男という記事だ。


恵介「え?なにこれ」

岩崎「昨日、深夜に投稿され、今炎上してるんだ。

   9時になったら、抗議の電話が、くるかもしれない」


すぐに花元副所長に呼ばれた。

花元「谷津部長、君にせいで抗議の電話が来るだろう。

   君にも言い分が、あるだろうし、

   君のやったことはある意味正義だ。しかし」

恵介「私が、抗議の電話に出ます。」

花元「谷津部長、自宅謹慎をしてくれ。」

恵介「大丈夫です。みんなに迷惑かけられません!!」

花元「君がいることが、迷惑なんだよ。

   こんなこと言わせないでくれ!」



花元副所長は、事なかれ主義の見本のような人だ。

確かに私は、区役所で浮いていた存在だ。

正義のヒーロー部長など揶揄されていたこともあった。


私の出世に対して、面白くない人はいるかもしれない。



みんなが、敵に見えてきた私は、

1か月謹慎を受け入れた。




私が家に戻ると、マヤは、何も驚いていなかった。

恵介「見た?」

マヤ「うん。」

恵介「迷惑かけるかもしれない。」

マヤ「もう色々調べるの辞めなよ。」

恵介「それはできないよ。」

マヤ「お願いだからノートを捨てて。」


私は急いで書斎に行くとノートはあった。

私は、安堵した。


マヤ「そんなにそのノートは、大事なものなの?」

恵介「拡散した人は、わかっている。彼に会わないと」

マヤ「もうやめてお願い。」

恵介「これが最後だ。わかってほしい。」



マヤは、1階に降りて行った。


久しぶりのマヤとの会話だったが、

後味が、悪いものになった。



私は、部屋で記事をじっくり見た。


内容は、

「自殺者を見つけ出し、助けて自分に酔う」

「そのあと、心配に来ることはないが、感謝状は、受け取る」

「お金目当てではないが、自己中心的ヒーロー」だと、


私は、見つけ出しているわけではない!

ただ、見つけたら助けるのが普通だろ!

私は、部屋で叫んだ。





恵介「今からちょっと群馬に行ってくる。

   今日中には、帰るからね。」

マヤは、何も返事をしなかった。



練馬駅から池袋駅に向かい、そこから山手線で上野駅、

北陸新幹線に乗り高崎駅まで行った。

高崎駅から、両毛線で7駅が伊勢崎駅だ。


私の育った町だ。

練馬駅から2時間半で、到着した。

時刻は、13時10分、駅前の餃子屋で食事をした。

中学校時代、友達とよく食べていたお店だ。


松尾君は、どんな反応をするだろうか?

私は、行くべきなのだろうか?

行かなければ、私は、前に進めない。


食事をとりながら、色々考えた。




そして、私は、意を決し、松尾君に会いに行った。

病院先が、変わってなければ、永井病院にいるはずだ。

受付に行くと、松尾周平は、入院していた。

受付を済ませ、3年ぶりに彼に会うことができた・・・



私は、彼にこんなことはやめてくれ。

悪気がなかったんだと伝えたかった。



5階にある個室に案内された。

部屋をノックしたが、返答はない。

30代ぐらいの女性看護師が部屋を開け、通された。



そして、彼を見た時、絶望した。

彼は、人と呼ぶにはあまりにも難しかった。

人工呼吸器を付け、左手だけは多少動く程度、

両足・右腕はまったく動かない。

口も麻痺してしゃべることが、できない。

目は、見えているが、焦点が、合っていない。

ただ、こちらの言っていることは、理解できるようだ。



看護師「知らなかったんですか?」

恵介 「はい・・・」




あのブログを書く時間は、とてつもなく長かっただろう

しかし、どうしてすぐに返信ができたのだろう・・・



彼は、PCを見ろという感じで、左手を差した。


そこに書いてあったのは、


「多分、来ると思ったよ。これを見てお前は何を思う?

