第五十一話:逸脱者
『ガ……あ、ぁ…………』
大斧の刃は魔族の頸を断ち切るには至らず、半ばまで突き刺さるに留まった。
だが、元々満身創痍であった魔族にとって、それは十分に致命傷となったらしい。呻き声をあげ、力なく地に沈んだ。
そして、四肢の末端から徐々に光となって解けてゆく。
「……はぁー。ホントにしぶとかったな…………。達成感より安堵の方が強いや」
魔族の死亡を確認し、ようやくシヅキは体から力を抜いた。
……そのとき、シヅキの背後、曲がり角の辺りから何かが動く音。シヅキは反射的に振り向き────
ぱしゃり。カメラのシャッター音。
「……うん? プレイヤー? …………別にSS撮ってもいいけど、どうせなら可愛く撮ってよね~」
角からわずかに見えたのは、手指で窓を作るジェスチャーを行っているプレイヤーらしき人影。シヅキの記憶が確かなら、あれはスクリーンショットを撮影するための動作だ。
シヅキに撮られて恥ずかしいところなどはなく、そうである以上は別に無断で撮影されても構いはしない。それに、目撃者がいなければ偉業は偉業足り得ない。
だが、どうせ撮影するのならば、より写りが良くなるように撮って欲しいというのが乙女心。シヅキはプレイヤーの方向へ向けピースサインをしつつ、声を掛ける。
すると、彼、あるいは彼女はびくりと跳ね、すぐさま逃げるように駆け出して行ってしまった。
「……別に咎める気はないのに。ま、逃走間際にもっかい撮ってたっぽいし、別にいっか」
そうこうしているうちに、魔族が完全に光となって消え去った。これにて目標達成だ。
──魔族を討伐したことにより、スキル〈赤色権能〉を獲得しました──
──魔族を単独で討伐したことにより、スキル〈逸脱者:第三席〉を獲得しました──
落ち着いたところで足の痛みを思い出し、ぷるぷると震え出したシヅキ。その視界に、不意に二つのシステムメッセージが表示された。
「いたた……あ、何? スキル? こんな形で習得することもあるんだ……。……いや落ち着くとだいぶ痛いなこれ! 回復不能解除するためにさっさと帰ろう! うん!」
◇◇◇
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〈赤色権能〉
パッシブスキル(等級:Ⅴ)
内器の真の力を解放する
消費EXP:なし
解禁条件:魔族を累計1体討伐する
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〈逸脱者:第三席〉
パッシブスキル(等級:Ⅴ)
内器の習得可能数+2
消費EXP:なし
解禁条件:単独で魔族を累計1体討伐する
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「ほーん……? 真の力ね……」
宿の自室へと戻り、傷を癒したシヅキ。そのままベッドへ腰かけ、急に習得した謎のスキルを確認していく。
どうやら、これらはどちらも等級Ⅴのパッシブスキルである内器に関するもののようだ。
単独討伐報酬と思われる〈逸脱者:第三席〉については解釈の余地もない、非常に分かりやすい効果といえる。本来3枠である内器の習得可能数を5枠にまで拡大する、単純かつ有用なものだ。名称の席次は……獲得した順番だろうか。
だが、もう一つの〈赤色権能〉は説明が曖昧で、実際にどうなるのかは説明文からは読み取れない。それぞれの内器の方を確認しろということだろうか。
「ふむ……。わたしの習得してる内器は……?」
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〈内器:影なる刃〉
パッシブスキル(等級:Ⅴ)
武器攻撃力-50%(最終計算後に乗算)
攻撃時、直前の攻撃と同一の威力を持つ追加攻撃が2回発生する
※この追加攻撃は通常の攻撃として扱い、『攻撃時』『攻撃命中時』等の効果の適用対象となる
※この追加攻撃によって〈内器:影なる刃〉は発動しない
(赤色権能:追加攻撃回数+1)
消費EXP:1200Pt
解禁条件1:一度の攻撃でダメージを5回与える
解禁条件2:エネミーに攻撃を累計10000回命中させる
発見者:黒霧
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〈内器:無尽蔵の生命力〉
パッシブスキル(等級:Ⅴ)
HP+100%(最終計算後に乗算)
(赤色権能:倍率+50%)
消費EXP:1000Pt
解禁条件:HPが8000Ptに達する
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シヅキが自らの習得している内器を確認すると、そこには赤色の見慣れない文字列が追加されていた。
どうやら赤色権能の効果によって〈内器:影なる刃〉は攻撃回数が3回から4回に、〈内器:無尽蔵の生命力〉はHP増加の倍率が2倍から2.5倍に強化されるようだ。効力としてはどちらも1.5倍ということになる。
「えっ強っ……。HP3万超えちゃったよ」
これは思わぬ拾い物をした。シヅキはほくほくとしながら、そのままその他の事柄を確認していく。
「ドロップしたのは……素材、で……角? まぁ魔族の見た目ってほぼヒトだし、素材になるところなんてそれくらいしかないか。んで、経験値は……1000くらい増えたかな? たった一体倒しただけでこれなら破格だぁ。…………丁度良い、なにかもういっこ内器取っちゃおう。なにがいいかな?」
シヅキはスキル一覧を再度開き、習得可能な内器に目を通していく。だが、内器は等級Ⅴ、最上位のスキルだ。
当然、習得条件、あるいは情報解禁までの条件すらも難しいものが多く、今のシヅキが習得できるものは両手で数えられる程度しかない。
