酒
おや?
ふと気がつくと僕は見慣れた居酒屋で寝落ちしていた。
酒を飲んだ特有の酩酊感がする。
ああ。
思い出した。
会社の飲み会で一気飲みしたんだっけ。
付き合いでの飲み会。
殆ど毎日じゃん。
うちの会社忙しい癖に飲み会多くね?
その帰り道。
飲み足りず何処かの居酒屋に入った思ったら此処か。
懐かしい。
何年ぶりだ?
あれ?
でも酒飲みすぎて入院して無かったか?
あ~~気のせいか。
「おう」
「ちわっす」
親父さんに会釈する。
「はしご酒で、そうそう寝落ちって、飲み過ぎも大概だぞ」
「いやいや~~これぐらいは普通ですよ」
「無理すんなよ。俺も人のことは言えんが」
「はい」
あれ?
「どうした?」
「いえ」
確かこの店の親父……結構な年齢じゃね?
確か今年で……七十代……。
とてもそうは見えないな。
そういえば親父さん童顔だったっけ。
「何だ? ジロジロと ?」
「いえ」
視線を下に向けチビチビと焼酎を飲む。
「る~~」
暫くして店のドアを見ると客が入って来た。
見知った顔に驚く。
「よう」
「おう」
マジか。
懐かしい。
「久しぶりだな」
「元気にしてたか?」
こいつは飲み友達だ。
本当に久しぶりだ。
「それはこっちの台詞だよ」
「悪いな。店主の親父に退院するまで来るなって、出禁食らっててさ」
「ふうん?」
僕は居酒屋の親父に目を向ける。
頷く親父。
この居酒屋で知り合い、僕たちは互いに意気投合し、酒友人に成ったのだ。
こいつの仕事は何だったかな?
ああ。
飲食店を経営してたか。
だから自由な時間が深夜しかないってボヤいていたな。
それで仕事が終わってから飲み歩いてたらしい。
こいつによると、飲食業の仕事をしてる奴の楽しみは大まかに分けて二種類らしい。
その定番が酒。
若しくは釣りだ。
それでコイツは酒派。
それが縁で知り会ったという訳だ。
面白いものだ。
人の縁というものは。
「僕達『自分達の会』の再会に乾杯っ!」
「付き合うぜ」
それから二人で飲み始めた。
ガンガンと。
ガンガンと。
というか親父さん?
何であんたも飲み始める。
店はどうした?
まあ~~良いが。
ガンガンと。
ガンガンと。
一時間ほどだろうか?
飲み始めて。
客はもう僕達しか居ない。
他の連中は何時の間にか居なかった。
これぐらいで帰るか。
そう思っった時だ。
ふと気になったので友人に尋ねた。
「なあ」
「何だ?」
僕の言葉に焼酎を飲んでる友人は視線を向ける。
「何で入院してたの?」
「肝硬変で」
「え?」
肝硬変で入院?
親父さんと同じじゃん。
あれ?
でも親父さん……。
あれ?
どうした?
というか肝硬変で入院するか?
いや……。
確かアル中を治すためには、専門病院に入院し管理治療が必要と聞いたことがある。
「だけどさ~~入院中にに我慢出来なくて、隠れて酒を飲んでたんだよ」
「おい」
ため息を付く。
「分かる」
親父さんもやったのかい。
「それでな」
「あ~~」
ため息が出る。
何やってんだか。
「最後は肝臓癌に進行した」
「俺も」
「は?」
呆れた。
本気で。
「うん?」
いやまて。
マテ。
マテ。
何と言った?
「そのまま治療の甲斐もなくポックリ」
「そうだな」
「え?」
何言ってるんだ?
眼の前に居るだろう。
二人共。
そう言いたかった。
そう。
「俺達みたいには成るなよ」
「そうだな」
親父さんと友人。
二人の顔には生気が感じられない。
正確に言えば土気色をしていた。
どす黒く。
吐き気を催すような腐った血の色。
どす黒い血管。
その顔色を見てコップを掴む手におもわず力が入る。
その恐怖に悲鳴を上げそうになる。
目眩がした。
最後の瞬間見た物を僕は生涯忘れないだろう。
腐ってグズグズになった二人の死体を。
吐き気を催す要すような腐臭。
だが目だけは。
めだけは。
生前の優しい目だった。
そのまま僕は気を失った。
気がつくと僕は知らない公園のベンチで目を覚ました。
「は?」
夢?
あ~~それはそうか。
親父さん五年前に癌で死んだっけ。
肝臓癌。
友人も。
「夢オチかよ……うん?」
何を手に持っているんだ?
そう思いながら手に持ってるモノに視線を移す。
「え?」
コップだ。
アルコール臭のするコップ。
先程まで夢の中で飲んでいたコップ。
それを握りこんでいたのだ。
僕は。
僕はコップを投げ捨て、奇声と悲鳴を上げながら、この場所から遁走した。