 謝罪なんていらない。今すぐ俺を殺せ」



私は、膝をついた・・・

とにかく謝った。



何分謝っただろうか、看護師が無理やり、

私を外に連れ出した。

「あなただったんですね。でも、あなたは悪くないです。」


私の返事をずっと待っていたんだ・・・

私の返事が来たら、すぐ返事ができるよう文言をセットし

私の返事をひたすら何年も待っていたんだ・・・


それが彼の生きがいだったんだ。

そして、私にプレッシャーをかけ

その時に、SNSで拡散する算段だったのだろう。



私は、病室に戻らず、病院を後にした。


私は、帰りの新幹線の中、

ずっと、自責の念に駆られた。


彼は、一人で死ぬことができない。

それは、私のせいだ。

また、誰かを助けてしまったと驕り高ぶっていた。

彼の母親に、助かっても植物人間かもしれないと、

言われたにも関わらず、私は、感謝状をもらった。


私は、本当に自己中心的な男なのかもしれない。





私は、20時過ぎに、家に帰った。

マヤ「どこ行ってたの?」

恵介「昨日のブログを書いた人に会ってきた。」

マヤ「なんでそういうことするの?」

恵介「俺には確認する義務がある。」

マヤ「何言ってんの?こっちも大変なのよ!

   近所の人から白い目で見られてるし!」

恵介「それは申し訳ない。」

マヤ「もう最後よね?」

恵介「・・・・」


マヤ「朝言ってたわよね?」


恵介「3年前、正真とカブトムシ取りに行った時に、

   助けた青年のこと覚えている?」

マヤ「覚えてるわ。だから何?」

恵介「彼は、全身不随になっていた。

   言葉もしゃべることができないが生きている。」

マヤ「だから、家族のことは、知らないんですか?

   子供のことは、どうでもいいんですか?」

恵介「マヤは、彼の姿を見ていないから・・・

   罪悪感が凄いんだ。」

マヤ「これ以上、助けた人に会いに行くなら

   全てを捨てる覚悟で会いに行って!」

恵介「彼は、死にたいんだ。それを俺が、邪魔をした。

   その結果、もう彼は、死ぬことができないんだよ!」

マヤ「じゃあ、あなたは、どうするの?

   その方を殺すの?」


恵介「わからない。」


マヤ「ノート貸して、明日燃えるゴミだから

   捨てる。わかったわね?」


恵介「わかった・・・」



私は、マヤにノートを渡した。



家族は大事だ・・・

子供も大好きだ・・・

まだ、引き返せる。

騒ぎもあと少しすれば、治まるだろう。

これは、自己中心的な考えじゃないのか?


私は、2階の書斎で、食事も取らず、考えた。



マヤ・玲菜・正真のことを考えると、私が、

ここで、引き返し、通常の生活に戻るのが、ベストだ。

それは、わかっている。

それは、わかっているんだ・・・



しかし、私の頭の中には松尾君の姿や、

丹村さんの姿が、支配してしまう。

当時の丹村さんは、今の私ぐらいの年齢だ。

家に居場所がなかったのだろう。

奥さんとの仲が、完全に悪くなる前に死にたかったのだろう。

だから、最後、奥さんに死んでくると伝えたんだ。


私は、考えれば考えるほど、辛くなっていった。

とんでもない過ちを犯したのではないか、

と思うようになった。


「マヤごめん、俺は、全てを失ってでも、全部調べたい。」



私は、深夜、ゴミ箱からノートを取り出した。

そして、私は、辞表を書いた。




早朝5時、家族が起きる前に私は、家を出た。






9時前に区役所に着き、辞表を提出した。


花元副所長は、すんなり受け取った。

昨日の抗議の電話のことも何も話してくれない。

私が、辞めてくれれば、それでいいのだろう。




花元副所長は、早期退職の退職金などの話や有休など

淡々と私に説明した。


花元「以上で説明終わりです。何かありますか?」

恵介「今までお世話になりました。」

花元「お疲れさまでした。」



15分ぐらいだっただろうか

会議室から出ると、すぐに岩崎が、やってきた。



岩崎「お前は、悪くない。何かあったら連絡くれ。」

恵介「今までありがとう。抗議の電話どうだった?」

岩崎「そんなの気にするな、大丈夫だ、なんとかする。」

恵介「48歳で無職だよw」

岩崎「マヤちゃんと離婚するなよ。」

恵介「危ないかもな。」


最後に同期の親友岩崎と少し話した


彼は、会社の同期であり、大学からの友人。

私が、先に出世しても、

素直に喜んでくれた本当に良いやつだ。



私が、辞めれば、部長の座は空く、

岩崎が座れば、私としては本望だ。



続く

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後まで読んだら、ブクマ・いいね宜しくお願い致します。 href="https://narou.nar.jp/rank/index_rank_in.php">小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