そんな数少ない内器の説明文を巡るうち、シヅキの目はとあるスキルに釘付けになった。
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〈内器:脳内魔術回路〉
パッシブスキル(等級:Ⅴ)
思考によるスキルの発動が可能になる
※外器及び■■■■は〈内器:脳内魔術回路〉の適用対象外となります
(赤色権能:この効果によって2つまで同時にスキルを発動できるようになる)
消費EXP:1200Pt
解禁条件1:10秒以内に10回以上スキルを使用する
解禁条件2:スキルを累計3333回使用する
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シヅキが目を付けたのは、思考によってスキルの発動を可能とする、ゲームシステム自体を拡張するような特異なスキル。
シヅキはCT0秒のスキルを複数保有しているため、これを習得できたのならきっとそれらが更に取り扱いやすくなるだろう。
「めっっっちゃ気になる記述があるけど、まぁそれは置いておいて……。血の刃とか血の鎖を一々唱えるのも手間だったし、この書き方からして多分CT0秒のスキルなら同時に使用できるよね。絶対強いよこれ。…………ふむ、〈血の鎖〉〈血の鎖〉〈血の鎖〉────」
しかし、解禁条件2こそ既に満たしているが解禁条件1は未達成。とはいえ、幸いながらやろうと思えば今すぐにでも達成できる類の条件だ。
シヅキはベッドに腰掛けたまま、口語発動と動作ショートカットを併用し、容易に10秒間の間に〈血の鎖〉を十度発動させた。
「よし達成。で、習得! さてさて……?」
早速効果を確認しようと、シヅキは脳内で『血の鎖×二回!』と唱える。するとシヅキの眼前で、六本の血の鎖がぴっちりと並んで出現した。
なるほど、これは便利だ。……〈血の鎖〉使用に伴う脱力感も倍になっているのを除けば。
「……これ口語と動作も併用できるよね? ……血の刃を同時に発動したらどうなるんだろ。判定4回……に影なる刃が乗って16ヒット? ……よし、〈血の刃〉ぁぎっ!!」
シヅキが剣を振った途端、今までのものよりも遥かに色の濃い────密度の高い血の刃が生成され、自室の壁に衝突した。
そして、それと同時にシヅキを襲う激痛。例えるならそれは、まるで全身余すことなく同時に針で突き刺されたような感覚だった。
「いっ……たあー…………そういえば血の刃は使用時に痛みが走るんだった……。一つ分の痛みはもう慣れちゃったけど、四つ同時だと流石にちょっとキツいなこれ……。使うのは赤き鮮烈なる死発動中だけにしよう、うん」
通常時は重ねられても二つが限界だろうか。だが、それでも相当な威力になるはずだ。二つなら脳内魔術回路のみで発動が可能なため、やろうと思えば全ての攻撃に血の刃を乗せることも不可能ではないだろう。
まだ少しだけEXPは余っているが、ひとまずこれでシヅキの自己強化計画は完了だ。
今のシヅキは外器中全てのステータスが600を超え、ひとたび剣を振れば16ヒットする攻撃力1500の飛び道具が乱れ飛び、予兆もなく出現する無数の鎖によって三次元的な機動力と悪辣な行動阻害能力をも備える存在となった。
凄まじいスペックだ。まさに逸脱者と言える。
「…………これ、冗談抜きで現在存在するプレイヤーでわたしが一番強いのでは……? ……いやでも、第三席ってことはまだ上に二人は居るのか。一人くらいはわたしより進んでるHP特化ビルドもいるかな? ま、いいや。それより早速リベンジに────」
≪Unlimited Gruesome:Rabid運営チームからのお知らせです。本日20時0分よりゲームの大規模アップデートと新規イベントを行います。つきましては、それに伴うメンテナンスが本日18時0分より開始され────≫
早速『真龍スカーレッド』へのリベンジに向かおうとシヅキがメニューからファストトラベル画面を呼び出した瞬間、視界に映るシステムメッセージ。
『本日20時より大規模アップデートを行う』。本来プレイヤーにとっては嬉しいことであるはずの知らせを見て、シヅキは何故か非常に、非常に嫌な予感がした。
「またえらく急な……あっ。……う~ん、杞憂だといいけど……」
ちらりと時計を確認すると、現在時刻は17:55分。これではスカーレッドにリベンジする時間はないだろう。
間もなくメンテナンスに伴う強制ログアウトが発生し、シヅキは悲しい顔をしたまま宿の自室から姿を消していった。
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Tips
『赤色権能』
魔族達が生まれつき強大な身体能力を有する理由。保有者の存在格を無条件に高める異能であり、遥か太古に人類から奪われたチカラ。
元は現行人類の持つ■■■■と合わせて一つの権能であり、内器は人類に僅かに残った赤色権能の残渣によって発現している……という設定。
ゲーム的には特別な強敵を倒したボーナスであり、外器を次の段階へ導く道標。とはいえまだ実装はされておらず、現段階においては単なるフレーバーに過ぎない。
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ここで第六章は終了です。
この後は、掲示板回と敗北ifを挟んだのち、第七章を(完成次第)投稿いたします。
※現在執筆に遅れが発生しているため、上記の間章の投稿は何日か日を空けた後に行われます。申し訳ありません。
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